第4話 試合後
「ごめんなさいっ! 私、負けちゃいました……っ」
「シルバーファング……」
控え室に戻ると、開口一番でシルバーファングが謝罪をしてきた。
「私……勝てませんでした! せっかく色々教えてくださったのに……!」
「そんな事ないよ。むしろよくやった方だよ」
私は彼女の頭にポンと手を置いて、優しく撫でた。
「オーナー……」
そんな彼女は目をウルウルさせていて……今にも泣き出しそうだ。
「後のスターグラ娘にも新人戦で負けた人は大勢居る。
何度も言うようだけど、新人戦はあくまでお披露目……数ある試合の1戦でしか無いんだからね」
「それは、そうですけど……」
「それに、今回の負けは私の責任でもある」
「そんな事は……!」
「君に格闘の才能がある事を見抜けなかった。
全ての武器適性がGランクである……と聞いて、思考停止して安牌のロングソードを持たせてしまった。その結果がこれだ」
私は自分のミスだ……と、そう告げた。
「オーナーは悪くありません! 私……私がもっと強ければ……っ」
「それは違うよシルバーファング。
君はまだ若い。そしてこれから強くなれる。
だから今回の敗北を糧にして、また頑張って欲しい」
「……はい!」
彼女は瞳を潤ませながらも力強く頷いてくれた。
私よりも小柄なのに、どこか大きく見える……そんな姿をイメージさせてくれた。
※※※※※
「今後に付いてのお話があります」
「は、はいっ」
帰宅して食事や入浴その他諸々を済ませると、私はシルバーファングをリビングの椅子に座らせた。
「議題は武器をどうするか、ね。
具体的にはこのままロングソードの練習を続けていくのか、それとも格闘術に転向するのか」
「えっと……」
「うん、いきなり言われても分からないよね。
だからそれぞれのメリット・デメリットを書いていくね」
私は立ち上がってホワイトボードにマジックペンを走らせる。
「ロングソードのメリットは何と言っても扱い易さとサンプルの多さ。
これまで多くのグラ娘がロングソードを使ってきた。
ノウハウも蓄積されているし、資料や映像も豊富。
私自身、オーナー試験ではロングソードを含めた色々な武器の指導法を習ったしね」
続いて、とボードに書き込んでいく。
「デメリットは……やっぱり君のロングソードの適正はGなんだ。
練習すれば幾らか上がる事はあるけど、それでもGスタートは大きなハンデになる」
「はい……」
「次は格闘術ね。メリットは対策のされ難さ。
グラ娘は武器を持って戦うのが基本……小技としてキックやパンチを打ってくるグラ娘も居るけど、格闘そのものを主軸にするのは前代未聞だ。
そして、これが一番重要なんだけど……君には格闘の才能がある。少なくとも他の武器種よりもずっとね」
「はいっ」
「デメリットは、やっぱり武器と比べると威力もリーチも劣ってしまう所かな。
手数は増えるかもだけど、それを補える程のメリットも言えるかは微妙だね。
あと、これは完全に私の問題で申し訳ないんだけど……格闘術の指導方なんて習ってない。
資料やノウハウなんかも当然無いだろうしね。
ベテランなら経験則で教えられるかもだけど、私はそうじゃない。
一から指導法を勉強して試行錯誤をしていく事になる」
「そう、ですか……」
「以上を踏まえてなんだけど……君はどうしたい?」
「……っ」
彼女は少しだけ迷ったそぶり見せて……けれど真っ直ぐな目で告げた。
「私には特別な才能が無いと思ってました。
だから競技に出る事なんて夢のまた夢だって……
でも、そんな私をオーナーは拾ってくれました。
私に格闘の才能があるって言ってくれました。
私は、オーナーのその期待に応えたいです」
「シルバーファング……」
「だから……私に格闘術を教えてください! お願いします!」
そう言って、シルバーファングは深々と頭を下げた。
「分かった、一緒に頑張っていこう!」
「はいっ!」
「と言っても色々と準備もあるから、暫くは筋トレ中心のメニューになるね」
「分かりました!」
「うん、良い返事。試合の直後だから今日はもう休むとして、本格的なトレーニングは明日からだね。
私はもう自室に戻るけど、シルバーファングはテレビとかゲームとか自由にしてていいからね」
「はいっ!」
シルバーファングは元気よく返事を返してくれた。
どうやら、今日の敗北で自信を失いかけたりはしなかったみたいだね。
……私には勿体無いぐらいのグラ娘だ。
※※※※※
「さて、と。用意する物は……兎にも角にも格闘技の技術書や映像資料。
そして武器……ナックルダスターかガントレット。あ、レギンスもかな?
レギュレーションを運営に確認しなきゃ。
練習用と本番用に用意しなきゃだけど……一から作って貰う事になるよなぁ。
だとすると結構お金かかるし、追加のグラ娘との契約は無理。
シルバーファングが賞金を獲得出来なかったら……いや、今は考えないようにしよう」
私は頭を振ってネガティブな考えを振り払う。だって私はグラ娘オーナー。
「グラ娘オーナー三ヶ条。
1、オーナーたる者、全てのグラ娘に愛を持って接するべし。
2、オーナーたる者、勝敗が決するまでグラ娘の勝利を信じ抜くべし。
3、オーナーたる者、グラ娘の為に全力を尽くすべし。
その気持ちは一片たりとも変わらない」
そして、口に出してはいけない“裏”一ヶ条……
『グラ娘に外の世界を知られてはならない』
それも、一瞬とて忘れた事は無い。
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