※ 第21話 武芸者


「落ち着いてシルバーファング! 格闘の技術だったら君の方、が……」



動揺させてはいけないとシルバーファングに声を掛ける。

けれど、その目は既に相手を真っ直ぐに見据え、喉の奥から獣のような唸り声をあげていた。



「グルルルッ……」



過集中状態。

先の2戦は余裕を持って闘えてたからこうは成らなかったけど、格闘術まで扱うアヤメにアイデンティティの危機を感じたのか、早くもシルバーファングは過集中モードに入ったようだ。



「グルアァ!」


「ッ!?」



四肢で大地を蹴って強襲。

アヤメの懐に潜り込み、その拳が彼女の鳩尾を捉える。

しかし、アヤメは怯むことなく反撃に出た。



「このっ……!」


「ガァッ!」


「ぐっ……!?」



アヤメの拳を頭を下げて避けた……と思ったら、そのまま回転して後ろ回し蹴り。

アヤメはたたらを踏みつつも、そのままの勢いでバックステップして距離を取る。

シルバーファングは更に追い打ちを掛けようと、一足飛びで飛びかかった。



「ふっ!」


「ガゥッ!?」



アヤメは逆にその勢いを利用してシルバーファングを後方に投げ飛ばした。

シルバーファングは空中で姿勢を立て直して着地するけど……刀との距離が離れてしまった。

このままではアヤメに刀を持たれてしまう。



「……?」



アヤメが動かない。

シルバーファングとは十分に距離がある。

背後に落ちている刀を拾いに行っても間違いなく安全な距離だ。

なのに、彼女は刀を拾おうとしない。


それどころか、その場に腰を落として迎撃の構え。

その顔には薄っすらを笑みすら浮かべている。

まさか、格闘同士の闘いを楽しんでいる?

Cランクへの昇格をかけたこの大会で……しかも全勝中のグラ娘が?


シルバーファングはナックルダスターを装備しているから、アヤメが素手だからといってフェアな条件になる訳ではないのに……

第一印象は落ち着いた雰囲気だと思っていたけど……まさかあんな修羅のような内面を隠し持っていたとは。



「ガアァッ!」



再びシルバーファングが突撃。

アヤメは下段蹴りで迎撃するけど、シルバーファングはその太ももに飛び乗って更に跳躍。

アヤメの顎に跳び膝蹴りを叩き込んだ。



「っ、そぉいっ!」


「!?」



だけどアヤメを負けてない。

一歩下がって踏ん張ると、そのままシルバーファングを掴んで地面に叩き付けた。

シルバーファングの顔面に向かって足を振り下ろす。

咄嗟に避けて起き上がり、だけど離れる事なくすぐさま反撃に移った。



『おおおおおおおおお! 驚天動地前代未聞ッ!!

グラ娘の中で唯一の格闘術をメインとしていたシルバーファングでしたが、いまここで!

彼女と格闘術で互角に渡り合えるグラ娘と出会うとは!!

なんという運命の悪戯かッ!!

アヤメ選手は格闘術をメインとしていませんが……それでも、その技術はお見事!

シルバーファングの攻撃を紙一重で避けつつ、カウンターを叩き込んでいます!!

これはグラ娘の新たな歴史の1ページとなる闘いなのでしょうか!

新たなる伝説が生まれる瞬間なのでしょうかッ!! 目が離せません!』



実況の人がいつになく熱の籠った解説を行い、それに付随して観客のテンションも上昇していく。



「いいぞぉーっ!」

「いけー、シルバーファングー!」

「アヤメちゃーーんっ!」



そんな声があちらこちらから聞こえてきて……

だけど当の二人は一切気にすることなく闘い続けている。

アヤメがシルバーファングの攻撃を見切り、カウンターを叩きつける度に会場からは歓声が飛び交う。

逆にシルバーファングが速度を上げ、反撃すら許さぬ体勢で打撃を与えても歓声が起こる。

会場にシルバーファングとアヤメのコールが響き渡る。

いくら昇級大会といってもDランク同士の闘いだ。

資料として色々な大会の映像を見てきたけど……Dランクでここまでの盛り上がりを見せた試合は記憶にない。



「グルル……ッ!」


「おぉ……!」



会場のボルテージが最高潮に達する中。

オーナーとしての性か、戦況の潮目が変わっていってる事に気付いた。

徐々にではあるけれど、シルバーファングの攻撃が当たる回数が増えてきている。

元々シルバーファングは格闘一本で4年間闘い続けてきた。

それに食らい付くアヤメも相当な手練れではあるけれど、やっぱり経験はシルバーファングが勝る。

時間の経過と共にアヤメの打撃に慣れ、過集中もより研ぎ澄まされ……おまけにシルバーファングは武器を装備している。

戦況は確実にシルバーファングに傾いている。

ただ、シルバーファングは序盤に受けた刀の一撃で体力ゲージを大きく減らしている。


ここまで来たら判定決着なんて有り得ない。

どちらが先に相手の体力ゲージを削り切るかの勝負だ。



「グルァァッ!!」


「っ、ふっ!」



アヤメが繰り出した拳を首を捻って回避するシルバーファング。

返す刀でカウンターのストレートを放つけど……これはアヤメに避けられた。



『おお! なんという攻防か!! Dランク同士の闘いとは思えないハイレベルな格闘戦が繰り広げられています!!

しかし両者共に体力ゲージは後僅か! 決着の時が迫って参りました! この戦いの結末や如何に!!

次の一撃で勝敗が決するかッ!?』



観客達の応援もより一層熱が籠り、それは会場のボルテージに比例していく。



「ガアァァァァァァッ!!」


「はあぁぁぁぁっっ!!」



シルバーファングとアヤメの拳が交差する。

クロスカウンター……いや、相打ち、かな?


2人はほんの数秒……だけど見ている側からしたら妙に長く感じる。



「……見事」



アヤメが呟いた直後、彼女の身体がぐらりと後方へと倒れていった。


シルバーファングの、勝利だ……!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る