第十話 Safe n' Sound 8/8

『V』との戦いは終わった。

こうして落ち着いてみると、思ったよりも傷やケガが少ない事に驚きを覚える。

「まあ、大半の攻撃が毒とウイルスだったからな。『V』が死んでそれが消えれば、ダメージはなかったようなもんさ」

「そんな簡単な話でしょうか……」

「今のお前らが生きた証拠だろうが。疑ったってしょうがねぇし。生きてることに感謝しようぜ」

「感謝するのは、セイジさんに対してですよ」

「ん? んー、まあ……」

セイジはぽりぽりと頭をかく。

「いやでも、結局助かったのはマナブの機転があっての事だろ?」

「いえいえ。ああいや、そうかもしれませんけど……でも、とどめを刺したのはセイジさんです」

「とどめを刺せたのは、お前のおかげだけどな」

セイジがそう言い、僕の肩をぽんと叩いた。それに苦笑しながら照れていると、セイジの隣で鴨ちゃんが膨れているのが見えた。

「──あ、いや、そうだ、鴨ちゃんにも感謝だ」

「…………」

「鴨ちゃんが銃を作ってくれたから、勝てたんだよ? キミが居なきゃそもそも『V』に傷一つ付けられなかったかも」

「……ありがとう」

「ん、あ、うん。こちらこそ」


僕がそう言うと、鴨ちゃんは静かにほほ笑んだ。



「さて……」

「えっと、どうします?」


僕らは商店街の一角で休憩をしていた。時刻は17時といったところか。

「ごめん……もうちょっと休んでて良い?」

「あ。大丈夫、鴨ちゃん?」

「うん、大丈夫……。でもちょっと頭痛いかな」

彼女はそう言って頭を押さえ、座り込んだ。とある一角の店の閉まったシャッターに背を預け、僕も呼吸を整える。


──あ、そうだ。

そこで僕ははっと思い立ち、「ルール」と呟いた。即座に目の前に青白い画面が現れ、アルファベットの並びが表示される。

灰色になっている文字は「B、E、J、K、L、O、V」の7個だった。アルファベットは26個なので、残り19人という計算になる。

僕の仲間である『D』と『S』、爺ちゃんが持っている『G』、そして僕自身の『M』を除くと、敵は15人という事か。

「まだまだ沢山いるなぁ……」

僕はほうとため息をつく。神奈川県という小さな県に、まだ19人も『文字』を持っている者が居る事が、なんだか信じられなかった。


そう考えると急に喉が渇き、リュックサックから水筒を取り出す。あらかじめ入れてきた麦茶を飲んでいると、ふと、何か音が聞こえた。

とん、じゃり、というような、何かがぶつかって、何かがこすれる音。すぐに理解した。誰かの足音だ。こちらに近づいてくる。

音の方角は西。横浜駅の反対側だ。


「──セイジさん」

「……ああ」


僕は水筒をリュックに戻し、シャッターから身体を離した。正面の、つまり音が聞こえてくる方向の道を見据え、曲がり角を注視した。


人影が、現れる。


「……朝霧、先生」

そこに立っていたのは、『A』──灰原アキトだった。

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