※ 第12話 積み重ねの果て


「ぐるる……っ」


「あら、本当に獣みたいですね」



シルバーファングは唸りながら四つん這いになって機を伺う。

対するローズベルガはあくまで冷静にシルバーファングの様子を観察している。



「ぐるる……がぁ!」



そんな膠着状態はシルバーファングが先に動いた事で崩れた。

低い軌道で接近し、対するローズベルガは先程と同じように下段への薙ぎ払い。

さっきは簡単に転ばされたけど、今度は過集中故の超反応で跳躍し、そのままローズベルガの美形な顔に蹴りを食らわせた。



「っ、ふふ……そう来ましたか……!」



だけどローズベルガもただではやられない。

シルバーファングの足を掴むと力任せに投げ飛ばす。



「グルァッ!?」



その勢いのまま地面に叩きつけられて地面をバウンドしながら吹き飛ばされていく。

しかし、シルバーファングも負けじと受け身を取ってすぐに立ち上がる。



「良い目です。楽しくなってきましたね……さぁ、もう一度来なさい」



ローズベルガは挑発的に手招きをしてシルバーファングを自分の方へ招く。

それを見たシルバーファングはさっきよりも更に速く突進する。



「ふっ!」



ローズベルガの槍のリーチを活かした突き攻撃。

シルバーファングはそれをギリギリまで引き付けてから横に跳んで回避。

更に横薙ぎの攻撃が来るけど、それもジャンプで避けて相手に近付く。



「甘いわっ!」


「ぐぅッ!?」



あぁ、だけど……石突を地面に着けて、それを起点に飛び上がったローズベルガがお返しとばかりに蹴りで迎撃した。

ガード出来てたからダメージは入ってないけど、また距離を離されちゃったな……



「うふふ、シルバーファングさん。やはり貴女は素晴らしいグラ娘です。

大胆な動きでありながら無鉄砲な特攻ではなくしっかり攻撃を見極めている。

更にはこんな可愛い見た目でありながら獰猛な獣のような荒々しさも兼ね備えている。貴女のような子は初めてです」


「グルルル……!」


「あら、敵に褒められるのは嫌でしたか?」


「グァウ!!」


「そうですか、それは失礼しました。うふふ、では続きと行きましょうか?」



再度両者の激突が始まる。

私はシルバーファングのオーナーだ。

当然彼女を応援しているし、勝ってほしいと思う。

あぁ、だけど……それなのに、ローズベルガの美技に酔いしれてしまっている自分が居る。

技を変え、構えを変え、距離も緩急も自由自在。

血統の積み重ね。技術の積み重ね。オーナーによる指導法の積み重ね。

そして何より……未成熟な肉体を最大限にケアしながら磨きあげられたローズベルガの努力の結晶。



「はぁぁぁぁッ!」


「グルァッ!」



シルバーファングは更に速く、そして力強くローズベルガに向かっていく。

そしてそれに釣られるようにローズベルガの動きもより激しい物に変わっていった。



「良い、実に良いですよシルバーファングさん! さぁ、もっと私を楽しませなさい!」


「グルァア!!」



ローズベルガの槍とシルバーファングのナックルダスターがぶつかり合う。

その衝撃は離れている私にまで届いてくる。

本当に隙が見当たらない。シルバーファングの体力ゲージも残り少ないからゴリ押しも出来ない。

このままタイムアップになればローズベルガの勝利だ。

いや、その前にシルバーファングが攻撃を受けて負ける可能性も……



「ギブアップ!」



……え?



「……!? 私とした事が……」


「ガアァッ!」


「あらあら、もう試合は終わりましたよ?」


「っ、シルバーファングっ!!」


「!? え、あ……ぅ?」



ローズベルガのオーナーによる突然のギブアップ宣言。

ただ過集中状態のシルバーファングにはその声も試合終了のゴングも耳に入らない。

当のローズベルガがいなしてくれてたから大事には至らなかったけど……プレスラムルビーに続いて2回目だ。

一歩間違えれば最悪出場停止も有り得る。

私の言葉で正気を取り戻したシルバーファングもその事に気付いたらしく、顔を青くして謝り倒していた。

私も向かいのオーナーに頭を下げると、気にするなと手を振ってくれた。

後で改めて謝りにいかないと……


それにしても流石の年季だ。

あの時、ローズベルガは明らかにヒートアップしていた。

あのまま続けさせたら本格化前の身体に悪影響を及ぼすと判断して、ギブアップを宣言したんだ。

今後の健全な成長の為に勝てる試合を捨てる……いつかはそんな相手と真正面から闘わなくてはならない。

凄いな、流石だな……と感心しているだけでは駄目なんだ。気を引き締めないと……



「ごめんなさいっ! 本当に追い打ちをかけるつもりはなくて……っ」


「うふふ、大丈夫ですよ。

貴女のその目を見れば分かりますから。

それよりも……早く観客に応えてあげてください」


「……はいっ」



シルバーファングが両手を上げると客席から歓声が響いた。

決着こそ優勢な方がギブアップするという消化不良なものだったけど、道中の闘いは見ているだけで白熱し……何よりローズベルガとシルバーファング、両者共に本当にかっこよかったのだから皆が黙ってるなんて出来るはずもない。

割れんばかりの歓声に身を包みながら改めてコロッセオの中央に並んだ二人のグラ娘。

二人ともまだ少し息が荒いけど、やりきったって顔で笑ってる。

そんな姿に私も思わず笑みが零れた。




格上であるローズベルガと死闘繰り広げた経験は思いの外大きかったらしい。

その後の試合は勢いのまま勝ち進んだ。

最後だけはカルネラブラムに敗れたけど、それ以外は全勝。

勢いが止まっていた可能性があるから最後に当たったのは運が良かった。

ローズベルガもシルバーファング以外には全勝して戦績は並んだけど、直接対決で勝っているので今大会はシルバーファングの優勝となった。


次からはいよいよDランク。

もっとも人数が多く、生涯をこのランクで終えるグラ娘も少なくない。

そんな場所で……私達は闘うんだ。

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