第2話 新たな始まり
高校生の凛(りん)は、カバンの中に詰め込んだ少ない荷物を肩に掛け、門司港駅に降り立った。福岡市での生活を振り返ると、そこには母親の面影が色濃く残っていた。母親を病気で失った悲しみが、凛の心に重くのしかかっていた。彼女はその重荷を少しでも軽くするために、新しい環境を求めてこの地にやって来たのだった。
駅から歩いてしばらくすると、古い町並みが続く静かな通りに出た。その先に、小さな看板が目に入る。そこには「星空カフェ」と書かれていた。凛は、その看板の先にある木製の扉を見つめ、一歩一歩近づいていった。
扉を開けると、カフェの中には心地よい香りが漂っていた。カウンターの奥に立つ女性が、凛に向かって微笑みかける。
「いらっしゃいませ。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「凛です。アルバイトの面接のために来ました。」
「そうでしたね、凛さん。私は夏希(なつき)です。このカフェのオーナーです。どうぞ、こちらへ。」
夏希は凛をカウンターの席に案内し、温かい紅茶を差し出した。その香りが、凛の心を少し和らげるようだった。
「ここに来た理由を教えてもらえますか?」夏希が優しく尋ねる。
「実は…母を病気で亡くして、心の整理をつけるために新しい場所を探していました。星空カフェの求人を見つけて、ここなら少しでも自分を取り戻せるかもしれないと思って。」
凛の瞳には、まだ癒えない傷が垣間見えた。夏希はその瞳を見つめながら、静かに頷いた。
「ここでは、星空を眺めることができるんです。夜になると庭で望遠鏡を使って、訪れる人々と一緒に星を観察するんですよ。私自身も、星を見ていると心が落ち着きます。もしよかったら、凛さんも一緒にどうですか?」
その言葉に、凛の心は少しずつ解きほぐされていくのを感じた。母親の思い出が詰まった福岡市を離れる決意を固めた彼女は、この場所で新たな始まりを見つけることができるかもしれないと思い始めていた。
その夜、星空カフェの庭に立つ凛は、夏希と一緒に星を見上げた。満天の星が輝く夜空は、凛の心に新たな希望の光を灯してくれた。これから始まる新しい生活が、少しずつ彼女を癒してくれることを願いながら、凛は静かに微笑んだ。
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