第十六章 Indisputable 3/5
──場所は変わり、階下にて。
あれから、2回ほどフブキは死んだ。でも結局『R』を倒しきる前に『Rivive』で蘇生され、振り出しに戻るだけだった。
巧妙なのが、フブキが死んだ瞬間にレオナを守る『要塞』が消滅する事だった。これにより、たとえレオナがこちらの様子を見られなくても、フブキが死んだ事が分かる。彼女は単純に壁が消えた瞬間にフブキに対して『Revive』を使えばいいだけの話なのだ。
言ってしまえば、レオナは『フブキが死んだ時だけ出てくる』蘇生役だ。これほどまでに面倒くさい相手は居ない。
「──ほんっとにもう……!」
「はァ……疲れてきた……」
フブキは逐一体力を回復するが、僕らは消耗するばかり。フブキの攻撃はすべてバリアで防げるものの、こう何度も蘇ってこられたらたまらない。何度も走らされ、何度も防戦一方の中学生男子を殺し、体力的にも精神的にも疲れが出始めてきた。
「こっちの攻撃は無かった事にされるし、向こうの攻撃はこっちには効かない……。ゲームで言えばタンク同士で戦ってるみたいな感じか……」
「このままじゃ埒が明かないね」
「うん……」
僕はそう頷き、膝に手をついてフブキの方を見た。彼は右手を下げ、同様にこちらを見ている。お互いに攻撃が通らないのを理解しているのだ。
──停戦でも持ち掛けてみようか。案外賛成してくれるかもしれない。
僕がそんな事すら考えてしまうほど、この戦いには終わりが見えなかった。フブキは常に僕たちとレオナの間に立っているし、隙をつくことも不可能だ。そして頑張ってフブキを倒しても、レオナが『Revive』を彼に対して使うだけ……。そんなこんなで、もうかれこれ30分以上戦っている。僕の体力ももう限界だ。
「──ねぇキミ」
僕は膝から手を離し、フブキに向かって声をかけた。
「もうこんな戦い──」
『やめにしないか』。
そう言いかけた時、僕の口は鴨ちゃんに塞がれた。思わず彼女の方を見ると、鴨ちゃんは首を横に振っていた。
「あ、えっと……」
「ゴメンね、マナブくん。もう一回だけやらせて」
「やらせて、って……何を?」
「あの子の射殺」
鴨ちゃんはそう言ってダーディック銃を作り替えた。そんな彼女の表情には、今までとは違う何かを感じられた。
「方法があるの?」
「そう……だね。良い事思いついたんだ」
「分かった」
僕は何が何だか分からないまま頷いていた。鴨ちゃんは「じゃあ、行くよ」と言って銃を構える。僕もそれを合図に走り出す準備をした。
目の端に光が見えたかと思うと、銃声が空気をつんざいた。もう何度聞いたか分からない、薬莢の落ちる音が部屋に響く。それが、4回繰り返された。
フブキは散々撃たれてきてパターンを覚えたのか、自分の頭と胸を腕でガードした。弾丸はそれぞれの腕に2発ずつ当たったが、致命傷には至らない。鴨ちゃんはそれを見て、ためらうことなく連続で5発発砲した。
腕、脚、腕、腰、腹。すべてをガードしきれなかったフブキが「うッ……」とうめいて前のめりになった。
鴨ちゃんはその隙を見逃す事なく、あらわになったフブキの肩と頭部に2発の弾丸を撃ち込んだ。
「行くよ」
鴨ちゃんはそう言い、血だまりに倒れているフブキに向かって駆けだした。部屋の角にある『要塞』がまだ消えていないのを見るに、まだ完全には死亡していないのだろう。
鴨ちゃんはフブキのすぐ近くまで進むと、銃の引き金を引いて彼の後頭部を撃ち抜いた。
──ここまでは今までと同じ……。鴨ちゃんは一体何をする気だ……?
僕はそう思いながら、ふと『要塞』に目を向けた。ちょうど、レンガの壁は光に包まれ、粒状になって消えていくところだった。
つまり、フブキの死を意味していた。
消えていく壁の向こうから、少女──レオナが姿を現した。既に右手をこちらに伸ばしている。
少女は腹の底から声を出すようにして、叫んだ。
「『Rev──!」
「『────』」
少女の叫びは部屋中にこだました。それを遮るようにして鴨ちゃんが何かを言ったが、僕の耳には届かなかった。それくらい、レオナの必死な声には勢いがあった。
しかし、レオナの右手の文字が光る事はなかった。
一体何が──と考える暇すら与えられず、目の前に倒れていたフブキの身体が赤く光りだした。
「え…………」
レオナのか細い疑問が、静かな部屋に静かに響き渡る。
やがて真っ赤な光に包まれたフブキの身体は、空気に溶けるようにして消えていった。
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