第九話 Viper 1/8

社会には、強者と弱者が居る。

学校という場所は、いわば小さな社会だ。

したがって、学校にも強者と弱者が居る。


灰原アキトは、弱者にあたる生徒だった。



社会をオリンピックとおくならば、学校は全国大会といったところだろうか。

社会の方が難易度が高い。社会の方が多様性がある。でも、本質は同じ。

全国大会で結果を残した人間のみ、オリンピックに出て活躍する権利を得る。

学校も、社会も同じ。オリンピックとの唯一の違いは、出場したくない人間も、社会には強制的に放り出される、という点。


実力を持たずに社会に出ている人間はごまんと居る。しかし、その人たちも必死にもがいてその日を生きている。悪口を言われようが、暴力を振るわれようが、他人に頭を下げようが、諦めずに今日を生きている人間が多くいる。

それが、社会のタチの悪いところだ。諦めようにも諦めきれない。逃げ出したくても逃げ出せない。生きたくなくても、死にたくなくても、社会は思い通りに人を動かしちゃくれない。他人は、自分の為に行動しちゃくれない。


学生の頃、社会人を見ては憧れていた人間が多くいる。いつかあんな風になって、仕事をこなして、家庭を持って、幸せに暮らすんだ。そんな淡い空想を描いていた人間が、社会に出て初めて言う言葉は、決まってこれだ。


『こんなはずじゃなかった』


それは9年前、灰原アキトがぽつりと口にした言葉と、同じだった。


学校と社会。

どちらも同じだ。強者が弱者を食い、弱者が強者を呪う。強者がいるから争いは起こり、弱者がいるから争いは終わらない。


これは、弱者が強者に食われる物語。

ありふれた、社会では日常茶飯事の出来事。それでも、1人の学生の青春を打ち砕くには充分すぎるほどの物語。

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