第4-3話 君も不気味に感じただろうか

 漆黒──


 栗花落つゆりを包み込む炎を見て、凸守でこもりは一瞬だけではあるが不覚にも見惚れてしまった。


 その炎には人の感情を飲み込むほどの魅力があるような気がした。同時に、この炎には見覚えがあった。

(あ、あれは、確か──)

 凸守でこもりは以前見たテレビのニュースを思い出す。

 確か「連続人体発火事件」として報じられていたはずた。

(犯人はこの男だったのか!)

 確か黒い炎が突然、人の体から発火した──といった目撃証言があったはずだ。

 自分の顔が強張っていくのを感じていた。

(あのサングラスの男は、今「神威カムイ属性 天照アマテラスと言ったか?)

「トツさん!」

 小鳥だ。

 彼女の声に凸守でこもりはようやく我に返る。

 燃やされている栗花落つゆりに向けて、小鳥が水属性のスキルで消火を試みているのだった。

 大量の水蒸気が上がっている。

 一見するとうまく鎮火の方向に進んでいるのかとも思えたが、そうではなかった。

 相手は「神威カムイ属性」だ。

 一筋縄でいくはずもなかった。

 それはスキルを発動させている小鳥が1番よく理解できていたようだ。

 悲痛な叫び声が上がる。

「どうしよう! トツさん、消えないよ!」

 凸守でこもりの脳裏に、全身を泥に包まれた時のことが過ぎる。

「高橋」の「神威カムイ属性」の「阿夜詞志アヤカシ」スキルを食らった時のことだ。確か単一属性のスキルでは対応できなかったはずだ。

(ということは当然、あの黒い炎も水属性のスキルだけでは消せないはず)

「義兄さん! こっちに戻って来てください! その火は!」

 サングラスの男が口角を上げている。あたかも勝利した時のようにだ。

「迂闊でしたねぇ、敵の属性もわからないのに近づくなんて──!」

 笑みを作っていたサングラスの男の口が、今度は「おっ⁉︎」と丸くなる。

 それもそのはずで、激しい炎に焼かれている栗花落つゆりに、まるで怯む様子はなかったのだ。

 それどころか何事もなかったかのように、サングラスの男に向かって手を伸ばしているのだった。

「貴様か! ここ最近、街中で誰かれかまわず燃やしてるクソ野郎は!」

 サングラスをしているので確認はできないが、間違いなく目を丸くしていたはずだ。

「なんとういう精神力でしょう。アナタ、素人ではないようですねぇ」

 口元にまた笑みが浮かぶ。

「ですが、残念でしたね。

 アナタがワタシにその雷属性のスキルを食らわせることはできないのですよ」

 言い終わるのと同時に、凸守でこもりたちは目の前で起こった事象について、理解するのに時間を要することになる。


 理由は、栗花落つゆり姿からだ。


 最初、凸守てこもりは自分の目を疑った。単に自分が栗花落つゆりを見失っただけなのか、と。

 ところが小鳥が、

「お義兄さんはどこ?」

 と、つぶやいていたことで、見間違いではないことを悟る。


 そして次の瞬間──


 凸守てこもりたちの背後に突然、栗花落つゆりか現れたかと思うと、そのまま壁に叩きつけられてしまうのだった。

「な、なんだ……何が起こったんだ!」

 今起きたことが理解できず、ただサングラスの男と義兄を交互に見ることしかできなかった。

「ふ、ふざけやがって!」

 栗花落つゆりがふらつきながらもなんとか起き上がる。

 まだ炎に包まれたままであるにも関わらず動けるとは、にわかに信じがたいことだった。

「義兄さん!」

 |凸守は駆け寄って両手に闇属性のスキルを発動させる。

「ダブル闇属性 深闇の濃霧スキル発動!」

 すると黒い炎はどんどんは消えていくのだった。

「大丈夫ですか! 義兄さん!」

 手を伸ばしたが、すぐに振り払われてしまう。

「あのクソ野郎! 絶対に許さんからな!」

「ちょっと待ってください!」

「心配するな。このスーツは火属性の犯人と対峙した時用の耐火構造になっている。見た目よりも傷は浅い」

 とはいうものの、顔の皮膚はあちこちが焼けただれている。幸いなことに、消火が早かったため軽い火傷で済んだらしいようだ。

「お見事!」

 サングラスの男が拍手をしている。

「『大蛇オロチ』を使いこなせているみたいですね。アナタに任せておけば、しっかり

「おい! そこのクソ野郎!」

 栗花落つゆりは体の煤を払う。

「警察に攻撃を加えるってことは──覚悟はできてるんだろうな」

「ほう。アナタは警察の方でしたか。通りで焼かれてるのに動けるほどの強靭な精神を持っているわけだ」

 かすかに首を傾けると、意味ありげな言葉を口にするのだった。

「てっきりこの辺りのものだと思ってたんですがねぇ」

 |凸守(でこもり》たちは全員、怪訝な顔を浮かべた。

 中でも栗花落つゆりの怒りは限界だったようだ。

「ふざけたことばかりぬかすなよ!」

 と、身構えた瞬間、3人いた黒スーツのうちの2人が飛びかかって来る。

 栗花落つゆりは冷静に雷属性の電流を当てて気絶させるのだった。

「この程度で倒せるとでも思ってるのか」

 ふと見ると、サングラス男が拳銃を構えているのだ。

「義兄さん!」

 いち早く気がついた凸守でこもりが叫ぶ。だが、すでに栗花落つゆりは黒スーツの男たちに向かって動き出していたため、止めることができなかった。

「さようなら、刑事さん」

 銃弾が1発放たれる。

 ところがターゲットは栗花落つゆりではなかったようだ。


 サングラスの男の狙いは黒スーツの方だったのだ!


 頭に弾丸がめり込むと、血飛沫が飛び散る。

「当然、知ったますよねぇ。この世の『ことわり』のことを」

 サングラスの男は白い歯を見せていた。

 これまでに何度か笑みを見ているが、それはどれも作り笑いのような感じがしていた。

 ところがこの時のサングラスの男の表情は、心底楽しげな笑顔を浮かべているように見えた。


 頭を撃ち抜かれた黒スーツの男は、床に倒れる。


「死んだ人間のメイン属性は、半径6メートル以内にいるのサブ属性に入るんですよぉ」


 凸守でこもりはもちろん、栗花落つゆりもまた、サングラスの男が言わんとしていることが理解できた。


「黒スーツたちのメイン属性には『爆発系』のスキル、『BAMバム』が入ってるんですよ。

 つまり黒スーツが死ぬと『BAMバム』は──刑事さん、アナタのサブ属性に入るんですよぉ」


 ドカン!

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