第15話 いざ、Dランク


「シルバーファング、次の試合決まったよ」


「は、はいっ」



シルバーファングは椅子の上で正座してギュッと手を握る。

初めてのDランク戦という事もあって少し怖がってるみたいだね。



「対戦相手はドレッドフラム。ちょっと噛み合ってない血統だね」


「噛み合ってない、ですか?」


「メタルグラス×テルクマニードル。覚えてる? メタルグラスはデビュー戦で闘ったマリーグランナーの親でもある。

メタルグラスは斧を使うバリバリの重戦士だけど、テルクマニードルはスピードタイプの短剣使い。

パワーとスピードを両立させようとした組み合わせだと思うんだけど……ドレッドフラムに関しては上手く行かなかったみたいだ。

結果として彼女は中途半端な印象のグラ娘になってしまっているね。

Dランクで停滞して迷走しているのか、最近はコロコロと武器を変えてる。今はハンマーだったかな」


「でも、Dランクのグラ娘……なんですよね?」


「そうだね。でも正直言って……ローズベルガの方が強いと思うよ」


「そ、そうなんですか……?」


「ローズベルガは規格外だからね。晩成型で、且つオーナーが優秀でじっくり育てる方針だからまだEランクだけど、身体さえ出来上がれば一足飛びでAランク……もしかしたらSランクにも行きかねない逸材だよ」


「Sランク……」



通常、グラ娘のランクはG〜Aまで。

ただ前年のAランク帯勝率上位5名はSランクと呼ばれる。

……まぁ、名誉称号みたいな物で、立場的にはAランクと変わらないんだけど。

注目度が上がるから、スポンサーだったり引退後の遺伝子提供の要求や料金も増えるからそういう意味では得が無い訳でも無いけどね。

ともあれ……



「ドレッドフラムはシルバーファングにとって決して勝てない相手では無いという事。

威力重視の大振りも多いから、避けるスタイルの君とも相性は良い筈だ。

ドレッドフラムに対する一番の対抗策は、過度に相手を怖がらずにしっかり見極める事だ。出来るね?」


「……はいっ!」



ローズベルガとの激闘を経て多少なりとも自信がついて来たらしい。

しっかり励ましてあげれば、気持ちの面で遅れを取る事も無いだろう。



「一緒に勝とう」


「はい! ……えへへ、ありがとうございます♪」



※※※※※



それから数日後……



『決まったあぁぁぁぁぁぁぁ!! 銀狼シルバーファング!

見事ドレッドフラムから勝利をもぎ取り、華々しいDランクデビューを飾ったぁ!!』



「やっ……たあぁ!!!」



緊張から解放された喜びか、コロッセオでぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶシルバーファング。


試合は順当に勝てた。

途中、不意に大きな一撃を受けてしまったけど、それが過集中モードのスイッチになってくれた。


今まではおずおずと歓声に応える姿しか見せられなかったけど……こんな無邪気に喜ぶ姿を見たら益々ファンが増えてしまうな。



※※※※※



「わぁ、もうこんな時間ですか……」


「今日はトラブルで開始時間が遅かったからね。

熱戦が多くて一試合一試合が長かったし」


「お夕飯はどうしましょうか?」


「どこかで食べていこうか。その後は用事があるから先に帰っててくれるかな?」


「はい、分かりました!」


「良い子だね。さて、何を食べようか……」



アレやコレやと悩みはしたけど、結局はリーズナブルなファミリーレストランになった。

今日はシルバーファングが殊更多く食べたからお値段はそれなりに高くなったけど……まぁ、たまには良いだろう。



※※※※※



「よし……!」



シルバーファングと別れて、私は再び風俗店通りに来た。

お目当ては勿論フローラさんだ。

以前行ったお店の扉を潜る。



「いらっしゃいませ! あ……」


「? どうかしましたか?」


「いえ……御指名はございますか?」


「フローラさんをお願いします」


「その、大変申し上げにくいのですが……フローラは先日寿命で亡くなりました」


「え……」


「他の娘をお試しになりますか?」


「い、いえ、結構です。失礼しました……」



……別にグラ娘なら珍しい事じゃない。

グラ娘は死ぬ瞬間まで容姿も身体能力も衰えない。

見た目も体力も若いままで、ある日ふっと息を引き取るのだ。


10年前後しか生きられない種族。

悠久の時を得た私達はいつか必ずグラ娘との別れが来る。

それを分かっているから、こういうお店で、お金だけの関係でプロに相手をして貰うんだ。


なのに、なのに……何故こんなにも悲しい?

一度抱かれただけなのに、フローラさんに散々鳴かされたあの日を思い出す。

あぁ、それだけでこんなにも心を乱されてしまうなんて。

グラ娘のオーナー失格だ……



※※※※※



「いらっしゃませ。ご注文は何になさいますか」


「軽いお酒を一つ」


「かしこまりました」



結局、あのまま帰る気にもなれず近くのバーに寄ってしまった。

シックな雰囲気の良い場所だ。



「どうぞ」


「ありがとうございます」



マスターがグラスを目の前に置いてくれる。

……うん、美味しい。要望通り飲みやすいお酒だ。



「heyルカ! こんな所で奇遇ね!」


「シェリー……」



聞き覚えのある声に振り向くと、そこには同期の新人オーナー、シェリー・オーウェンが立っていた。


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