第十話 Safe n' Sound 6/8
「──じゃ、最後にオッサンかな」
『V』は立ち上がる。たった今、鴨川ダイヤに毒物を注射し終えたところだった。『V』は彼女の肌のきめ細やかさに驚き、一瞬だけ針を刺すのを躊躇した。それはまるで、辺り一面真っ白な雪景色に足跡を残すが如く、躊躇われる行動だった。
「ま、でもしょうがないね。敵なんだし」
『V』はそう呟いて、まだ痛む足を押さえながらなんとか立ち上がり、後ろを振り返った。
目の前に、銀髪の男が立っていた。
「え──」
「らアッ!」
朝霧セイジは手に持った真っ黒な鎌を横に振り、『V』の脇腹に突き刺した。そしてそのまま刃を手前に引き、彼の腹を切り裂いた。
腰からヘソまでの長い距離を傷つける、致命傷だった。
「なんでッ! なんでだよ!」
「…………」
『V』は地面に倒れこんだ。そしてセイジを追い払うように手を横に振りながら、「なんで、なんで」と繰り返している。セイジは大鎌を両手で持ち直し、『V』に一歩一歩近づいた。
「さあ……なんでだろうな。俺にもよく分からん」
「ンなワケあるかよ!」
「いや、本当に分からないんだ。ふと気づいたら身体が軽くなってて、まるで毒が身体から抜けていったようで……」
カラン、とセイジの鎌が地面とぶつかる音が商店街に響いた。
「すまない。そいつらは……生きなきゃいけないんだ。未来ある若者なんだよ」
「俺だって若者だ! まだ24だぞ!」
「……悪い。でも、しょうがないんだ」
「ちくしょ──!」
そう言って必死に『V』が伸ばした右手を、セイジはまるで雑草でも刈るみたいにして切り落とした。直後、『V』の悲鳴がつんざくように響く。
「い、イヤ──」
「ああ。俺だって嫌だ」
セイジは鎌を『V』の首に引っ掛け、手前に引いた。
『V』の息が止まるまで、1秒たりともかからなかった。
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