第7-3話 君も戦ってくれるか
「うぅっ……」
吹っ飛ばされたことに加え、床に打ち付けられたため、その衝撃が全身に痛みとなって駆け抜けているのだ。
もはやどこが痛いのか判別できないでいた。ただ、不幸中の幸いなのは、手足を動かす限り、骨折などの大怪我は免れているらしいことだろう。
(とりあえず、痛みを取り除こう)
闇属性のスキルを発動させた手を全身に当てていく。正確にいえば痛みが消えたわけではなく、感じなくなっているだけなのだが、それだけでもかなり楽になった。
頭の痛みもなくなると、徐々に周りの状況が見えて来る。
「そんな……」
目の前の光景は、到底受け入れられるものではなかった。
旅客機の頭の部分がビルの一階に突っ込んだ状態で、柱は曲がり、ガラスは割れ、あちこちにはプロテクターを付けた警察官たちが倒れているのだった。
建物の奥にいた
「ぐっ……」
隣にいた
「何が起こった。何か巨大なものが突っ込んできたようだが──」
天井を見上げた
どうやらビルは根本から折れ曲がっているらしい。
天井があるはずの位置にはシャッターが降りた窓が見えるのだ。
それでも倒壊しないのは、さすが国が有事の際に本部となるよう作った建物だといったところだろうか。
ただ、ここが地獄絵図と化してしまったの間違いなかった。
「ぶ、無事か!」
「生存者は応答しろ!」
しばらくして「カガッ!」とノイズが入る。
『こちらは
一先ず
ただし、他のチームからの応答はない。比較的建物の奥にいた
屋上にいたチームもまた、ビルが傾いたことで転落したのだろう。
「ということは、ぼくたち以外は全滅ってことですか?」
「いや」
頭を向こうに向けているため表情は見えないが、必死に立ちあがろうともがいている。
「わたしが行きます!」
マスクをつけると、
「もうっ! ツユさんは!」
「ケツはここにいろ!」
「ちょ、トツさん! アナタは民間人でしょ!」
そんな声を背中で聞きながら駆け出す。
「大丈夫か?」
先に到着した
「どこを傷めた? 息はできるか?」
駆けつけた
「どうですか、義兄さ──」
「離れて!」
慌てて
「女⁉︎」
あどけない表情をしているところを見ると、まだ10代と思われる。少女と言って差し支えないだろう。
「お前は誰だ」
一瞬、
この緊迫した雰囲気の中で、しかも敵を目の前にしたこの状況でありながら、少女はあたかも自宅に寝そべっていたら誰かに呼ばれた、といったような仕草で《「あさっての方向》》を向いたのだ。
そしてすぐさま少女は
ただし、今度はどういうわけか目を閉じていた。
「一体この子は何を……⁉︎」
少女がカッと目を見開いて2人を見たからだ。
正確には
「後ろだ!」
離れたところにいた
「やあ、お久しぶりです」
そこにいたのは「鈴木」だった。
「『
そして次の瞬間──
「グアアアッ!」
2人の全身が漆黒の炎に包まれる。
それでも前回と同様、
燃やされながらもライフルを構えると、銃口を「鈴木」に向ける。
だが、距離が近過ぎた。
引き金を引くよりも早く、「鈴木」は銃身をつかみ、自らの顔面を捉えていた銃口を上に向けた。
仮死弾はあえなく天井に当たって砕ける。
ライフルもまた黒い炎に包まれると、あっという間に曲がってしまう。まるで飴細工のようにだ。
「このクソ野郎め!」
ライフルを「鈴木」に投げつけると、両手に雷のスキルを発動させる。
「義兄さん!」
「トツ! 何をしてる! 離せ!」
暴れる
「鈴木」が追って来ようとするが、
当たらなかったが、「鈴木」たちは柱に身を隠してやり過ごさねばならなかったため、追撃を許さなかったのだった。
なんとか仲間の元へと辿り着いた
「大丈夫か!」
|九は「鈴木」と少女にライフルの銃口を向けたまま叫んだ。
「は、はい! なんとか……」
焼かれた状態で大きく空気を吸い込むと、黒い炎も一緒に吸い込んでしまい、肺を焼かれかねないからだ。
「この臆病者め! あそこで仕留めるべきだろ!」
「落ち着け! ツユ!」
「しかし!」
「トツの判断が正しい。あのままでは『鈴木』を倒す前にツユは焼かれてたはずだ」
改めて「
想定していたよりも火力が強い。もしもこれが生身のままだったらと思うとゾッとするのだった。
「クソッタレ!」
使い物にならなくなったプロテクターの残骸をはぎ取ると、床に投げつけた。プロテクターは床ではしゃげてしまう。
「すみません。お手数をおかけしました」
「仕方ないさ。仲間をヤッた奴らを目の前にしたら誰だって我を失うさ」
「他府県への応援をだしているが、いつ来るかわからん。自衛隊にも要請するよう掛け合ったが、横の繋がりがどうのとラチが開かない。つまり我々がこの日本の最終防衛となるわけだ」
|凸守は内心では(ずいぶん重たい任を背負うことになってしまったな)と顔をしかめた。
「今のところ『
「ど、どうかしたんですか⁉︎」
「ケツ! 動くな!」
対応が早かったおかげで、プロテクターの表面がわずかに焦げただけですんだのだった。
「とりあえず隠れましょう。
「奴さん、炎を飛ばせんのか」
「そんなはずはありません」
「間違いなく『鈴木』は接触タイプです。何より、1番後ろにいたケツを燃やすために火を飛ばしたのなら、その間にいる我らの誰かが見たはずですが──トツ! 見たか!」
突然を声をかけられたので戸惑った。が、すぐに「いえ」と答える。
「わたしもだ。キュウさんはどうです?」
「何も見ていない」
「『
向こうも同じように柱に身を隠したまま、
「義兄さんが言うように、あの『ニセ警官』の『
「そうだな」
すると
「なんだ?」
「ツユさんとトツさんって、仲直りできたんですね」
「やかましい!」
と、肘打ちを入れてやったが、プロテクターと従来の頑強さのせいで、|法華津「ほけつ》は意に介す様子は微塵もない。
「てことは、どんな能力かを確認しておく必要がありますね」
首をポキポキと鳴らしながら、やる気を出している。
「ケツ。お前は待機だ」
「は? ツユさん、何言ってるんです? ここは下っ端のぼくの役目でしょ」
「お前には幼い子供と奥さんがいる。そわな奴に行かせられるか。わたしが行く」
「そんな!」
「下がれ。これは上司命令だ」
「だったらツユ。お前も下がれ。プロテクターをほとんど失ったお前じゃ役に立たん」
「キュウさん。アナタは我々の指揮官だ。ここで死なせるわけにはいかない!」
「死ぬつもりなんでないさ。だろ? トツ」
「はい。俺が何がなんでも『
「なら、ぼくも行かせてください!」
「馬鹿! 何度も同じことを言わ──」
「下手したら死ぬぞ」
「警察官になった時からその覚悟はできてます」
「というわけだ。ツユ、しっかりと確認してくれよ」
唇を噛んで
「ケツ。死ぬなよ」
「もちろんです」
「キュウさんも」
「ああ」
眼鏡を押し上げると、グッとアゴを引く。
「トツ。妹の墓前に、お前の訃報を報せに行くなんて役目を、わたしにやらせるんじゃないぞ」
「はい」
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