第十二章 Men 2/3

放課後。

僕らは三人で横浜駅まで歩き、そこから湘南新宿ラインに乗って武蔵小杉で降車した。ここがヨシアキの家の最寄り駅になるのだが、いつもとは逆に進む電車に乗るのはなんだか新鮮な感じがした。

「なんか買ってくか?」

「いいね」

駅構内のコンビニに僕らは入り、それぞれアイスクリームを購入した。夏本番の暑い日差しに、アイスの冷たさが染み渡った。


「──どーぞどーぞ」

「おジャマしま」

ヨシアキは僕と同じく、アパート住まいだ。部屋の広さも僕のと同じくらい。彼に案内され、僕らはリビングへと向かう。

「相変わらずでっけぇな」

ダイキがリビングに入るなり、そう言った。彼が「でかい」と言って指さしたのは、リビングに置かれた液晶テレビだ。

僕らがゲームをする時、いつもヨシアキの家に集合する理由の一つである。

「でかい方が良いからね」

「貧乳派のくせに」

「貧乳派って言うな」



──さて気を取り直し。

僕らが集まってやるゲームといえば、大抵は格闘ゲームだった。いわゆる兄弟がスマッシュするヤツだったり、ストリートと格闘家のヤツだったり、ギルティなギアのヤツだったり。

僕はコントローラーを本体に繋げると、テレビの正面に置いてあるソファの一番右に座った。これは右手の文字を2人に見られないようにする為だ。

僕の左にヨシアキ、そして一番左にダイキが座った。ソファはお世辞にも大きいものではないので、ヨシアキは気を利かせて床に座ってくれた。

「やりますか」

ヨシアキはそう言って、ゲームを始めた。



ダイキは、自分だけが楽しめれば良いという人間。

ヨシアキは、皆で楽しみたいという人間。


以前にこんな事を言った覚えがある。今日のゲームでもその性格の違いが如実に表れていた。

ダイキは遠くからじわじわと敵を攻撃するキャラを選び、ヨシアキは近距離で片を付けるキャラを選んだ。

これだけ聞くとダイキに分がありそうだが、ヨシアキはこのゲームをやりこんでいる。キャラ性能の差をものともせずに、彼は何度も勝利を収めた。

僕はと言うと、ダイキの遠距離攻撃を上手く躱せず、何も成しえることなく死んでいった。その度にヨシアキから助言を受けたが、コントローラーの操作が追いつかずに結局何度も失敗した。

『Manipulate(上手く操作する)』を自分に使って一瞬で上達してやろうか、とも思ったが、流石にゲームに『文字』を使うのは馬鹿馬鹿しかった。

最終的にヨシアキが一人勝ちし、僕はダイキに僅差で敗れた。



「わり、トイレ借りる」

ダラダラと会話をしていると、ダイキがソファを立ち上がって廊下の奥へと姿を消した。トイレの場所を覚えるくらいには、ヨシアキの家には何度も来ている。


リビングには僕とヨシアキが残された。


「……上達したね、マナブ」

「そうか? 最後の方はダイキをメタってただけだけど……」

「んー……まあ……」

「否定しないんだ」

「事実だし」

ヨシアキはそう言って、足元に置いてあった麦茶を飲んだ。僕もそれにならい、コンビニで買ってきたサイダーを一口飲んだ。

「──マナブは、さ」

「ん?」

「鴨川さんと、仲……いいよね」


──あ。

──これは、まさか。


ヨシアキの長髪の間から、彼の照った頬が見えた。間違いない。

「ヨシアキ……?」

「あ、いや。ちょっと……気になって、ね」

「恋か」

「まあ、いわゆる、それ」

照れ隠しか、ヨシアキは麦茶をごくごくと飲んだ。僕とは目を合わせようとしない。

「……で?」

「ん?」

「で……ヨシアキは、僕に何かしてほしいワケ? なんでか分からんけど、彼女、僕と仲良いし」

「あー……うん、そうだな……」

ヨシアキはそこで考える仕草をし、やがて「まあ……」と口を開いた。

「必要な事は自分でやるよ。マナブはなんとなく僕の名前を、鴨川さんとの会話で出してくれればいい」

「そんなんで良いのか?」

「うん。これは僕が進むべき道だから、マナブは一歩目を手伝ってくれるだけで充分だ」

「そっか」


僕はそう頷き、ヨシアキの頼みを了承した。やがてダイキがトイレから帰ってきて、2回戦目が始まった。


──うーん……。

ゲームの最中、僕の心はずっとモヤモヤとしていた。あまり集中できず、1回戦目よりも悪い戦績を出してしまった。


問題は一つ。

──僕も、鴨ちゃんの事好きなんだよな……。

これに尽きた。

絵に描いたような三角関係。親友同士である僕らが、同じ対象を好きになってしまった。

ぶっちゃけ、恋のキューピッドなんて御免だった。でも、ヨシアキの頼みを断るわけにもいかない。

モヤモヤが続くまま、僕はヨシアキとダイキにボコボコにされた。

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