【完結】星空のカフェ
湊 マチ
第1話 夏希と春
福岡県北九州市の門司港には、時の流れがゆっくりと感じられる場所がある。その一角にひっそりと佇む「星空カフェ」は、まるで時を忘れさせるかのような空間だった。オーナーの夏希(なつき)は、そのカフェを一人で切り盛りしていた。
夏希は、夜が訪れるのを心待ちにしていた。日が沈み、街の明かりが少しずつ灯る頃、彼女は庭に出て、いつものように望遠鏡を設置する。星空カフェの庭は、小さな花壇やベンチが配置され、まるで星の光を受け取るために作られたステージのようだった。夏希は、カフェに訪れる客と一緒に星を見上げるのが日課だった。
この夜も、夏希は望遠鏡を覗き込み、静かに星を探していた。星空を眺めると、彼女の心は穏やかになり、日常の喧騒から解放される気がするのだ。カフェの常連客もまた、この星空を楽しみに訪れる。中には、静かにコーヒーを飲みながら星を眺める人もいれば、夏希と一緒に星の名前や星座の話をするのが楽しみな人もいる。
このカフェには、不思議な魅力があった。それは、訪れる人々が自然と心を開き、星空を共有することで、心の中にある重荷を少しずつ解き放っていくことができる場所だった。夏希もまた、星空を通じて自分の過去と向き合い、少しずつ前に進むことができるのだ。
ある夜、夏希はカフェの常連客である春(はる)と一緒に星を見上げていた。春は東京から引っ越してきたばかりで、過去に失恋の痛みを経験していた。彼女は、星空カフェの温かい雰囲気と夏希の優しさに惹かれ、何度も訪れるようになっていた。
「夏希さん、あの星は何ですか?」春が指差した方向に目を向けると、一際明るく輝く星が見えた。
「あれはシリウスよ。冬の夜空で一番明るい星なの。」夏希は微笑みながら答えた。
「シリウス…。とても綺麗ですね。」春は星を見つめながら、静かに呟いた。
その瞬間、夏希の心には温かい光が差し込んだ。星空カフェは、訪れる人々にとって心のオアシスであり、夏希自身もまた、この場所で少しずつ癒されていくのだった。
星空の下で織り成される小さな物語たち。星空カフェは、今日もまた、新たな出会いと共に、その温かい光を放ち続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます