第十一話 Apotheosis 1/6

「アキっ……は、灰原……!」

「はは……あ、アキトで良いですよ。あの、昔みたいに、ほら……」

「…………」


セイジは、口をつぐむ。後ろから彼が拳を握るのが見えた。

「──アキト。なんで……なんでここに来たんだ……?」

「あ……いえ。先ほどここら辺から大きな音が聞こえたので、えっと、気になって」


──セイジの『Sound』の事だろう。あれは確かにとんでもない音量だった。


「……そんな事より朝霧先生。あの、右手の甲、見せてくれますか?」

「右手……? なんでだ?」

「な、なんだって良いでしょう。見せてください、よ」

セイジはアキトの頼みをそのまま受け入れ、ゆっくりと右手を上げて8mほど離れた位置に立つ彼に見せた。

アキトは特に変わった反応は見せず、「やっぱり……ですか」と呟いた。そして後に、大きな大きなため息が続いた。

「なんで……なんでこんな……」

「──なあ、アキト」

膝に手を置いてため息をついたアキトに、セイジはハッキリとした声で訊いた。

「お前、島津を殺したのか?」

「…………」

「小田原の連続殺人犯は、お前か?」

「……そこまで……」

アキトは、顔を上げた。そこには、およそ表情と呼べるものはなかった。

「そこまで、分かってたんですね……」

セイジはそんな、どこか危うい雰囲気を保つアキトにさらに質問をする。

「島津は……それから、あいつの兄は……お前が小田原に呼んだのか……?」

「え、ええ。そう、ですよ。僕は神奈川から出られませんからね……」

アキトは右手を膝から離し、身体の前に構えた。

「……全部、調べました。刑務所から出た直後から……自分でも調べましたし、そういう仕事をしてくれる人にも頼みました。そういった金は……も、文字があれば簡単に手に入りますし」

「アキト……お前は……」


アキトは右手を前方に構え、左手で手首を押さえた。彼の視線は、真っ直ぐにセイジを捉えていた。

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