※ 第6話 二試合目
二週間後、ようやく諸々の教材が送られてきた。
まぁ頑張ってくれた方だろう。
何しろ格闘技の教本や映像資料でも男性は映せない。
もしかしたら一から作っていたとしてもおかしくない。
「これが……武器、ですか?」
「そう。ナックルダスターって言って、手に嵌めて打撃力を上げる為の物ね。
ほら、ここに指を通して、ここの部分を握り込んで……そうそう上手い上手い」
「これが、私の武器……」
シルバーファングはまるで宝石が散りばめられた指輪のようにそれを恍惚とした表情で眺めた。
「軽い、です」
「うん。拳に関してはガントレットも選択肢にはあったんだけどね。
拳速を重視してナックルダスターにしたんだ。
ガントレットと比べて防御力は落ちるけど、新人戦を見る限り君のディフェンスは"受け"より"避け"の方が向いてそうだからね」
「は、はいっ!」
「後はレガースね。これは脚の保護より、蹴りの威力を上げる為……武器扱いだね。ほら、凹凸が付いてるでしょ?」
「おぉー……!」
「運営に確認したら技はパンチかキック等の打撃技のみ。絞め技や極め技は禁止」
「分かりました!」
「よし、早速格闘技のトレーニングだ。まずはしっかり体を解してね」
「はい!」
※※※※※
「えぇと、パンチの基本はワン・ツー。
左のジャブで牽制しつつ、右のストレートを叩き込む。これが基本ね。
ジャブの射程は半身を前に出してる分長くなるね。
そこから腰を捻って打つのが右ストレート」
「はい!」
「じゃあ……まずはワンツーからやってみて」
「……はいっ!」
「ワンツー、ワンツー! ほら、もっと腰を入れて!」
「はっ! ふっ! ほっ……!」
「そうそうその調子! バンバン、じゃなくてババン!
ジャブはあくまで牽制で、本命はストレート! 強く打つんじゃなくてコンパクトに!」
「はいっ!」
「そうそう良い感じ。腰が入った良いフォームだよ!
今のを5セット、終わったら次はバックステップとサイドステップ!」
「はいっ!」
「いいよいいよ! 上手っ!」
正直な所格闘技をちゃんと見た事すらないから本当に良いのかは分からない。
ただそれを告白して気分を盛り下げる意味も無い。
そして何より……あんなに嬉しそうにしてるんだもの。
「よし、次はキックの練習ね。基本は膝蹴りかハイキックになるかな。
ローキックやミドルキックで脚やボディを攻撃してもすぐ回復されちゃうからね。
狙うならポイント目的のハイキック。もしくはインファイト用の膝蹴り」
「インファイト……?」
「うん。相手が武器を持っている以上、シルバーファングは相手の懐に飛び込んでのインファイトが基本戦術になると思うんだ。
場合によっては被弾を覚悟で捨て身で接近する必要も出てくるかもね」
「なるほど……! 頑張りますっ!」
「よし、まずはハイキックから!」
「はいっ!」
※※※※※
「い、いよいよですね……!」
「リラックスして。相手は1勝してるとは言え、君と同じルーキーだ。
しかも新人戦で負けた後、未勝利同士での試合に勝っただけ。気負う必要は無いよ!」
「はいっ!」
「対戦相手はレイピア使いのプレスラムルビー。
メルクルス×アルーシャの子で、技巧派同士の組み合わせだね。
レイピアの特徴は防御の難しさと貫通力の高さ。
見た目に反してダメージは大きいから注意ね。
試合では相手の攻撃の起点に合わせてレイピアを突き刺して機先を制した場面が度々あった。
ただデビュー戦ではそのまま押し切られて負けた。
テクニックはあるけど、純粋なフィジカルは新人の中でも低い方だ。付け入る隙は十分にある」
「はいっ!」
「よし、行っておいで!」
「はい!」
フィールドに向かったシルバーファングは、確かに緊張しているようだった。
でもそれは決して悪い事じゃない。
勝ちたい!という気迫は時には格上すら呑み込むものだ。
『グラ娘Gランク戦! 新人戦では惜しくも敗れましたが後半怒涛の追い上げを見せてくれたぁ!
今回はなんと前代未聞の格闘スタイルで参戦! シルバーファーーーングッ!!
対するは気高きレイピアの君……プレスラムゥゥゥ……ルビィィィィィッ!!』
おおおおおおお!! と観客の歓声
が上がる。
大半はこの後のAランク戦目当てなんだろうけど、だからといって低ランクの試合で盛り下がるような人達じゃない。
『無名の血統VS良血のお嬢様の闘いの火蓋が、今切って落とされようとしていますっ!!』
「「よろしくお願いします」」
互いに礼を交わして開始線まで歩く。
そして互いに構えた。
プレスラムルビーはレイピアを顔の前で垂直に構え、半身の体勢で腰を落とした。
シルバーファングもナックルダスターを握り締めてボクシングスタイル。
『 両者気合いは十分のようだっ!!
さぁ、行くぞ! レディ……ファイッ!!』
最初に動いたのはシルバーファング。
低い軌道で飛び込み接近戦を挑み……
「ふっ!」
「うぐっ!?」
それに刺突を合わされた。左肩を貫かれて画面の体力ゲージが減少する。
「ふふ。わたくし、ただ突っ込んでくるだけの単細胞の相手は得意ですのよ?」
「く……っ!」
プレスラムルビーが得意げにそう告げた。
『おおっとー!? シルバーファング! 開幕からいきなり窮地に立たされたかぁ!?
プレスラムルビー! シルバーファングよりも小柄なその身で的確に刺突をヒットさせるーっ!!』
「くっ!」
『さぁ、ここからどう反撃に出るのかぁーーー⁉︎』
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