※ 第3話 デビュー戦


あれから一週間。

私なりに教えられる事は教えて来た。いよいよ実戦……新人戦だ。



『さぁー始まりました! 新人グラ娘のデビュー戦! 新人戦の開幕です!!

赤コーナー……巨斧の使い手! マリーグランナー!!

青コーナー……白銀の閃光、シルバーファーーングッ!

さぁ、それでは両者舞台へどうぞ!!』



登録名はシルバーファングにした。


ちなみに相手のマリーグランナーの両親はメタルグラス×ブラックメテオ。

共に斧使い、かつタフネスタイプとコンセプトのハッキリした組み合わせ。

しかもメタルグラスに至ってはBランクのグラ娘……血統でいえばこっちは圧倒的に不利だ。けれど……



「頑張って、シルバーファング」


「はい! 見ててください!」



グラ娘オーナー三箇条の一つ。オーナーたる者、勝敗が決するまでグラ娘の勝利を信じ抜くべし……だ。



『それでは試合開始です!!』


「はああああああっ!」



シルバーファングがロングソードを上段で構えて駆け出す。



「ふっ!」


「あぁっ⁉︎」



けれどマリーグランナーの斧の一振りでロングソードが弾き返され、シルバーファングは大きく体勢を崩した。



「はぁっ!」


「かふっ⁉︎」



そこからガラ空きになったボディーにパンチを食らってよろめく。

フィールドの上部に設置されたモニターに表示されているシルバーファングの体力ケージが微減する。

これは与えたダメージを元に計算されていて、相手のゲージを0にする……もしくはタイムアップした瞬間に体力ゲージの多い方の勝利となる。



『マリーグランナー! パワーだけではなくテクニカルさも兼ね備えた見事な攻撃だああ!!

シルバーファング、手も足も出ないか⁉︎』



「はぁ、はぁ……」


「ふふっ」



マリーグランナーが余裕笑みを浮かべる。精神的にも優位に立たれている……



「まだまだっ!」


『シルバーファング、負けじと剣を振るう!

しかしマリーグランナーは巧みに防ぐ!』


「シッ!」


「ぐふっ⁉︎」



不味い! その場で棒立ちになったら……っ!



「はあぁっ!!」


「あっ……⁉︎」



鈍い光を放つ巨斧が、真横からシルバーファングの細い首を捉えた。

シルバーファングの小柄な身体が吹き飛んだフィールドの壁に衝突。

モニターの体力ケージが一気にレッドゾーンに突入。残りは1割……



「かはっ、くっ……」



それでも、彼女は剣を杖代わりにしてフラフラと立ち上がる。


これこそが……グラ娘の試合で体力ゲージが採用されている理由。

アレほどの巨斧の一撃を受けても骨に傷を付ける事すら叶わない。

流石に肉は裂けたけど、あれぐらいならすぐに回復する。

グラ娘同士でどちらかが死ぬまで戦う……となったら、どちらかの寿命が尽きるのを待つしかない。



「やあぁっ!」


『シルバーファング、再び特攻!』


「ふん。こんなヒョロヒョロ剣術じぁあ、アタイは倒せないよ!」


「あぅっ……⁉︎」

  


再び斧の横薙ぎを受けて……けれど握力は既に限界だったのかロングソードが弾き飛ばされた。



『おぉーっと! シルバーファング、武器を失った! 万事休すか!』


「これで終いだよッ!!」



マリーグランナーは丸腰になったシルバーファングに向かって……斧を振り上げた。



『マリーグランナー! これで勝負を決める気かぁ!!』


「……ふぅ〜……」



巨斧が迫り来る中、シルバーファングが深く息を吐き出して……空気が変わった。



「トドメだ!」



マリーグランナーが斧を振り下ろす。

だけど、シルバーファングはそれをギリギリで回避して……その勢いのままマリーグランナーの懐に入った。



「なっ⁉︎」


『おおっとぉ⁉︎ シルバーファング、マリーグランナーの斧を紙一重で回避! そしてそのまま懐に潜り込んだぁ!』


「……っ」


「があああっ!」



そして、そのまま……彼女の細腕がマリーグランナーの鳩尾に突き刺さった!



「がっ⁉︎ この……!」



今度は横薙ぎに振るわれる斧。

けれど、シルバーファングはその場で宙返りして避けると、その回転を利用してマリーグランナーに蹴りを放つ。



「ガゥっ!!」


「ぐふっ⁉︎ この、死に損ないがぁ!」



そして、マリーグランナーが斧を振り切った瞬間を狙って……彼女の顎に拳を叩き込んだ。



『な、なんとぉ! シルバーファング! あの巨斧をかいくぐってマリーグランナーの顎を的確に狙い撃ったぁ!』


「こ、の……大したことない血統の癖に……っ!」


「はぁ、はぁ……っ」



マリーグランナーが斧を振り回す。

だけど、シルバーファングはそれを紙一重で回避して、再び鳩尾や顎に拳を叩き込む。



『な、何という事だ! マリーグランナーの攻撃をギリギリで回避し続けて反撃する! これは一体どういう事だぁ⁉︎』


「こちとらグラ娘になる為に血の滲むような努力したんだよ!!

こんな……こんな新人戦で躓いてちゃいられないんだっ!」


「グルァ!」



上半身を倒した体重の乗ったハイキック。

それは相手の側頭部を捉え、マリーグランナーの体は先ほどのシルバーファングと同じく壁に衝突した。



「シルバーファング! 相手は武器を手放してる……チャンスだよっ!」


「グルル……!」


「……シルバーファング?」



もしかして私の声が聞こえていない?

それとも返事をする余裕が無いのな……ともあれ彼女は拳を握る。そして……マリーグランナーへと駆け出した。



「くっ、うぅ……」



マリーグランナーは流石にタフでもう立ち上がってるけど、明らかにふらついている。

このままラッシュを掛ければ倒せる、けど……



『タイムアーーーップ! 試合終ー了ー!!』



その拳が届く直前、無情にも試合の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。



『勝者! マリーグランナーッ!!』



実況の宣言に客席は大いに沸き立つ。


……届かなかった。

いや、考えてみれば当たり前だ。

シルバーファングは敗北寸前まで追い詰められていた。

そこから勝つには、それこそ相手を倒し切るしか無かった。

けれど……素手の格闘でマリーグランナーの体力を削る事は出来なかった。

せめてこちらの体力か残り時間、どちらかに余裕があれば……結果は変わったかもしれない。

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