第10話 Dランクへの道


翌朝、朝刊にはシルバーファングの勝利がデカデカと掲載されていた。

何しろ新人オーナーと格闘術を扱う新人グラ娘一人のチームがファイヤーフラッシュを破ったのだからある種当然の反応だとは言えるけど。

あぁ、でも……新聞の片隅に小さく載っているファイヤーフラッシュ引退の文字には少しだけ心に来るものがある。



次の対戦相手はダガー二刀流のカルネラブラム。

シルバーファングと噛み合う距離のスタイルだから嫌な予感はしてたけど……見事に当たってしまった。

今までは距離を潰してラッシュなりタックルなりで押し切れてたけど、カルネラブラムも接近戦は望むところ。

近距離でのアドバンテージが無くなり、更にはタックルを仕掛けた際にはのしかかるように押し潰された。

あれは総合格闘技におけるタックルの潰し方……完全にシルバーファングの闘い方を研究し、対策していた。

そうなってしまっては経験の浅いシルバーファングでは対応する事が出来ず、そのまま敗北した。


その次の相手は大剣使いのレッドガル。

上位ランクなら未だしもEランクの大剣使いはまだ荒削りで大振りなのでシルバーファング有利に試合は進んだ。

ただ、タックルのフェイントを仕掛けた時にレッドガルは膝を出してきた。

失敗には終わったけどあれもシルバーファングのタックルに対するカウンターだったのだろう。

念の為、それ以降はタックルではなく立ち技で攻めるように指示を徹底した。

結果、それで圧倒してレッドガルには勝てたけど……このまま受け身でいる訳には行かないよね。



※※※※※



「シルバーファング、話があるんだけど」


「は、はいっ!」



レッドガルとの戦勝祝いの焼肉屋から帰って一休みした後。

リビングにシルバーファングを呼んで対面に座らせる。



「次の昇級大会に出ようと思うんだ」


「え、Dランクのですよね? 早くないでしょうか……?」


「確かに早いとは思う。けれどここ2戦ともシルバーファングへの対策が見て取れた。

何しろ君のバトルスタイルは特異で目立つからね……

特にEランクで最も恐ろしいのは勢いに乗るった新人だ、って話もあるぐらい。

皆んな君を警戒してるし、このままだとEランク帯にシルバーファング対策が浸透しかねない」


「なので対策される前にDランクに上がってしまおう、と?」


「そうだね。当然Eランクより厳しい闘いにはなるけど……勝負出来るだけのポテンシャルはあると思ってる。

それに、グラ娘を少しでも上のランクに行かせる事はオーナーの役目だと思うし……挑戦、してみない?」



私の問いかけにシルバーファングは少しだけ躊躇したけど……すぐに、しっかりと頷いた。



「分かりました、挑戦してみます!」


「ありがとう! じゃあ早速手続きしてくるよ。シルバーファングは身体を休めてて」



その返答に満足し、立ち上がって部屋を出ようとドアノブに手をかける。

……と、服の裾を引っ張られた。

振り返ると私の服を摘んでいるシルバーファングが。



「あ……あのっ! Dランクの昇級大会は厳しいと聞きます……なので、あの……」



もじもじしながら言い淀むシルバーファング。

その真意が分からず、彼女の言葉を待ち続ける。



「だから……そのっ! ゆ、優勝したら……デートしてくださいっ!」



あぁ、そういう事か。別に珍しい事じゃない。

グラ娘とオーナー……それは人によっては生涯を共にする関係だ。

それでなくても普段から闘い方を指導し、勝敗の苦楽を分ち合う仲だ。

グラ娘の方が恋愛やそれに近い感情を抱く事もままある事らしい。

けれどオーナー側は恋愛感情を持つ事は推奨されていない。

何しろ10年前後で生を終えるグラ娘に対し、人間は不老不死だ。

選手として愛する事は良くても、一人の女性として愛してしまったら辛くなるのは自分だと先生に散々言い聞かせられてきた。


……けれど、それでも



「もちろん、優勝したらデートでも何でも付き合うよ」



気弱な所があるシルバーファングのモチベーションに繋がるなら、いつか来る悲しみに耐える意義もあるだろう。



※※※※※



『さぁ、始まりました! Dランクへの昇級を賭けたバトルが始まります!

注目の選手はやはりシルバーファング!

Eランク戦を僅か3戦……その内1敗しているにも関わらず早くもこのDランク昇級大会に参加しましたっ!」


実況が興奮気味に会場を盛り上げる。

それに釣られて観客も歓声を上げ、会場のボルテージは最高潮だ。



『第一試合! シルバーファングVSローズベルガ!

Eランクの華、ローズベルガがいよいよ登場だ!

Dランクへ昇級し大輪の花を咲かせるか!

対して新人オーナーの下、脅威のスピードでDランクに挑戦したシルバーファング!

世間からは勇み足、時期尚早との声もありますが……この大会をどう乗り越えるのか! さぁ、両選手の入場ですっ!』



一際大きな歓声が巻き起こった。

シルバーファングも注目度が高いし、相手のローズベルガも良血のサラブレッドで着実に戦績を積み重ねてきた。

血統的に晩成型である事、所属チームが順調で且つオーナーが育成上手な人という事もあって今日までじっくり育てられてきた。

手強い相手だけど、データで見れば彼女の本格化はまだ先……オーナーも無茶はさせないだろうから、そこを上手く突いていくしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る