※第9話 Eランクへ


『決まったぁーーー! シルバーファング、見事にプラントソラテックスを下し二連勝!

Eランクもこの勢いに乗っていくのか⁉︎』



※※※※※



「やりました、オーナー!」


「お疲れ様。良い試合だったよ」


「ありがとうございます!」



Gランク最後の闘い。立ちはだかったのは太陽エネルギーの技術開発の最大手、ソラテックスが運営しているチーム……『ソーラー・セルリアン』の新人グラ娘。

大企業と言えど全員が全員才能溢れる、もしくは育成が順調に進むという訳ではなく……今回闘ったプラントソラテックスもそんなイマイチ乗り切れていないグラ娘だった。



「おめでとう。これで晴れてEランクだ。

前にも言ったけど、これからは勝利の味を知ったグラ娘が相手だからね」


「はいっ! この勝利を活かすべく、より強く精進いたしますっ!!」


「うん、その意気だよ。さ、今日はもう帰って休もう」


「はいっ!」



新たな道への決意を新たに、私とシルバーファングは帰路に着いた。



※※※※※



「次の対戦相手が決まったよ」


「本当ですか⁉︎ どんなグラ娘何でしょうか⁉︎」


「名前はファイヤーフラッシュ。

Eランクで足踏みはしているけど、その分このランク帯での経験は豊富だ。

武器はオーソドックスなロングソード。

平時の勝率は悪くないんだけど、彼女がEランクに上がりたての頃は後の高ランカーがひしめく魔境でね。

おかげで昇級大会では負け続け。それが尾を引いているのか、大物達が上のランクに行った後もEランク止まりだ」


「それでも……楽な相手では無いんですよね?」


「そうだね。戦法は基本に忠実。昇級大会では力みがちで本来の実力は発揮出来てないけど……裏を返せばそれ以外の戦いなら安定している」


「私はどうすれば良いのでしょうか?」


「これからのランク帯ではお互いに情報収集し、対策し合ってると思っていい。

シルバーファングはまだ新人だし、何より前例の無い格闘スタイルだからそこはアドバンテージだね。

相手はベテランだけあって資料は豊富だから、しっかり対策を練っていこう」


「はいっ!」


「よし。じゃあ今日はゆっくり休んで試合の疲れを癒してね。私もそろそろ寝ようかな……」


「オーナー」


「ん?」


「いつもありがとうございます……おやすみなさい、良い夢を」


「うん。おやすみ……シルバーファング」




※※※※※



『さぁー始まりましたっ! Eランク戦注目のカード……シルバーファングVSファイヤーフラッシュ!

Eランクのベテランに前代未聞、格闘術を操る若きグラ娘が挑みます!』



ゴングの音が会場に響き渡る。



「ハァッ!」



予想通りファイヤーフラッシュはロングソードギリギリの間合いの距離を保ちながら先制攻撃を仕掛けてきた。



『おおっと!  Eランクとは思えないスピードと気迫っ!!』


「ふっ!」



けれど、間合いギリギリという事は、少し下がればかわせるという事でもある。

ファイヤーフラッシュはリーチの短いシルバーファングの方から離れた事に疑問符を浮かべているけど……それを臆病と思わず警戒しているのは流石というべきか。

シルバーファングには開始暫くは距離を取って相手を観察するように指示してある。

正直言って自力は向こうの方が上。

けれどファイヤーフラッシュが昇級大会で負け続きなのはここぞと言う時に焦ってしまうから。

新人相手にそうなるかは分からないけど……勝機があるとすればそこを突くしかない。



『ファイヤーフラッシュの猛攻! シルバーファングは防戦一方だぁーーー!』


「く……っ!」



ファイヤーフラッシュは徹底してシルバーファングのアウトレンジからロングソードの切っ先で切り付けてくる。

決して踏み込まず、着実にダメージを与えてくる。

恐らくは体力ゲージを0にする、のではなく時間切れでの判定勝ちを狙っている。

それだけ未知の存在である格闘術を恐れているという事。

……そろそろシルバーファングの目も慣れてきた頃だろう。



「シルバーファング!」


「っ、はいっ!」


「っ!?」


『おぉーっと!? シルバーファングが仕掛けたぁ!

正に狼の様な瞬発力で左のジャブが相手の顔面にヒット! しかしまだ浅いか!?』



それで良い。まずは相手が想定していた戦術を崩す事。

この距離感での闘いに迷いを生じさせれば……ファイヤーフラッシュには必ず隙が生まれる。



「ふっ! はぁっ!」


「この……!」



ファイヤーフラッシュは反撃よりもバックステップでの退避を選んだ。

体力では勝っているから、時間が経てばそれで勝てるけど……彼女の表情からはそれに対する“恐れ”が垣間見える。


先程までなら完封勝利と言えた。

けれどシルバーファングに一発貰って下がった今……それは“逃げ”だと捉えられかねない。

そしてそれは、Eランク止まりである事を嘲笑されている彼女に取って……最も屈辱的な事。



「っ! このぉっ!!」



『おぉっとファイヤーフラッシにによる連撃ぃ!! 一気に形勢が変わります!!』



シルバーファングの応援に傾いてきた会場の雰囲気に呑まれまいとするように……ファイヤーフラッシュはこれまでよりも数段深く踏み込んで連撃を仕掛ける。

今までのチマチマした攻撃から一変したスタイルはせっかく慣れた目をリセットされてグングンとシルバーファングの体力ゲージが削られていく。けど……



「……来た」



シルバーファングの過集中モード。さぁ、ここからが本番だ。



「な……っ!」



『来た! 追い詰められたシルバーファングの真骨頂!

まるで蝶のように舞い踊りベテランの剣を躱していくぅぅぅぅぅぅ!!』


「グルル……っ」



シルバーファングはファイヤーフラッシュの剣筋を見極め、最小の動きで回避する。

そして彼女の連続攻撃の合間に出来た僅かな隙を……



「がぁっ!」


「あっ!?」


『シルバーファング! 低空タックルでファイヤーフラッシュの脚を取って押し倒したぁーーー!!』



実況の煽りに観客達のボルテージが高まっていく。

シルバーファングは押し倒した体勢からファイヤーフラッシュの腕に両足を絡め、馬乗りの様な形になって腕を封じた。

そして、恐怖と絶望に慄くファイヤーフラッシュの顔面に無慈悲な鉄拳が降り注いだ。




「シルバーファング!」


「っ⁉︎ あ……は、はいっ!」


「おめでとう。君の勝ちだ」


「え……あ……」



シルバーファングは一瞬唖然として。

けれど観客の歓声が聞こえたのか、すぐに立ち上がって拳を突き上げた。

今回も試合終了の合図は聞こえなかったみたいだけど、私の声に反応して手を止めたのは成長かな?



『勝者は新人グラ娘のシルバーファング!

Eランクに上がりたてとは思えぬ鮮やかな勝利でしたっ!!』



そんな実況で益々会場は盛り上がり、大会は次のカードへと移っていく。

シルバーファングEランクの初戦はガッチリと観客達のハートを掴んだようだ。

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