【完結】星空のカフェ

第10話 葵の過去

春の暖かい日差しが門司港の街を包み込み、「星空カフェ」の庭にも花々が咲き誇っていた。カフェの窓際の席には、葵が座っていた。彼女はカフェラテを飲みながら、凛と話をしていた。

「凛さん、本当にここは素敵な場所ですね。まるで時間がゆっくり流れているみたい。」葵が微笑んで言った。

「そうでしょう。私もこの場所が大好きです。葵さんもここに来ることで、少しでも心が休まるといいな。」凛が優しく答えた。

その時、夏希がカウンターからやってきて、葵に声をかけた。「葵さん、少しお話ししませんか？」

葵は頷き、夏希と凛と一緒にカフェの庭に出た。春の花々が風に揺れ、心地よい香りが漂っていた。三人はベンチに座り、静かな時間を過ごしていた。

「葵さん、最近引っ越してきたって聞きましたけど、どんなことがあったんですか？」凛が優しく尋ねた。

葵は少し戸惑いながらも、静かに話し始めた。「実は、私は東京で結婚していたんです。でも、結婚生活はうまくいかなくて、離婚することになりました。一人で子育てをしながら仕事をしてきましたが、心の中にずっと孤独感があって…。それで、新しい場所で新しいスタートを切りたくて、ここに引っ越してきたんです。」

その言葉に、夏希と凛は静かに耳を傾けた。葵の声には、過去の苦しみと新しい希望が混ざり合っているのが感じられた。

「葵さん、それは本当に大変な経験だったんですね。でも、ここで新しいスタートを切ることができるなんて、素晴らしいことだと思います。」夏希が励ますように言った。

「ありがとうございます。ここに来て、皆さんと出会えたことが本当に嬉しいです。凛さんも、何か大変なことを乗り越えてきたんですよね？」葵が尋ねた。

凛は一瞬迷ったが、優しい笑顔で答えた。「はい、私は母を病気で亡くしました。その悲しみから立ち直るために、ここに来ました。夏希さんや星空カフェのおかげで、少しずつ前に進むことができています。」

「そうだったんですね…。私も、ここで少しずつ前に進めるように頑張ります。」葵は凛の言葉に力を得た。

その時、庭の花々が風に揺れ、星空カフェの庭に一層の美しさを添えた。三人はその光景を静かに見つめながら、新たな絆を感じていた。

夜が訪れ、星空カフェの庭には再び星々が輝き始めた。夏希が望遠鏡を準備し、葵と凛に星の名前や物語を教えた。

「あれがレグルス。そして、そこに見えるのがデネボラよ。」夏希が指差しながら説明した。

「本当に綺麗ですね。」葵はその美しさに感動し、心が軽くなるのを感じた。

その夜、葵は星空の下で新たな希望を胸に抱きながら、未来への一歩を踏み出す決意を再確認した。星空カフェでの新しい出会いと共に、彼女の新たな物語は静かに進んでいくのだった。