第八話 Ash 3/6

翌日。

花岡先輩が僕を訪ねて1年A組に顔を出した。

「マナブ、出てこい」

「別に隠れてないですよ」

「貼り紙できた。ほら」

そう言って彼女は僕に紙の束を渡した。紙には『小田原市の事件について』と書かれており、つらつらと文章が書かれている中で、太字の『小田原市、およびその近辺には遊びに行かないこと』という文章が目立っていた。


「マナブは一階担当な」

「分かりました」

「あ、それから結城から伝言。最近おかしな事件が増えてるから気をつけろ、って」

「事件、というと」

「色々あるだろ。小田原市のヤツもそうだし、伊藤先生が失踪しただろ? あと、横浜駅でいきなり人が倒れる事件もあった。ここ最近妙な事が連続して起きてる」

「…………」


──横浜駅……。『E』がアニメキャラを具現化した時に、巻き込まれた人だろうか。


「まあ、マナブも気をつけろ。キミのアパートの周り、いつも暗いだろ?」

「別にいつもではないですが」

花岡先輩は僕のアパートを知っている。前に一度、生活委員会の4人がいきなり押しかけてきてパーティーを開いたからだ。

「キミの誕生日パーティーやった時も薄暗かったしな」

「あれは普通に夕方だったからです。誕生日も2か月くらいズレてましたし」

「2か月のズレなんて、長い歴史で見れば誤差ですらないよ。『良い国作ろう鎌倉幕府』だって、最近の教科書では1192年じゃなくて1185年に改正されてる」

「それは関係な」

「おっと、時間だ」


花岡先輩はわざとらしく教室の時計を見る。

「じゃあ、マナブ。夜遅くまで遊ぶなよ」

「……分かりました」


小さく微笑むと、花岡先輩は教室を出ていった。残された僕は紙の束を握り、ぼんやりと立ち上がり、ぼんやりと廊下に出た。

「めんどくせ……」

そう言いつつも、僕は画鋲を手に取り、廊下の奥へと進んでいくのだった。



お知らせを貼る作業は5分で終わった。もともとそんなに広い施設ではない。端から端まで歩くのに3分とかからない。


「さて……」

僕は余った画鋲を教室に戻し、自分の席に戻った。

そしてその時、まるで機を見計らったかのように携帯が振動した。見ると、セイジからメッセージが来ていた。


『緊急』


「なんだ……?」

あまり良い予感がしないその書き出しに、僕は不安を覚えながら続きを読む。

メッセージには短く、こう書かれていた。


『「A」が小田原を離れた。今、横浜に来ている』

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