第9話 新しい訪問者

春が訪れ、門司港の街は色とりどりの花々と共に新たな命が息づいていた。「星空カフェ」もまた、暖かい季節の訪れを迎え、店内には新鮮な空気と春の香りが漂っていた。


ある日の午後、カフェの扉が静かに開かれた。そこに立っていたのは、一人の女性だった。彼女の名前は葵(あおい)。落ち着いた雰囲気と柔らかな微笑みを携えた彼女は、初めてこのカフェを訪れた。


「いらっしゃいませ。」カウンターの向こうから夏希が優しく声をかけた。


葵は少し緊張しながらカウンターに近づき、メニューを手に取った。「初めて来たんです。何かおすすめはありますか?」


「そうですね、今日は春の特製ブレンドがおすすめです。季節の花の香りを少し加えた、爽やかなコーヒーです。」


「それをお願いします。」葵は微笑みながら答えた。


カウンターの隣に座っていた凛もまた、葵の姿に気づき、興味を持った。凛は新しい出会いに心を弾ませながら、葵に話しかけた。「こんにちは、私は凛です。ここでアルバイトしているんです。」


「こんにちは、葵です。最近、門司港に引っ越してきました。」葵は少し恥ずかしそうに答えた。


「門司港へようこそ!どうしてこのカフェに来たんですか?」凛は興味津々に尋ねた。


「仕事の関係でこちらに来たのですが、初めての場所で少し心細くて…。星空カフェの噂を聞いて、ここなら少し落ち着けるかなと思って。」


その言葉に、夏希も微笑みながら頷いた。「このカフェは、訪れる人たちが少しでも心を安らげる場所になればと思って始めました。星を見ながらリラックスできるんですよ。」


葵はその言葉に安心感を覚え、カフェの温かい雰囲気に包まれるように感じた。彼女はコーヒーを一口飲み、その香りと味に心を和ませた。


「本当に美味しいです。こんなにリラックスできる場所は初めてです。」葵は笑顔で言った。


その後、葵は凛と少しずつ打ち解け、話をするようになった。凛もまた、母親を失った過去を乗り越えてきた経験から、葵の孤独感に共感することができた。


「実は、私もつい最近ここに来たばかりなんです。新しい環境で頑張っているところです。」凛は静かに語った。


「そうなんですね。私も新しい生活に慣れるのに時間がかかるかもしれません。でも、ここに来ると少し安心できます。」葵は凛の言葉に励まされた。


その夜、葵は初めて星空カフェの庭で星を見上げた。夏希が望遠鏡を準備し、凛と共に葵に星の名前や物語を教えた。


「見て、あれが春の大三角形。デネボラ、スピカ、アークトゥルスが輝いているわ。」夏希が指差しながら説明した。


「本当に綺麗ですね。」葵はその美しさに感動し、心が軽くなるのを感じた。


葵はその夜、星空の下で新たな希望を胸に抱きながら、未来への一歩を踏み出す決意をした。星空カフェでの新しい出会いと共に、彼女の新たな物語が静かに始まったのであった。

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