第2話 出会い


「あああああああああ!! 間に合え間に合え間に合ええぇぇぇぇぇぇぇ!!」



最悪だ! 寝坊するだけなら未だしも、バスが渋滞で動かない!

だから運動不足の体に鞭打って全力疾走してるけど……かなり絶望的だ。


23番のアピールタイムは終わってる……どころか、オーディションそのものが閉まってしまうかもしれない。


それだけは駄目だ! 初心者向けオーディションは今日を逃すと一年先……その間に同期はどんどん伸びてしまう。

こうなったら贅沢は言ってられない……とにかくどんなグラ娘でも良いから契約しないと……!



「ぜひゅー……ぜひゅー……もう、一歩も動けない……」



でも、無事に目的地には辿り着いた。

後は受付で手続きを済ませて入場すれば……!



「間に合っ……」


『38番! 合格っ!!』


「……え?」



38番……それは今回のオーディションの最後の参加者。

それが合格したと言う事はつまり私が契約出来るグラ娘が居なくなったと言う事。



「あは、あはははははははは……アハハハハ!

終わった! ここに新人の癖にオーディションに遅刻してスタートすら出来ずに出遅れた女が居ますよーーー!!」


『それでは、ただいまよりラストアピールタイムに移ります』


「……え?」



ラストアピールタイム……それはアピールタイムで最後までオーナーから声が掛からなかったグラ娘が行える最後のアピール。


まだ……まだ終わってない! 声が掛からなかったって事は何かしらの問題がある場合が殆どだけど……行くしかない!

ステージを見据えてグラ娘の登場を待つ。



『31番、ヤクーヌ×アヤツジ。初子。

両親、及び祖母に競技経験は無し。武器適正は全てGランクとの事です」



……は? 両親にも祖母にも競技経験が無い?

オマケに武器適正がオールG……あぁ、思い出した。

確かに出場者の一覧に居た。天地がひっくり返っても契約する事は無いだろうと思っていたグラ娘だ。



『アピールを開始してください』


「い、行きますっ!」



あぁ、なんて酷い。ロングソードの殺陣を披露しているけど流石Gランクというか、下手っぴというか……

どんなに弱かろうが才能が無かろうが、食費やトレーニング費用は強いグラ娘とあまり変わらない。

正直彼女と契約するぐらいなら、無の一年を過ごして次のオーディションに賭けた方が遥かに利口だ。



『では50万から! 50万50万! 誰か居ますか⁉︎』



だけど、だけど……嘲笑されても前を向き続けるその眼に

入念にアップしたであろう事を示す飛び散る汗に

そして何より、陽の光を浴びてキラキラと輝く白銀の髪に……思わず目を奪われてしまった。



『No.12、50万! 他に居ませんか? 居ませんか⁉︎

……合格! No.12、契約ですっ!!』



手を挙げてしまった。

当然他に競り合うオーナーも居らず、31番は晴れて私所有のグラ娘となった。



「オーナー様、こちら契約書でございます」


「あ、はい……」



支払いと所属を決める契約書にサインして31番と対面に行く。



「あ、貴女が私のオーナーさんですか⁉︎」


「あー、うん。宜しくね?」


「はい! ありがとうございます! 私、もう競技者に成れないかもって……っ」


「これから頑張っていこうね。名前は……取り敢えずシルバーで良いかな?」


「はい!」



グラ娘はオーディション参加時にはまだ名前が無い。

競技者として登録する際に正式な名前を付けるけど、それまでは仮名で呼ぶ事になる。



「それじゃあ私の部屋に案内するね」


「はい!」



シルバーを自室に招き入れ、麦茶を提供する。



「ごめんね、まだ準備が終わってなくてね」


「いえいえ! お構いなく!」



……しかしこうして見ると本当に綺麗だ。

銀色の髪に青い眼は神秘的だし、他のグラ娘と比べて髪もサラサラしていて手触りが良い。

しかも彼女は特にスキンケア等をしていないと言うから驚きだ。

……つくづく競技者の才能があればと思ってしまう。

まぁ、他の道に進みたくないからこの子はオーディションに参加したのだろうけど。



「取り敢えずのスケジュールは一週間後にある新人戦かな。

あくまでお披露目会みたいなものだからそんなに気負わなくても良いからね。

まずはこの一週間で基本的なロングソードの使い方を覚えようか。

ロングソードは癖が無くて使いやすいからね」


「はい! よろしくお願いしますっ!」


「うん、良い返事。それじゃあ今日は疲れただろうしゆっくり休んでて。

私は別室に居るから、何かあったら遠慮なく呼んでね」


「はい! あの、本当にありがとうございますっ!

私、競技者になるのが小さい頃からの夢で……でも、適性が無くて諦めてたんです。

だからオーナーさんに拾って貰えて……本当に、本当に嬉しいですっ!」


「そっか。実は私も寝坊やら何やらで遅刻してね……シルバーが居なかったらオーナー人生お先に真っ暗だったから……私からもありがとう、って言うのも変かな?」


「いえいえ! ……あの、もし良かったらなんですけど、お名前なんか教えて頂けたりは……?」


「おっと忘れてた。ごめんね?」



グラ娘とオーナーの関係性はチームによって様々。

名前で呼び合う所もあれば、オーナーとしか呼ばず最後まで本名を知らないで過ごすチームもある。

まぁ、私はそこら辺は気にしないから普通に教えるけど。



「私はルカ。ルカ・アブドウナビ。改めて宜しくねシルバー」


「はい、宜しくお願いします! オーナー!」



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