第4-2話 君も不気味に感じただろうか
「どうして教えてくれなかったんですか!」
ただし、
「バカバカバカ! トツさんのバカ!」
何度も
「どうしてくれるんですが! 刑事さんに水かけちゃったじゃないですか! 全部トツさんのせいですからね!」
「なんでそうなるんだよ!」
「そもそもだな、見知らぬ人間にいきなりあんなことをする奴があるか!」
「高橋」との戦闘で襲われそうになった際に股間を蹴り上げたことでもわかるように、かわいらしい見た目に反してかなり気の強い娘だ。ただ、まさかここまでとは思ってもいなかったのだった。
「だって……あまりにも失礼なんだもん……」
「だからって──」
呆れて天井を仰いだが、それよりも
「そんなことより、小鳥」
一際声を落とす。視線は無意識のうちに
「くれぐれも小鳥のサブ属性に入ってるアレのことは、内緒にしてくれ」
「トツさんの奥さんのメイン属性だった『
「シッ! 声がデカい──義兄さんはまだそのことを知らないんだ」
実は「高橋」との戦闘が終わった後、警察で聴取されたのだが、小鳥には黙っているようにお願いしていた。
幸い妻の「
「でも、血が繋がらないとは言っても、兄妹なんですよね? それなのに内緒っていうのはどうなんでしょう……」
実は妻が13歳の時に
「だからこそだ」
「どういうことですか?」
「聴取される前にも説明したと思うが、『
妻は『やっとできた家族だからそれだけは避けたい』って言ってな」
「気味が悪いなんて言われますかね? むしろ私が刑事さんの立場なら、秘密にされてる方がショックかも……」
「頼む! これは妻の願いなんだ」
顔の前で手を合わせると、小鳥は渋々であふものの「わかりましたよ」とうなずく。
「亡くなった奥さんのお願いって言われたら、ダメって言えないじゃないですか」
小鳥の口調が、どこかしみじみしたようなものになり、視線は遠くを見ているようだった。
「奥さんは20年以上も秘密にしてたんですもんね。それを身内でもない私が勝手に話しすするわけにはいきませんよね」
「助かるよ」
「その代わり!」
小鳥はそっと別室にいる
「私が逮捕されて牢屋に入れられないように、ちゃんとフォローしてくださいよ!」
「そんな大袈裟なことにはならないと思うが……」
「断言できますか! それとも私が牢屋に入ることになったら、トツさんが代わってくれるんですか!」
「いや、さすがにそれは無理だと思うが……」「だったら私を全力で援護してください!──わかったら行きますよ! トツさん!」
覚悟を決めたらしい小鳥は
ソファに腰かけていた
「水をかけた挙げ句、客人をたっぷりと待たせるなんて、いい度胸をしてるじゃないか」
小鳥は「すみません」と、しおらしく頭を下げるのだった。
「警部さんはお気付きではなかったでしょうが、実はトツさんから、『おかしな依頼人が来た』って合図ありまして」
「その場合、私が水をかけて追い出すってことになってまして。私はただ、所長の指示に従っただけなんです」
もちろんそんな打ち合わせなどしていない。第一、どこの世界に、やって来た依頼人が変だからと水をかける探偵事務所があるというのだ。
「だからどうか、逮捕するならトツさんを──」
「ステータスオープン」
「ちょっと! 勝手に他人のステータス見ないでよ!」
・氏名
・年齢 24
・メイン属性 水
・サブ属性
「サブ属性がエラー?」
「な、何か問題でもありますか?」
「どうしてエラーのままにしてるんだ。サブ属性なら、申請すれば好きな属性と取り替えてもらえるのに」
「べ、別に私の勝手じゃないですか。こ、こ
こ、これはお婆ちゃんの形見なんです」
「形見? エラーが?」
「そうなんです!」
「小鳥は子供のころからお婆ちゃん子だったそうなんです。
メイン属性が『
「そ、そうなんです!」
「お前たちは私に何かを隠しているな」
「お水かけて、ごめんなさい!」
急にテーブルに突っ伏すと、小鳥はおでこをこすりつけた。
若い女の子に頭を下げられて、
「さっきのは全部嘘なんです! 合図なんてないんです! どうか許してください! だから刑務所だけは……」
|栗花落(つゆり》は眼鏡を押し上げると、呆れたようにため息をつく。
「こんなことでいちいち刑務所に入れてたらパンクしてしまうよ」
「じゃ──」
「だが、逮捕することはできる。あれはれっきとした暴行だし、公務執行妨害て捕まえてもいいんだ──」
そこまで言って、
それは
(この臭いは──)
何かが燃える様な臭いがする。
タバコの臭いであるのは間違いない。が、それ以外にも何か不快な臭い混じっている気がする。強いて言うのなら──死体が焼けるような臭い、といったところだろうか。
「ト、トツさん⁉︎」
小鳥を背中側に移動させたのと同じタイミングで、勢い良く事務所のドアが開けられた。
「やあ、どうも。お初にお目にかかります」
黒髪を七、三に分け、真っ黒なスーツを着た男が両手を広げて入って来たのだった。
サングラスをかけているため、表情は読み取れないが、口元には軽薄そうな笑みを作っている。
やたらと背が高く、175センチの
「おや? どうしてそんな身構えてるんです? せっかくヒマそうな探偵事務所に依頼人が来たというのに」
「よくもそんな見え透いた嘘がつけるもんだな」
「おやおや、嘘とはずいぶんな言い方ですねぇ」
「そんな殺気を出しまくってる依頼人なんかいるかよ」
「これは失礼。隠し切れてませんでしたか? ワタシもまだまだですねぇ。
ではバレてしまったのなら隠しても仕方がない。
みなさん入って来たください」
サングラスの男が合図をすると、背後から足音もさせずに黒スーツを着た男たちが入って来るのだった。
見覚えのある男たちだ。
「あの『高橋』って男の復讐に来たってわけか。仲間思いなんだな」
言い終えるのと同時に、背中の方で緊張感が走ったのを感じた。
小鳥だ。
無理もない。
「高橋」との戦闘で、小鳥は婚約者を失っているのだ。平静でいられる方がおかしいというものだろう。
「おやおや、探偵さん。ワタシと『高橋』さんが仲間だなんて心外ですねぇ」
サングラスの男は映画に出て来る外国人俳優のように、大袈裟に手を広げているのだった。
「『高橋』さんはワタシの仲間ではないんですよ。確かにワタシも『
もちろんこっちの方もね」
指で頭を叩いている。
つまり自分の方が頭がいいと言いたいのだろう。
(堂々と正面から探偵事務所に乗り込んで来るとは、かなり不遜な男のようだな。それとも負けない自信となる環境があるのか──)
自然と戦闘体制になる。
(なんの策も無しに来たわけじゃないだろうからな。ということはこの男も当然、「
「義兄さん、コイツは間違いなく──」
いつの間にか、
「誘拐犯の『高橋』の仲間で、『
だったら遠慮はいらないってわけだ」
バチチチッと音を鳴らしていて、触れるとタダでは済まないのは一目瞭然だ。
サングラスの男は口を丸くしている。
「おや? 両手に雷──ってことはダブル雷属性ですか? 通りで動きが目で追えないはずだ」
「とりあえず、気絶してもらうぞ。詳しい話は署の方で聞いてやろう」
「さあ、そんなに簡単にいくでしょうか」
「『
次の瞬間、
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