第18話 覚悟と限界


「ゔぅ……」


「やりすぎちゃったわね、ごめんなさい。はい、お水」


「ありがとう……」



気が付いたらベッドに寝かされていた。

ぼんやりとした頭の中に、シェリーに散々鳴かされた記憶が蘇る。



「約束よ。これから色々と融通してあげるわね」


「あ、その事なんだけど……練習試合はともかく、移籍に関しては暫く待ってほしいんだ。

シルバーファングの育成に集中したいからね」


「正気?」


「正気」


「正直シルバーファングちゃんは……」


「うん。このDランクが限界だろうね」


「それを分かった上で言ってるのなら……分かった」


「ありがとう」



元々Eランクで対策を取られ始めたから急いでDランクまで掛け上がった身だ。

初戦は情報不足だし相性も良かったから勝てたけど……Dランクならもっと早く対策を立てるだろうし、いつか勝てなくなる日がくるだろう。

それでも初めてのグラ娘、学んだ事のない格闘術の指導……シルバーファング一人に集中して、尚も足りないぐらい。

ここが限界だとしても、全力で足掻く為にはリソースはそこに注ぎ込むべきだ。



「一人のグラ娘の為に0から再出発するつもりだなんてね」


「ちょっと前までは本当に0からのスタートだったんだ。

一人育て終わって0に戻った所でそんなに変わらないよ」



グラ娘の最高ランクとチームのランクが連動する以上、チームには常に高ランクのグラ娘を置いておきたい。

だから通常はグラ娘の年齢をずらしてローテーションする。

チームの最大所属人数は10人。

毎年1人ずつオーディションで指名するチームもあれば、2人を1年置きに入れるチーム。

3人を2年置きに指名し、残りの一枠を逸材を見つけた時に備えて空けておくチームもある。

中には一度に多く指名して競争を激化させ、ダブついたグラ娘を若くランクの低いグラ娘とトレードして年齢層を調整するチームもある。


とどのつまり……唯一のシルバーファングが引退したら、私のチームは一時的にとはいえ最低ランクに落ちるという訳だ。

色々と不便を被る事になるけど……オーナーである以上はグラ娘に全力で応えないとね。



「やっぱりルカはドライな女を演じるよりも自分の気持ちを出していった方が良いわ。

オーナー三ヶ条を建前じゃなくて本気で実践しているんだもの」


「そんなに大層なもんじゃないよ。私はただ失敗したくなかっただけ。200年近くそう生きてきた。

……そんな現状から脱したくて、何度も試験を受けてグラ娘のオーナーになったっていうのにね」


「だったら、ルカが遅刻して売れ残ったシルバーファングちゃん……王道から外れたあの子と出会ったのは運命だったのよ。

外と隔絶されたグライソでは島外での実績なんて関係ない。

貴女も私と同じオーナー1年生なんだから、上手くやろうとしないで体当たりでぶつかれば良いのよ」


「そうだね……うん、シェリー」


「うん?」


「ありがとう。君と同期に……いや、試験の時にパートナーになれて良かった」


「どういたしまして。他にもして欲しい事があったら言って頂戴。

次はまた違うプレイを体験させてあげるから。……お尻とか平気?」


「……まぁ、考えておくよ」



この茶化しは優しさ、だと思っておこう。目がギラギラしてて本気っぽかったけど。



※※※※※



『決まったああああああああ! 勝者、ダスティン! これで3連勝!

シルバーファングは悔しい敗戦でした……!』



Dランク2戦目。トンファー使いのダスティンに敗北した。

距離が近くて自力勝負になりやすかったから、経験豊富なダスティンの方が有利ではあったけど……明らかにシルバーファング対策を意識した動きをしていた。


次の対戦相手は槍使いのユベリスクリア。

こちらはローズベルガとの経験が生きて辛勝したけど、続くロングソードのカーズゲール。

そして今まで得意としていた大剣使いのルクワッドアギトに連敗。


早くもシルバーファング対策が浸透してきたのか、Dランクでは現時点で2勝3敗。

その後も何戦かしたけど……結局は更に勝率を悪化させるだけだった。


フィジカル面を強化するトレーニング。

小手先の技術を磨く為の反復練習。

試合のセオリーや相手の戦い方の研究。

実戦経験を積む為の練習試合。

考えられる限りの対策を講じたつもりだけど、やはり最終的に立ちはだかるのはグラ娘としての元々のスペック差。

そして、武器対格闘術という、差が付いて当たり前の現実。


どうにかしようと足掻いて、考えて、対策して……気付いたらシルバーファングと出会って4年の月日が流れていた。

もう5歳……競技者を引退しても良い頃だ。

かつて戦ったマリーグランナーはCランクで闘っていて、恐らく今年に引退する。

分かり易く重戦士系の血統だから遺伝子需要はあるだろう。


プレスラムルビーは早熟型だったようで早くにBランクまで上がり、既に引退した。

実績と血統の優秀さですでに多くのグラ娘に遺伝子を提供している。

ユンさん率いるラッキーメダルからも来年度に子供がデビューする予定だ。


ローズベルガは晩成型の面目躍如。

7歳になった現在も現役バリバリで、2年間もSランクの座に君臨している。

流石にオーナーからの要請で近い内に引退はするのだろうけど。


そう、一部の例外を除いて多くのグラ娘は5歳にはもう引退し、場合によっては子を成して余生を過ごす。

シルバーファングはまだ諦められていない。

だからこれは……オーナーである私が言うべき事だ。





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