※ 第20話 新境地


試合が始まった。

ブラッディクリムゾンはセオリー通り、ロングソードの間合いギリギリからシルバーファングをチクチクと攻める。

シルバーファングはそれを捌きつつ隙を見て右ストレートを叩き込む……というのが今までの闘い方だった。けれど……



「シッ!」


「痛っ……!?」



相手が剣を引いた瞬間、半歩踏み込んでのローキック。

通常ローキックは何度も当ててダメージを蓄積させて相手の足を壊す為の技で。

だけどグラ娘はすぐに回復するから蓄積ダメージは意味が無い。

顔に当てないから体力ゲージも多くは削れない。

だから今まで使って来なかったけど……

調べて、研究して、考えて……採用しようという事になった。


確かにダメージは回復する。

けれど『痛み』を感じる事もまた事実。

そして、痛みとはストレスだ。

試合中にストレスを掛け続けられて、冷静で居られる選手はそうは居ない。



「この……!」



このブラッディクリムゾンもそうだった。

痺れを切らして不用意に踏み込み……



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ぐ……!?」



『おぉーっと! シルバーファング、接近したブラッディクリムゾンに跳び膝蹴りのカウンターだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


「シルバーファング、逃がしちゃ駄目だ!」


「はいっ!」



シルバーファングは跳び膝蹴りを受けて後方に倒れたブラッディクリムゾンに馬乗りになっている。絶好のマウントポジション!



「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ぐ、ぎ……がぁっ!?」



ブラッディクリムゾンもどうにか抜け出そうと抵抗するけど、この半年間見よう見まねではあるけどグラウンドの技術も磨いてきた。

その“技”は筋力差の相手だろうと、見事に抑え込み、適時打撃を入れ続け……ついに、決着が付いた。



『きまったあぁぁぁぁぁぁ!! Cランク昇級戦第1試合!

勝ったのは……シルバーファングだあぁぁーーーっ!』



会場が歓声で埋まり、戦いを終えた両選手がコロッセオを降りる。



「おめでとう、シルバーファング! 練習の成果がキッチリ出てたね」


「ありがとうございます! 私、こんなにリラックスして試合が進むのなんて初めてで……

何というか、今までと違うような……上手く言えませんが……」


「それが、手応えを感じてるって事じゃないかな。

さぁ、控室に戻ろう。他の選手の試合も見たいしね」


「はいっ」



その後も試合が進みシルバーファングの第二試合。

対戦相手はダガー二刀流のサーベラス。

今までは苦手としていた武器種だけど、第一試合を見て相手が過剰に警戒していたからか動きが鈍い。

隙を突いてワン・ツーパンチを決めたら増々萎縮し、決定的な攻め手を欠けいたまま試合終了。

体力差でシルバーファングの判定勝ち。


第三試合。

相手は刀使いのアヤメ。事前評価では断トツの優勝候補で、実際今の所はシルバーファングと同じく無傷の3連勝中だ。

武器である刀の用意が難しいらしくてデビューは遅れたけど、それからは破竹の勢いで勝ち進んでいる。



『さぁ、試合開始だ! お互いが距離を取って様子を見ているぞっ!』



アヤメはジリジリと間合いを詰め、シルバーファングは円を描くように動き回る。

流石にプレッシャーが凄いけど、ローズベルガとの試合を経験したシルバーファングならそれで冷静さを欠く事は無いだろう。


シルバーファングは距離を測る為に数度のジャブを打った後、足元目掛けてタックルを仕掛ける。



「ふっ!」


「あ……っ!?」



……速い!? 資料では折れたり欠けたりする可能性があるから刀による下段攻撃は難易度が高いって書いてあったけど……



「はあっ!!」


「きゃっ⁉︎」



想像以上の速さに呆気に取られていたら、すかさずアヤメが踏み込み上段から斬撃。

シルバーファングの左肩口に刀が喰い込んだ。



「あぐ……っ」


「シルバーファング!? 一度退いて体勢を立て直して……」


「いえ……!」



シルバーファングは刃が更に食い込む事も厭わず力強く踏み込んで……アヤメの顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。



「ぐ……っ!」


『アヤメ吹き飛んだーーー!! 武器も手放し万事窮すかーーーっ⁉︎』


「シルバーファング、今だ!」


「はい!」



シルバーファングは低い軌道でアヤメに迫る。

アヤメは何とか立ち上がるけど、武器はもう無い。


シルバーファングはしっかりと地面を踏み締めて、腰の回転を拳に伝え、さっきよりも強力な右ストレートは寸分の狂いもなくアヤメの顔面に吸い込まれる。



「え……?」



筈、だった。



「ふんっ!」


「⁉︎」



アヤメが、まるで攻撃が来るタイミングを読んでいたかのようにシルバーファングの拳を自身の手の甲で捌いた。



「な……っ⁉︎」


「……っ⁉︎」



私も、そしてシルバーファングもまさか止められるとは思っておらず、体勢を崩した瞬間にアヤメの右ストレートが腹部に突き刺さった。



「な、んで……⁉︎」


「拙者の事を剣士だと誤解させていたのなら申し訳ない。

拙者は剣のみを扱う剣士にあらず。

武芸百般……剣も、槍も、徒手空拳も扱う武芸者でござる」


「……っ!」

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