ゴール直後の思いとレース前の思い

 ぜんぜんロードレース、出来なかったな。そう思った。


 何故か悔しいとは感じなかった。悔しいという思いとはちょっと違うような感じで、それが何なのかは分からない。


 これまでの俺だったら、悔しくて泣いてただろうけど。

 そんな感じじゃなかった。


 転ばずに無事にゴールできた安堵感はあったかな。


 何かの感情が沸き立つ事は無く、トレーニングから帰ってきたかのようなケロっとした感じだった。

 ゴールした先輩と一緒に写真を撮ってもらったり、呼びかけられて何枚か写真を撮ってもらったり。

 応援に来てくれた方と話したり。



 そこに応援に来て下さってた膝関係の方がいてくれたんだ。

 骨切り後にアクティブにスポーツに取り組んでいる人を取り上げてムービー制作をしている方で、昨年Eさん(俺に骨切り術と名医を教えてくれた友達)の撮影にうちのペンションに来てくれた方だ。


 わりと直前になっちゃったんだけど、この大会に出場する事を連絡したら喜んで来て下さった。

 俺はさ、初めてロードレースを観戦する人が1人で来て、案内もなければ何も分からないだろうし、俺を見つける事さえ出来ないんじゃないかって、事前に対応出来ない事を申し訳ない気持ちでいた。


 でも、スタート前にちゃんと見つけて写真や動画も撮ってくれたらしく、さすがだな、良かったなって思った。


 そこで初めて、膝の事を思い出したっていうか、こうして痛みなく好きなレースを走れた事、しかもロードレースに挑戦できたんだって事に感謝の気持ちと幸せな気持ちを持てた。


 だけどレースに復帰できた事に対する感傷的な思いみたいなものは沸いてこなかった。

 それだけ自転車に乗れる事がもう日常の普通の事になっていたんだと思う。

 もちろんそれが当たり前の事じゃない事は忘れずにいたい。


 本当はもっと色々話したかったけど、ずぶ濡れで身体も冷えてきたからひとまず着替える事にした。




 レース前はどんな風に思っていたっけ?

「回想」の章に少し書いたけどロードレースは20年ぶりだった。

 だから読めない事だらけだった。自分がどれくらい走れるのか?

 エントリーしているのはどれ位のレベルの選手達なのか。

 少し知っている顔があったり、直前のヒルクライムですごく良いタイムで走っている選手もいて、速いんだろうなと思ったり。


 でも、俺にも勝てる可能性があるのかな? って思ってみたり。

 優勝すれば、マスターズクラスにも日の丸の付いた日本チャンピオンジャージが与えられる。白地に赤ラインのエリートと違って、そこに一本青い線が入っているんだけど、大きな価値のあるジャージだ。


 走ってみなければ全然分からない

 未知のレースだったけど、だからこそワクワク感も大きくて、自分に期待しちゃう俺もいた。

 短い期間だったけど出来る範囲でそれなりに準備をして、どれだけ出来るかの挑戦はその過程も楽しかった。



 結果的には今の自分を良く知る事の出来たレースだったと思う。

 20年のブランクは大きくて、甘いものではない事を思い知らされた。


 あ〜、終わっちゃったぜ〜。

 着替えて、少し腹ごしらえして、片付けたら男子エリートレースの観戦だ。このレース観戦も今回すごく楽しみにしていた事だから。

 今、ここでやる事がある事はありがたい事だ。このまま帰るとしたら心が何となくやるせない。

 一旦、心を自分のレースから遠ざけたい感じがあった。


 不思議なほどにケロっとカラッとした感情。

 それは自分自身が繕っているものなのか? 自分でもよく分からない。

 まあ、今はいいや。ゆっくりじっくり時間をかけて自分の心を整理していけばいいやと思った。




 レース結果

 女子マスターズ7位(出走14名)

 1時間13分27秒(トップ+7分15秒)

 たった4周で笑っちゃう位、トップとの差があったな。

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