第十二章 Men 1/3
「マナブぅ」
7月28日、月曜日。生活委員会会長の結城先輩が教室に顔を見せた。
「なんか1階の貼り紙が剥がれてんだけど。マナブがやった?」
「はい」
「え、なんで」
──説明が面倒くさいな、これは。
「え、っとですね……まあ、何と言いますか……。捕まったらしいんですよ、犯人」
「え? 聞いてないけど。マジ?」
「マジです。一昨日あたりに捕まってました」
「へぇー。よく知ってんね」
「まあ、爺ちゃんが警察なんで」
僕は適当な事を言ってその場を逃れようとする。結城先輩は「まあ、あっても無くても変わらないような貼り紙だったしね」と言って笑った。
「でも今度からは俺に伝えてね。一応会長なわけだし」
「分かりました」
うん、と頷き、結城先輩は教室を出ていった。
小田原市の連続殺人犯、灰原アキト──『A』の文字を持つ彼は、もうこの世には居ない。その事は『文字』を持っている者だけが知っている。
彼がこの世を去ったのはもう3日も前の事だが、僕も鴨ちゃんも、そして恐らくセイジもその事実を引きずっている。連休明けの久しぶりの登校で、僕はどうにも気が沈んでいた。
「──どした、マナブ」
俯いていた僕の肩に、何かが触れた。はっと顔を上げるとそこに鈴木ヨシアキが立っていた。
「貧乳派……」
「貧乳派って呼ぶな。……それより、お前大丈夫か? 7月入ってからずっと変な感じだぞ」
「ああ、いや……」
──7月上旬からずっと殺し合いに参加している、なんて、とても信じられないだろう。
「まあ、ちょっとね」
「『ちょっと』じゃないな、その調子だと。どうだ? 今日、放課後」
ヨシアキはそう言って、両手の親指を動かした。ゲームのコントローラーを操作する仕草だ。
「ああ……ん、そうだね。ありがとう」
「遊びに誘っただけだよ。礼なんていらない」
ヨシアキはそう言って、隣からずっとこちらを見ていたダイキにも声をかけた。会話を聞いていたのだろう、彼もすぐに「行く」と言った。
ヨシアキが優しいのはいつもの事だが、今日は彼の優しさが一段と身に染みた。最近は嫌な事が続いていた為、彼らと遊ぶ時間もあまり取れなかったのだ。
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