第8-5話 君の目的は一体……(第1部完結)
「も、もう終わったんですか……」
そっとドアが開かれると、小鳥が顔を出した。外が静かになったため、様子が気になったのだろう。その後ろから美兎もついて出て来た。
小鳥は忙しなく左右を見渡たし、一応の安全の確認ができふと、ゆっくりとドアから体を出すのだった。
「トツさん?」
探偵の背中に、恐る恐るといった感じで声を投げかける。が、反応がない。
不審に思った小鳥はまた1歩2歩と歩を進めると、ピタリと足を止めるのだった。前方にいる人物を見て息を呑むのだった。
「嘘……」
かすかに体を震わせる。
「どうかしたのか、小鳥」
続いて出て来たのは美兎だ。彼女もまた、前方に視線を向けた途端、絶句するのだった。
「ま、まさか……」
千鳥足で部屋から出て来ると、口からこぼれた、といった感じでこう言ったのだった。
「は、博士……どうしてここに?」
全員が美兎を見た。
「何を言ってる!」
真っ先に反応したのは
「『あの人』が博士なはずがないだろう!」
(妻が──
「お前たちに問う」
長い髪に憂いを帯びた、少し吊り上がったアーモンド型の目。弓形に整えられた眉。上唇よりもやや肉厚な下唇──
どこからどう見ても
「お前たちは《どちらに》つくんだ。この国か? それとも我々『
沈黙が訪れた。
目の前にある光景が信じられなかったのはもちろんだが、
どんな理由があろうとも、人の命を奪ってはならない──頭ではわかってはいるが、「
まして「鈴木」の話を鵜呑みにするのであれば、「
ということは妻もまた──
「我慢ですね」
そう言ったのは
「わたしは警察官になった時から、この国を、そしてこの国の国民の生命を守るために人生を捧げると誓った。その気持ちに一点のブレもありません」
「相変わらずの堅物ね。お兄さん」
「じゃ、他の人はどう?」
(おそらくそれも、奴らの作戦なんだろう……)
「みんなの目には、
全員が怪訝な表情を作る。
「トツ。どういうことだ」
「これはおそらく、見る人間によってさまざまな幻を見せるスキルなんだと思います」
「何⁉︎」
「俺には妻の
「祖父だ」
「僕は死んだはずの母ちゃんが」
「ワタシは言った通り博士だ」
「わ、私は……」
どういうわけか、小鳥が言い淀んでいる。だが、この時の|凸守にはそのことに気がついてやる余裕はなかったのだった。
「やはりそうか。これは人によって見える人間が違うんだ」
すると「チッ!」という舌打ちが聞こえた。どうやら「高橋」のようだ。
「チンタラしってからだろォ! 手品がバレちまったじゃねぇかよォ」
「だから黙れよオッサン!」
次の瞬間、大きな爆発音。
「鈴木」がいた部屋の方だ。
「トツさん」
不意に名前を呼ばれ、振り返った|凸守は目を見張る。
悲しそうな表情を作ると、口をパクパクさせていた。
アナタ ノ セイ ダカラ ネ──
響く銃声。
「ダブル闇属性 闇の渦スキル発動!」
部屋の中に充満した邪気はたちまち
「なんですか、これは⁉︎」
「おそらく精神的ダメージを与えるスキルなんだろう」
「なんだって⁉︎」
|栗花落も眉根を寄せているのを見て、
「自分に関係する人物が見えていたはず。そしてその人は自殺しませんでしたか?」
「ああ」
「びっくりしましたよ。いきなり母ちゃんが包丁を持って首に当ててたんですから」
「自ら命を断つ姿を見せられたら、誰だって平静ではいられない。それによって精神を崩すのがこのスキルの目的だと考えて間違いない」
「おいおい!」
声を上げたのは「田中」だ。
「まったく闇属性ってのは厄介だな!」
「でもよォ。1回発動したってことはよォ。次は6秒経つまで闇属性は発動できないんだろォ」
「だな。てことでオッサン、やるぜ」
「指図すんなよォ」
「『
「『
広範囲の炎の泥が押し寄せて来る。
(マズイ! 闇属性はまだ発動できない!)
だが相手は「
致命傷を覚悟したその時だった。
「
真っ赤な炎と泥が襲ってくるが、カプセルはビクともしない。
「こ、これは……」
振り返ると、1番後ろで両手を合わせ、まるで拝むような格好をしている美兎がいた。
「
美兎の視線はそこにいる仲間たちを超えて、前を見据えている。
「なんなんだよぉ!」
口惜しそうにしているのは「高橋」だ。わかりやすく地団駄を踏んでいる。
「
「面白れぇじゃん」
不適な笑みを浮かべているのは金髪の「田中」だ。
「それでこそ叩き潰す甲斐があるってもんだぜ」
「そんな呑気なことを言ってる場合かよォ。面倒なことになるんだからよォ」
「簡単に終わったんじゃつまんねぇだろうが」
「ならテメェが1人でやれよォ」
この2人のいがみ合いはもう見慣れたもので、誰もそちらの方には注目していない。むしろ
「ではみなさん。一先ず、退散させてもらうとしますか」
「鈴木」だ。
立ち去る時、「田中」は自分の両目を指差し、それを
それに対して「高橋」は呆れたように頭を振っていた。
「
「ここから出せ! 奴らに逃げられてしまうぞ!」
「ダメだ」
美兎は至って冷静そのものだった。
「向こうには少なくとも1人、得体の知れないスキルを使う者がいる。今追いかけても犬死にする可能性が高い」
つい先ほど
「ここはまず、立て直すことが先決だ」
完全に「
すぐに
壁に大きな穴が空いていた。
爆発音は爆発物で壁を破る時の音だったのだろう。
倒れている警察官たちの脈を取る。まだ息があるようだ。
「こちら
「よく気がついたな、探偵。人によって見えているものが違うと」
「義兄さんの反応がおかしかったからな。らもしも俺と同じように妻が見えてるなら、敬語で話すのは奇妙だと思ったんだ」
「そうか! ツユさんにとっては妹さんですもんね。敬語は変ですよね」
と、その時、悲鳴が上がる。
小鳥がその場に膝をついて、体を震わせているのだった。
しかも単に震えているのではない。明らかに様子がおかしい。
どんどん体の震えが大きくなる。
「ああああああああああああっ!」
およそ小鳥の口から出たとは思えないほどの叫び声だった。
白目をむき、口から泡を吹き出した。
「こ、小鳥! どうした⁉︎」
そさてそのまま床に突っ伏してしまうのだった。
「小鳥! 小鳥!」
何度呼びかけても、小鳥は目を開けることはなかった。
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