第16話 酒の席で
シェリーはグラビアアイドル事務所、フェアリーレイを母体とするチームの雇われオーナーだ。
所属グラ娘のグラビア写真集を島外で販売して莫大な利益を得て、補強費も潤沢。
アイドル人気とAランクの実力を兼ね備えたチーム……だった。
だけど前オーナーはグラ娘と折り合いが悪かったのか、新人グラ娘が中々上手く育たなかった。
Aランクのラブリーミークが引退。Bランクのラッシーヴァルキリーが移籍。
チームのランクは所属グラ娘の最高ランクと同じになるから、その両者の退団によりチームはCランクに降格。
それにより前オーナーは首を切られ、代わりに試験で好成績だったシェリーにお声が掛かった。
そして、シェリーは見事に期待に応えた。
その指導力もさる事ながら、何より目立ったのはその姿勢。
フェアリーレイはグラビアアイドル事務所のチームというだけあって、所属グラ娘は全員巨乳。
また、Cランク以上のグラ娘が着用を許される特別衣装も水着を模した物に限定される。
露出の激しい衣装であったり、写真撮影等の仕事の義務も発生する為、それに対して不満を持つグラ娘も当然発生し得る。
けれど……シェリーは自らが水着を着て指揮を執った。
何ならグラ娘よりも過激な水着を着て、写真撮影の仕事も受けた。
スタイル抜群の美女だから出来る事だけど……グラ娘と対等の視点で闘う姿に所属選手達は大いに奮起。
燻っていたCランクのグラ娘達も次々とBランクに昇格した。
……とまぁ、長々説明したけど、要は同期ではあるけど私なんかよりもよっぽど立派なオーナーだという事だ。
そんなシェリーは訓練でペアになった事を縁に妙に私に御執心になっている。
今もバチバチに決まった顔面を無邪気にニコニコと破顔させながら私の隣に座ってきた。
「まさかこんな所でルカに会えるなんて思わなかった……引っ越してきたの?」
「冗談。まだDランクに上がったばっかりだよ?
中央区に拠点を移せる段階じゃない。今日は試合が終わるのが遅かったから、こうして飲みに来ただけ」
「そっか。ふふ、Dランク戦初試合と初勝利おめでとう。
シルバーファングちゃん、話題になってるわよ?」
「うわぁ、嫌だなぁ……対策取られたくないんだけど」
「人気者の宿命よ、諦めなさい。……そのシルバーファングちゃんは居ないの?」
「遅いから先に帰らせたよ。バーに連れていく年齢でも無いしね」
「グラ娘は飲酒の年齢制限無いじゃない」
「気分だよ。それに、練習や試合が終わったらそこからはもうプライベートだ。
オーナーが過度に関わったり連れ回すのもね」
「向こうはもっとオーナーと一緒に居たいと思ってるかもよ?」
「私と? 無い無い。こんなおばさんに私生活に干渉されたくないでしょ」
「年齢なんて意味の無い時代に何言ってるんだか。私は22だからルカとは……」
「210歳差、かな? 覚えてないけど」
「大体10倍差ね。なのにこんなに仲良しなんだから、やっぱり年齢なんて関係無いのよ。見た目だって皆んな若いままだしね」
「私はそんなに仲が良いつもりは無いんだけどね……ん、ぷはっ」
「ちょっとペース早くない? 貴女お酒そんなに強くないって言ってたわよね?」
「別に……どれだけ飲もうが人の勝手でしょ」
「随分とやさぐれてるじゃない。何があったのよ?
ハイペースでDランクに上がって、新人としては順風満帆じゃない」
「それはそうだけどね。シルバーファングも頑張ってくれてるし」
「という事はオーナー業以外の悩み事って訳ね。お姉さんに言ってごらんなさい?」
「やだよ。なんで200歳近い年下に相談しなきゃいけないのさ」
「年月も人生も違うからこそ言える事もあるかもでしょ?
良いじゃない。お酒の席は恥をかき捨てるぐらいが丁度良いのよ」
「……」
普段なら、絶対に言わない。
シェリーはそういう子じゃないけど、それでもライバルチームに自分の弱みを曝け出すなんて馬鹿げてる。
……だけど、酔いが回り始めたせいかどうにも口が軽い。
「……この前、風俗店に行ったんだ。フローラってグラ娘が相手してくれて、気持ち良くって……
でも、今日行ったら…寿命で死んだ、って……っ」
泣くつもりなんて無かったのに。
シェリーの優しさに絆されて、ポロポロと涙が流れ落ちる。
「グラ娘は必ず死ぬ。それは当たり前で、オーナーとして受け入れなきゃいけない事で……
なのに私は、金でSEXした相手が死んだというだけでこんなにも心が掻き乱されている。オーナー失格だよ」
「身体を重ねれば情も湧く。その相手と永遠に別れるというのなら、悲しむのは当たり前よ」
「私はオーナーだ。この先何度もグラ娘の死に立ち会う事になる。
常に冷静で、客観的で、ドライでいなければいけない。
なのに……自分の感情がコントロール出来ないんだ」
「それで良いじゃない。感情的で、親身に接して、一々死に悲しむオーナーであっても良いと思うわ。
寧ろその方が情に深いルカらしいわよ」
「情が深い……? 何言ってるのさ」
「深いじゃない。最低ランクだったシルバーファングちゃんを指名して、型に嵌めずに前例の無い格闘術で闘えるように試行錯誤してる。
ルカの理想はもっと冷静沈着で物事を客観視出来るオーナーなのかもしれないけど……優しさを押し込める必要は無いと思うわよ」
「……そう、なのかな」
「もう既にシルバーファングちゃんっていう前代未聞の大波乱を起こしてるんだもの。
オーナーもちょっとぐらい羽目を外した方が丁度良いってものよ」
「そっか……うん、考えておくよ。……ちょっとだけね」
「はいはい。素直じゃないおば様ですこと」
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