※ 第7話 激闘


シルバーファングが距離を取る為にバックステップで後ろに跳ぶ。



「逃がしませんわっ!」



だがプレスラムルビーは逃がさないとばかりに距離を詰めた。



『おーっと! プレスラムルビー、更に加速して追い縋るーっ!!』


「ふふん。この距離ならレイピアのリーチの分……っ!?」



シルバーファングの左の拳が、その顔面にヒットした。

下がりながらのカウンターで右ストレートまで叩き込めなかったけど、接近は阻止出来た。



「くぅ……っ」


『おおっとぉ!? シルバーファング! ここでまさかの反撃だーっ!!』


「ふっ……!」


「甘いですわっ!」


「っ!?」



シルバーファングは再び懐に潜り込もうとするけど、またもや機先を制したプレスラムルビーの刺突に阻まれる。



「うぅ……っ!」


「真正面から近付いちゃダメ! サイドステップを意識して!」


「は、はいっ」


「ふっ……」



ジリジリと横に動くシルバーファングに対して、プレスラムルビーは剣先をピッタリと合わせて待ちの姿勢。

何しろ体力ゲージでは勝っているから、このまま時間切れになればプレスラムルビーの勝ち……無理に攻める必要は無いんだから。



「このまま時間を使わせる訳には……」



シルバーファングは意を決したかのように深く深呼吸して……



「はあぁぁぁぁっ!!」


「!?」



一気にプレスラムルビーに突っ込んだ。



『おおっと! シルバーファング、ここでまさかの特攻だーっ!!』


「はぁぁぁ……っ!!」


「くっ……!」



プレスラムルビーはレイピアを顔の前に垂直に構えて防御態勢を取って刺突を繰り出す。

それは確かにシルバーファングの左肩を貫いて……けれど、彼女は止まらなかった。

更に歩を進めて、レイピアを更に深く身体に食い込ませながらも大きく踏み込んで渾身の右ストレートをプレスラムルビーの顔面に叩き込んだ。



「ぐぅっ!?」


『おぉっと! シルバーファング、捨て身での右ストレートが炸裂ぅーっ!』


「よし! このままラッシュをかけて一気に決めるんだ!」


「はいっ!」


「こ、の平民が……舐めるなあぁぁぁぁぁっ!!」


「え……っ!?」


「なっ!?」



プレスラムルビーがシルバーファングの服を掴んで……投げ飛ばした!?

レイピアも抜けて距離も離された……っ!



「ふふ、わたくしを血筋だけの女と思わない事ですわ。

貴女が格闘戦主体で来る可能性は考えていました。

無理矢理にでも接近してくるであろう事も。

当然、接近された場合の対策も用意してますわ」



まずい……懐に飛び込んでのインファイトが最も勝率の高い戦術だった。

それを潰された以上、シルバーファングに勝ち目は……


いやいや、何を弱気になってるんだ私!

最後までグラ娘の勝利を信じなくてどうするんだ!


あぁ、でも……あの子のメンタルケアぐらいは考えておかな、きゃ……?



「シルバー…ファング……?」



思わず名前を呟く。

けれど、彼女は何も答えなかった。

深く息を吐き、目を見開き、ただ静かにプレスラムルビーを見据えている。

これはマリーグランナーの時と同じだ……



「あら、急に静かになって……命乞いでもしますの?」


「……」



挑発にも無言を貫くシルバーファングに、プレスラムルビーは不快そうに眉をひそめる。

けれど、だからと言って自分から攻撃を仕掛けるような事はしなかった。

何せ時間切れになれば勝つのだから。

彼女はただ防御に徹するだけで勝てる。



「グル……」



それを理解しているのか、闘争心が溢れているのか……獣のような唸り声を洩らしながら、シルバーファングは突貫した。



「ふふふ、そんな見え見えな突撃なんて通じる訳がありませんわ!」



プレスラムルビーはレイピアの刺突を繰り出すけど、シルバーファングは更にその“下”を行った。

まるで地を駆ける狼のように。



「アアアアアッ!!」


「なっ!?」



シルバーファングは前に出ていたプレスラムルビーの右脚を抱え込んで押し倒した。

そして素早くマウントポジションを取ると、一切の情けも容赦もなくプレスラムルビーの端麗な顔目掛けて拳を振り下ろした。



「ア゛ア゛ッ!!」


「ぐぅぅ……っ!?」



『おおっと! ここでシルバーファング、プレスラムルビーの顔をタコ殴りぃー!!

マウントを取られたプレスラムルビーは身動きが取れないーっ!!』


「くっ……や、やめなさいっ!」



プレスラムルビーはレイピアを突き刺して反撃を試みるも、その右手を掴まれて更に顔面を殴り付けられる。


「ぐっ! あぁ……っ!」


『おーっと! シルバーファング、ここでプレスラムルビーの右手を封じたぁ!』


「あああああッ!!」


「うぐぅぅ……ッ!」



シルバーファングはマウントポジションのまま、何度も何度もプレスラムルビーの顔目掛けて拳を振り下ろす。

もう既に彼女の美しい顔は血塗れだ(傷はすぐに回復するけど)。

それでもシルバーファングは止まらない。



「あ、貴女……っ」


「……ッ! グルゥ……っ!」


「やめ……っ」


「ガアァァァァァッ!!」


「あぐっ……も、もう……やめ、て……」



プレスラムルビーの懇願を無視し、シルバーファングは血塗れの顔を殴り続ける。

もう既に戦意を喪失しているのか、抵抗らしい抵抗はない。そして……



『決まったぁーーーっ! プレスラムルビーの体力ゲージが0になりました!

よって勝者! シルバーファングーっ!!』


「ぐ……っ!?」


『こ、これは!? 勝負が決したのにシルバーファングはプレスラムルビーの顔を殴り続けるーっ!

このままでは反則になって……』


「シルバーファングッ!」


「……っ!?」



私の呼びかけにシルバーファングは肩を震わせて、ようやく拳を止めた。

そしてゆっくりと立ち上がる。



『おーっと! シルバーファング、ようやくプレスラムルビーを解放しました!』


「く……っ!」



解放されたプレスラムルビーは顔を庇うようにして立ち上がると、私を睨んだ。



「貴女……っ、自分のグラ娘になんて教育をしていますの……っ!」


「すみません、私の指導力不足です」


「ふんっ」



プレスラムルビーは鼻を鳴らしてフィールドを出ていき、それと入れ替わるように私が入る。



「シルバーファング……」


「オ、オーナー……わた、私

……」


「大丈夫。わかってるよ」



私はシルバーファングを抱き締めて、彼女の背を優しく叩きながら語り掛けた。



「確かに良くない事をしてしまった。でも今君がすべきなのは反省じゃない。

観客の声援に応える事だ。客席を見てごらん」


「……!」



シルバーファングは顔を上げ、観客席を見た。

期待と興奮に満ちた眼差しの観客達がシルバーファングの勝鬨を今か今かと待ち侘びている。



「……っ」



その視線に押されるように、シルバーファングはおずおずと右手を挙げる。

汗と血に塗れた彼女は、歓声と賞賛に包まれた。


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