第7-5話 君も戦ってくれるか
あまりにも予想外の出来事だったため、
とはいっても、ほんの数秒のことだった。
だがそれは、
まず「鈴木」は、右手に発動させた「
「ぐわっ!」
黒い炎に包まれた
さらに
誤解なきよう解説しておくと、これはいわゆる「伝達」ではなく、単なる「延焼」だ。火事の時に周りの民家も燃えるのと同じ仕組みだ。
それでも効果は十分だ。
数少ない戦闘員が、一時的にではあるが戦闘不能になったのだから。
「グッ!」
脇腹に耐え難い痛みを覚える。
何が起こったのか、理解できなかった。「鈴木」の持っている属性は「
どちらもこんな鋭い痛みを与えるられる属性ではなかったはずだ。
答えは、実際に痛みを覚えた箇所を視認して理解できた。
スキルによるものではなく、もっと原始的な攻撃によるものだったのだ。
耐えがたい痛みに顔が歪む。しかしこんなことで怯むわけにはいかない。
闇属性のスキル発動させた右手で「鈴木」に触れようと手を伸ばす。
(「鈴木」の記憶を消されば、行動ができなくなる──)
だが、それよりも早く手首をつかまれる。巨大な体躯らしく力は凄まじく、|凸守は《腕を折られるのではないかと覚悟した。だが実際に床に投げ飛ばされる。
「トツ!」
雷属性を使って一瞬にして駆けつけた
「このクソ野郎が!」
完全に敵の背後を取ったかに思えた。が、次の瞬間、
離れた場所から自分を見つめる偽警官と目が合っていた。その時に警察官として磨き上げた勘が告げていた。
奴もまた「
でなければ、わざわざ「鈴木」と共に大勢の警察官が待ち構えているこの場所に来るわけがないのだ。
(マズイ!)
認識した時にはすでに遅かった。
「ツユ!」
「ツユさん!」
だが残念ながら
「
2人がスキルを発動するよりも一瞬だけ早く、邪悪な黒い炎は一瞬だけ姿を消すと、再び現れる。
その時にはもう、警察官たちの全身を黒く燃やしているのだった。
「さてと」
「鈴木」は悠然と辺りを見回す。
はるか後方では
続いて見たのは
こうしている間に2人は燃やされ続けていて、すでにプロテクターは溶けている。生身の体を焼き始めているのだった。
「さあ、どうしますか?」
最後に「鈴木」が見た相手は、
崩れたビルの壁にもたれるように座っている。息が荒い。むろん理由は脇腹に刺さったナイフのせいだ。
赤黒い血が徐々に床に広がっていく。
「このままでは全員が死ぬのは時間の問題なのは、わかりますよね?」
「鈴木」は適度に距離を取ると、その場にしゃがみ込む。
「どうでしょう? アナタとあの小鳥さんと言う方が我々の仲間になるというのなら、他のお仲間の命は助けましょう」
「こ、断ったら?」
「もちろんこうなります」
「鈴木」が
「驚きましたか? ワタシは『
「やめろ!」
とはいっても、2人の体は黒い炎に包まれたままだ。プロテクターはほぼ溶けてしまっていて、わずかに肉が焦げる臭いがする。
「では
「わ、わかった……仲間になる。だから──グッ!」
「鈴木」が脇腹に刺さったナイフを踏みつけるのだった。
「そんな言葉を信じると思いますか?」
痛みで気が遠のいていきそうだ。
「どうやら気絶しそうですね。そうなれば貴方を運びやすくていい」
「鈴木」は
「では、他の3人は燃やしてしまいましょうか。その後でゆっくりと
「鈴木」はまず
「『
言い終えるのと同時に2人の体を包んでいた炎がこれまでよりもさら大きく燃え上がる。
2人はもはや身悶えすることすらできず、ただ燃やされるしかない。
「や、やめろ……」
万事休す──
「キュウさんとケツさんの炎は、燃やすのを止める!」
小鳥だ。
離れた場所で、護衛の警察官たちに囲まれている。
次に
彼らの体を包み込んでいた黒い炎は、まるでハリボテのようにゴロリと床に落ちるのだった。
2人のダメージは決して少なくはなかったが、「うぐぐっ」とうめき声がすることから、どうやら一命はとりとめているらしい。
「トツさん! 大丈夫⁉︎」
「姿を隠せ! 小鳥を偽警官に見せるな!」
だが、必死の訴えは意味をなさなかった。
「『
次の瞬間、小鳥の体は宙に持ち上がる。
「え⁉︎ な、何⁉︎」
数十メートルは向こうにいたはずの小鳥は瞬時に「鈴木」に捕らえられてしまったのだった。
護衛のための警察官たちは戸惑い、小鳥と自分たちのいる場所と何度も見比べている。
「何をしている!」
叫んだのは
全身に火傷を負っているとは思えないほどの、腹に響く声だった。
「全員! 攻撃態勢を取れ! 目標『鈴木』、他1名! 直ちに捕獲、もしくは駆逐せよ!」
たちまち警察官たちの統率を取り戻す。
全員がライフルを構えると、一斉に射撃を繰り出すのだった。
だが、やはりタイミングが遅かった。
小鳥を担ぎ上げた「鈴木」は素早く柱の影に身を潜めてしまっていた。
放たれた無数の麻酔弾はあえなく空振りに終わってしまう。虚しく重力に負けて、麻酔弾は床に落下してしまうのだった。
「危ないところでした」
柱の影に避難できた「鈴木」はおどけた調子で額の汗を拭った。
「まさかこの場面で『|月詠「ツクヨミ》』が出て来るとはねぇ。まあ、こちらとしては幸運でしたが」
そして「鈴木」はふと背後を見る。
「『伊藤』さん、
「も、もう少し休憩、し、し、したいで──グェ!」
「鈴木」が「伊藤」の腹に蹴りを入れたのだった。
「このグズが!」
憎々しげにつぶやくと、今度は小鳥を見る
「これが『
そう言って肺一杯に空気を吸い込む。
「おかげで『
咳き込んでいる「伊藤」を見下ろす。
「では『伊藤』さん。次にあの探偵さんをこちらに移動させてくれますか?」
「わ、わ、わかりました……」
うなずいた「伊藤」は、小鳥を抱えた「鈴木」の脇を通る。
そして
「闇属性 伝達された2つの闇の霧スキル発動!」
「ん?」
「え?」
小鳥が「鈴木」と「伊藤」の頭に触れているのだった。
「2人の記憶は闇の中の霧に消える」
頭の上にかかった黒い霧は、徐々に2人の顔を覆っていく。
霧が晴れた時にはもう、「鈴木」と「伊藤」は虚な目をして、動かなくなってしまったのだった。
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