第7-4話 君も戦ってくれるか

「では、行きます!」

 ショットガンを持った法華津ほけつが突っ込んでいく。

「おやおや。わざわざ死に来た──わけではないようですね」

 柱の影から顔を出した「鈴木」は楽しげに笑う。

さん、いけますか?」

 かたわらにいた偽警官──「高橋」と呼ばれた少女はうなずく。

「大男の後ろにも2人いるようですが」

 法華津ほけつの足元に、凸守でこもりいちじくの足が見えているのだ。

「なるほど。先頭の大男が盾役タンクで、残りの2人が治癒役ヒール攻撃役アタックってわけですねぇ」

「誰を燃やしますか?」

「うーん。セオリーから言えば|治癒役「ヒール》を狙うのですがねぇ」

「鈴木」はチラリと「高橋」を見た。

「とりあえず大男にしましょう。今の『高橋』さんでは、後ろの2人を狙うのは難しいでしょうから」

「了解です」

 カッと目を見開くと、視界に法華津ほけつを捉える。

 それを認識した法華津ほけつは「見られました!」と叫ぶ。そしてショットガンを放つのだった。

「おととと」

「鈴木」たちはすぐに柱に身を隠したため、放たれた仮死弾は空振りに終わる。

 法華津ほけつは走りながら装填していると──

「あっ!」

 また「高橋」が顔を出したのだった。

「見られました!」

 次の瞬間、法華津ほけつの肩が燃える。

「ぐわっ! やられました!」

「任せろ!」

 大きな法華津ほけつの背後から凸守でこもりが顔を出すと、両手で炎に触れて消し去るのだった。

「とりあえず、脇にされるぞ」

 いちじくの合図で凸守でこもりたちは近くにある柱に身を隠す。その間にいちじくがショットガンを打って2人を援護し、無事に身を隠せたのを確認すると、自らも合流するのだった。

「思ったよりも進みませんでしたね」

 法華津ほけつは元いた場所を振り返る。身を隠した柱までは約10メートル弱ほどだ。

 前方を見ると、「鈴木」たちがあるところまではまだ30メートルほどはありそうだ。

「十分だよ」

 凸守でこもり法華津ほけつの肩を叩く。

「それにこれは奴らに近づくのが目的じゃないんだしな」

「その通りだ」

 いちじくは無線を使う。

「ツユ。わかったか?」

『ええ。しっかりと確認できました』

 10メートル後ろで栗花落つゆりが力強くうなずいているのだった。

『まず、「鈴木」の「天照アマテラス」を操ってるのは偽警官だと考えて間違いありません。

 正確に言えば、「操ってるのではなく」「見た場所に移動させている」のでしょう』

「見た場所に移動させるって、つまりテレポーテーション、みたいなことですか?」

 よほど驚いたのだろう。法華津ほけつはマスクを上げて目を見開いている。

「だが、これはある程度予測していた通りだ」

 凸守でこもりは探偵事務所で「鈴木」たちと対峙した時を改めて思い出す。

 燃やされた栗花落つゆりがそれでもなお「鈴木」に反撃しようと試みた瞬間、凸守でこもりたちがいる背後の壁に激突したのだ。

 吹き飛ばされたのなら、栗花落つゆりが通り過ぎて壁にぶち当たる瞬間を目にしていたはずなのだ。

 ガガッ! とノイズが入る。

『そしてまず間違いなく、あの偽警官は「視認タイプ」です』

「てことは、偽警官が見た者に対してスキルを発動できるってことだな」

『はい。おそらく「天照アマテラス」をあらかじめ発動させておき、偽警官がそれを視認します。その後目を瞑り、次に見た場所に移動させることができるのでしょう』

 凸守でこもりの3人は互いに顔を見合わせていた。

『一見厄介なようですが、なぜ警官はまだこのスキルを完璧には使いこなせてはいないようです。

 根拠はトツを狙わなかったからです。我々の中で唯一、「天照アマテラス」に対抗できるスキルを持ってるトツを狙うはず。

 そうしなかったのは、ピンポイントに狙った箇所にスキルを発動させられなかったからだと考えていいかと』

「さすがだな、ツユ」

 いちじくは肩を揺すっている。マスクのせいで表情は読み取れなかったが、誇らしげに笑っていたはずだ。

「あの一瞬でそこまで分析するとは。やはりお前は冷静になればすごい奴だ」

『キュウさんにしごかれましたからね。それにまだわかったことがあります。「鈴木」も、そして偽警官も「特殊属性のことわり」に該当するってことです」

「6秒ルールか……」

 凸守でこもりはつぶやくように言った。

  闇や光属性のことを通称「特殊属性」と呼ぶ。そしてこれらの属性には「理」が存在するのだ。

 それはスキルを発動させてから「6秒の間」に、誰かに対して効力を発揮しないと無効になってしまう。

「それって、トツさんの『闇スキル』を発動させたら、6秒の間に『|天照「アマテラス》』に触れないと、効力がなくなるってことですよね?」

『そうだ。そしてその「6秒間ルール」のもう一つの理。スキルを発動したら、6秒間は新たにスキルを発動できない、ということだ。

 偽警官がわたしたちを次々に吹っ飛ばさないのがその理由だ』

「ということは──」

 凸守でこもりは数十メートル後方にいる栗花落つゆりを見てうなずく。

 すると栗花落つゆりも力強く顎を引くのだった。

『「鈴木」が「天照アマテラス」を発動し、偽警官がそれを移動させるためのスキルを発動したら」

「そこに空白の6秒間が生まれるってわけですね、義兄さん」

『そういうことだ』

「ツユさん! 天才!」

『こんなものは朝飯前だ』

「謙遜しちゃって。こっからでもツユさんのドヤ顔見えますよ」

『ふざけてる場合か』

 一瞬、場が和んだ。

 凸守でこもりは我がことのように誇らしかった。同時にこの戦いの希望の光が見えた気がしたのだった。


「そんなにうまく行きますかねぇ」


 振り返ると、そこに「鈴木」が立っているのだった。

 ガガッ!

 またノイズが入った。

 栗花落つゆりの悲壮感漂う声が響く。

『みんな! 逃げろ!』

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