第4話 常連客の春

春(はる)は、東京から門司港に引っ越してきたばかりだった。賑やかな都会の喧騒から離れ、この静かな港町で新たな生活を始めることを決意したのは、失恋の痛みを忘れるためだった。かつて愛した人との別れは、春の心に深い傷を残していた。


ある日、春はふと立ち寄った「星空カフェ」で、その魅力に心を奪われた。カフェの扉を開けると、温かな空気とコーヒーの香りが迎えてくれた。カウンターの向こうで微笑む夏希の姿に、春は安らぎを感じた。


「いらっしゃいませ。何をお飲みになりますか?」夏希の優しい声が春の耳に心地よく響いた。


「コーヒーをお願いします。」春は少し緊張しながら注文した。


夏希は丁寧にコーヒーを淹れ、その香りが春の心を和ませた。その夜、カフェの庭で望遠鏡を使って星を観察する夏希の姿を見て、春は再びこの場所に訪れることを決意した。


それ以来、春は「星空カフェ」の常連となり、何度も足を運ぶようになった。カフェで過ごす時間は、春にとって心の癒しの時間となった。ある晩、春がカフェに訪れると、凛もそこにいた。二人は自然と会話を交わすようになり、互いの過去を少しずつ話すようになった。


「東京から引っ越してきたばかりなんです。ここは静かで、とても落ち着きますね。」春が語る。


「私は福岡市から来ました。母を亡くして、新しい場所を探していたんです。」凛が静かに答える。


春と凛は、それぞれの痛みを共有しながら、少しずつ心を開いていった。過去の出来事を語り合うことで、二人の間には自然と友情が芽生え始めた。


ある夜、春と凛はカフェの庭で星を見上げながら語り合っていた。


「失恋の痛みって、なかなか消えないものですね。」春がぽつりと呟いた。


「私も母を失った悲しみがまだ消えません。でも、ここにいると少しずつ前に進める気がします。」凛が優しく答えた。


その言葉に、春は少しずつ心の重荷が軽くなるのを感じた。凛と共に過ごす時間が、春にとって新たな希望となっていった。


春は、星空カフェでのひとときが自分を癒し、前に進む力を与えてくれることを感じていた。そして、凛と夏希との出会いが、春の心に新たな絆を生み出していくのだった。


星空カフェの庭には、夜毎に美しい星空が広がり、訪れる人々の心を優しく包み込む。その場所で織り成される物語は、今日もまた、新たな光を放ち続ける。

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