Chapter5 宣戦布告
第15話 英雄か、虐殺者か
「続いてのニュースです。サテライトの落下から一ヶ月、サテライト落下から三日後にフィオヴィレ総合運送の総裁に就任したジャロック・ローガン新総裁と、ハロルド・ローガン元帥はほどなくしてディオネア・インダストリーズからの独立を宣言しました」
『我々が搾取される時代は終わった! ローガンの名の下に、フィオヴィレの独立を宣言する! サテライトというモニュメントは、その布告の証である!』
「——ほどなくしてディオネア軍に対する宣戦布告を行いました。戦闘が始まって既に二十日、戦線は東のストーンエッジ連山まで押し上げて膠着状態に入っています。フィオヴィレ軍の優勢が揺らぐことはないでしょう。市民の皆様には、経済活動への従事に、いつも通り勤しんでいただくことをお願いし——」
部屋の備え付けのテレビから、そんな声が響いている。レイヴンは絡みついてくるハウンドに顔を向け、舌を絡めた。犬のメカヘッドのマズルをこじ開け、ほとんど食われるような絵面でキスをして互いの胸を揉む。
「——我々はディオネアからの不当な重税に苦しんできた。それは企業軍の傭兵であっても、軍の元大佐である私であろうと、フィオヴィレ各社の役員から平社員まで変わらない事実だ。同胞は得た! 利があるのは我らだ! ディオネアによる腐った支配態勢を、経済支配を断ち切り、我らは自由になるのだ! 我が軍門に集結せよ、諸君! 共に英雄として戦うのだ!」
街に響き渡るハロルドの戦意高揚の演説。これは、系列企業都市に関しても同じだろう。
冷めた目で聞くもの、熱心に耳を傾ける者など、その反応は多数。だが、企業軍への入隊志願者が増加しているのは事実だった。すでに睡眠学習を始めている新兵もいるというし、ローンを組んでサイボーグ化している連中もいる。
「あらら〜♡ ゴム買い忘れちゃったんでナマでいいですかぁ?」
「お前がゴムを使ったことなんて今までに一回もないだろ」
レイヴンたちはすでに股間のカバーを外している。ハウンドが逸物を秘部に押し当て、挿入した。
「んっ……ぁ」
「かーわいっ♡ ワンちゃんにパン♡ パン♡ されて感じちゃう変態さんなんですねえ♡ 私の可愛い鴉ちゃん♡」
「焦らすなよぉ……」
「はぁ、可愛すぎると翼もいで枷くっつけちゃいますよぉ?」
レイヴンは、ハウンドの前では女の貌になる。その媚びた声も、甘ったるい吐息も、とろけたような目も——全部。
テレビからはニュースが流れる。
八〇〇万人の死——厳密には死体が見つからないため行方不明者なのだが、地面にこびりついたDNAタグを採取して照合すれば、八〇〇万人の死など確定だろう。
ディオネア・インダストリーズの総裁の行方は不明。死んだか、察して逃げたのかも不明。だが、ディオネア軍は徹底抗戦を掲げ、それまで敵対していたキングスレイ・バイオニクスと結託。連合軍を組織していた。
一方でフィオヴィレも西の隣接州、民間軍事企業連
ハウンドがレイヴンを下にして、いわゆる種付けプレスの姿勢でピストンを速めた。太腿と尻の肉が派手に波打つ。
「あっ……激しいってっ……いっ……くぅ……」
「可愛いっ♡ 可愛いっ♡ 可愛いっ♡ もっと乱れて♡ 私だけのレイヴン♡」
ドットフェイスにハートがふわふわ浮いている。ハウンドは性行為というより交尾といったほうがいいくらい荒々しい腰使いでレイヴンを何度も絶頂に導き、最後はその命の素で人工子宮を奥まで満たすのだった。
×
フィオヴィレ軍は二十日でネペンテス州の北部、西部、中部を実効支配。ディオネア軍は東部において彼らから見て西部に位置する戦線を維持している。キングスレイが主に行うのは傭兵の派遣と、兵器の供与であった。
言ってしまえばこれは州内で起きた内乱である。本来、内政干渉はこのベルガ大陸における汎円卓大陸協定法で禁じられているが、彼らはあくまで企業であるため、その行いは「業務提携」で片付けられる。
北部のエルドシェルド——以前、前進基地を襲撃したことがある勢力だ——は静観に徹していた。漁夫の利を狙っているのだろう。
現在主戦場となるのは中部から西部に広がる山岳部——ストーンエッジ連山であり、点在する防衛拠点と都市を攻略していくことになる。フィオヴィレ軍は出し惜しみせず、陸軍から四個歩兵師団と機甲師団を派兵。敵の防空レーザー兵器を壊滅させたのち、空軍機や艦載ミサイルによる制圧攻撃を行うらしい。
現代の戦場は、とにかく防空を掻い潜らねば始まらない。光の速度で照射される迎撃レーザー兵器サイクロプスは、どんなに速い巡航ミサイルでも撃墜する。つまり、敵の防空基地を落とさねばミサイルだなんて大金の塊を、意味もなくドブに捨てることを意味していた。
戦争は時代を逆行し、歩兵と戦車の独占場である。無論、その歩兵も生身にサイボーグにアンドロイドと多様化し、戦車と一口に言ってもさまざまなものがあるのだが。
レイヴンはシャワーを浴びながら、この五ヶ月で学んだ知識を総動員してフィオヴィレの勝算を計算する。
順当にいけば、損失は出るだろうが勝つだろう。問題は、敵にも第七世代の技術が存在することだった。
当然、リリアには報告した。そして犯人を締め上げた——それはレイヴンが最初に担当した初陣。あれで盗まれていた情報が第七世代の断片的なものであり、あの連中はディオネアが雇った産業スパイだったのだ。
リリアは過ぎたことだと言って、これから先ビースト・ネペンテスが一方的に蹂躙する展開は減るだろうと断言した。
レイヴンも、いつまでも雑魚相手に無双ゲームのようなことをする気はない。せっかく戦士になったのだ。強いやつとやり合いたい。
股間にシャワーヘッドを押し当てて、溜まった精液を洗い流す。レイヴンには卵子の製造を停止するよう設定されているので(当たり前だがビーストが孕んで戦えなくなったらとんでもない損失を被る)、妊娠はしないが、だぷだぷと大量の精子を抱えていると腹が重いし、歩いた拍子にボトボト溢れる。
ハウンドはそれがエロいから、と言って、過去に何度か出した後パンツを履かせて、部屋を歩かせて白濁液を垂らすレイヴンに興奮するという倒錯的なこともしていたが……。
何はともあれ、サテライト落としから一ヶ月。
レイヴンたちはディオネア勢力からは大量虐殺者、フィオヴィレ勢力からは英雄として祀り上げられていた。無論、あのサテライト落としに関しては情報規制が行われているし、敵にも誰がやったかは不明のままである。ただ、残骸から回収されたデータボックスにフィオヴィレが使うプログラムが検出されたことから、向こうは断定していた。まあ、どうせハロルドが堂々と「我々の宣戦布告だ」と言っているのだが。
シャワールームから出る。入れ違いでハウンドが入った。わざわざ股間を撫でて、胸を揉んで、キスしてから。
「シたりないか?」
「んー? じゃ、あと一回だけお願いします♡」
ハウンドがレイヴンの左腿を抱えて、そのまま濡らしていた秘部に挿入した。
「私たちとんでもないことしちゃいましたねえ……♡」
「今までも大勢殺してきたけど、一瞬で……んっ……八〇〇万、だからな……ぁっ」
「どこまでイッちゃうんですかね、私たち♡」
「地獄の底か、新しい国、かな……はあっ」
「レイヴンは、ちょっと違う感じにイッてません? まだまだ私、全然ですよ♡」
「さっさと、しろよ……男の俺で、コキ捨てろ、駄犬」
ハウンドが目をハートに輝かせ、激しく腰を振った。
疑似呼吸が荒く繰り返され、灰色の舌で顔をべろべろ舐めながら、興奮し切った彼女はすぐに果てるのだった。
どこまで、行くのか。
この屍山血河を越えた先に、なにがあるのか。
それはまだわからない。この地獄の道を選んだのも、楽しんでいるのも自分だ。
何が待ち受けていようが、よしんば恐ろしい怪物がいようが、ただ戦うだけである。
これまでそうしてきたように、これからも。
レイヴンは愛し合う恋人の体温を貪り、その不安を埋めるように、彼女の胸に顔を埋めて一匹のメスのように鳴くのだった。
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