※第22話 アイドルグラ娘


『決まったあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

このグライソで恐らく史上初となる殴り合いを制したのは……格闘術の開拓者、シルバーファングだあぁぁぁぁぁぁッ!!』


「うおおおおぉぉ!! シルバーファングー!!」

「きゃぁぁ! アヤメちゃーんっ!」

「良い闘いだったよーっ!」



「シルバーファング、よく頑張ったね」


「はぁ、はぁ……オーナー……」


「控室に戻って休もう。まだ大会は終わってないからね」


「はい……!」



※※※※※



他の試合が進む中、少しでも休息と情報収集に務める。

そして第四試合……次の対戦相手は鞭使いのドミネクス。

正直言ってアヤメよりは格下だし、そのアヤメに競り勝ったシルバーファングには自信が満ち溢れている。

先ほどの殴り合いを意識しすぎたのか足元がお留守になっていたので、タックルでマウントを取りパウンドで仕留めた。


……そういえば、プレスラムルビー然り、ローズベルガ然り、強敵に打ち勝ってから暫くは連勝していたな。

シルバーファングは強者に勝ったという自信が一番の薬なのだろうか。

引退試合で今更その事に気付くなんて……いや、その強敵に勝つ事がとんでもなく難しいんだけど。



※※※※※



『さぁ、いよいよCランク昇級をかけた今大会も残す所あと一試合!

最後の闘いに身を投じるグラ娘はこの二人!

頼れるのは己の拳と脚のみ! 格闘術一本でついにここまでやってきました!

白銀の獣……シルバーファーーーングッ!!』


「「おおおおおおおおおっ!!」」


『対するは寡黙なる狩人! しなやかな四肢をフル活用し、縦横無尽に跳び回るその姿はまさしく麗しき雌豹ッ!! レパードクルエルーーッ!!』


「きゃあぁぁ!! レパードー!!」

「クルエルー! 可愛いよー!」



『さぁ、いよいよ試合開始です! Cランクへの昇級をかけた最後の闘いが今……始まりますっ!』



実況の人が言い終わると同時にゴングが鳴るけど、どちらも動かない。

ジリジリと間合いを詰めながら、お互いに牽制し合っている。


レパードクルエルはクールな雰囲気と美麗な容姿で人気のグラ娘だ。

武器は薄刃。強度を保つギリギリにまで薄くした剣で、その造形は美しいの一言。

軽いから振りは早い、けどその分威力は控えめ。

恐らくはオーナーの方針で、所謂アイドル売りのグラ娘だ。


人気が出てグッズ収入が入れば低ランクのチームでも良いジムに行けるしトレーナーとも契約出来る。

更に言えば良血だったり実績を残したグラ娘の遺伝子提供料も払えるようになる。

金策の一環として、このように一部のグラ娘をアイドルのように売り出すオーナーもいる。

このレパードクルエルもそんなグラ娘の一人だった……筈だけど、事実として彼女はアヤメに負けた1敗だけでここまで勝ち残ってきた。

努力したのか、たまたま上手く行ったのか……理由は分からない。

一つ確かなのは、ここでシルバーファングが負けたら同じ4勝1敗でアヤメ含めて3人で並ぶという事。

戦績が同じなら、それまでも試合の合計体力が多い方が優勝というルールだけど……アヤメとの死闘で体力ゲージが尽きる寸前だったシルバーファングには辛い条件だ。

逆にここで勝てればレパードクルエルは3勝2敗。

シルバーファングは全勝で見事優勝となる。



「……ふっ!」


「!? くぅ……っ」



レパードクルエルが動いた。

高速で前進し、すれ違いざまに切り付ける……これが彼女の主な戦闘スタイル。

アヤメには見切られて逆に居合切りの餌食になったけど、それ以外には攻防共に安定した戦術だ。



「まだまだ!」


『おぉーっと、ここでレパードクルエルの猛攻! シルバーファング、防戦一方だーーッ!』


「レパードー! やっちゃえー!」

「頑張れクルエルー!!」

「押せ押せー!!」


『うおおぉぉーーッ!! 会場の盛り上がりも最高潮だあぁ!!』



凄い声援……流石に大人気だ。それにこの剣筋、かなり速い。

シルバーファングは深い一撃は避けれているけど、まだ目が慣れてないのか縦横無尽に跳び回るレパードクルエルのスピードについて行けていない。


もしかしたら、これが彼女の作戦なのかもしれない。

シルバーファングは時間が立つ毎に相手に慣れて、そして場合によっては過集中状態に入って逆転してきた。

もし意図的にそれをされる前に倒し切るつもりなのだとしたら……この大会で好成績を残しているのも偶然ではないんだろうね。



「くっ……あっ!?」


『あーっと! ここに来てシルバーファングの体制が崩れたーッ!!』


「貰ったわ!!」



チャンスとばかりに攻め立てるレパードクルエル。

シルバーファングも反撃したいところだけど、猛攻で来る相手を無理に捉えようとするとかえって隙が生まれてしまう。

かと言って避け続けるにも限度がある。このままではジリ貧だ。



そう、このままでは。



「グルァッ!」


「な……っ!?」



突如、シルバーファングのカウンターが決まった。

過集中状態になったんだ。

こんなに早くあの状態になるなんて今まで無かったけど……それだけ追い詰められたと感じたのか、それともそれ以外にスイッチがあったのか……

ともあれ、これならレパードクルエルのスピードにも対応できる。反撃開始だ……!

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