闘え、グラ娘! ルカ・アブドウナビの新人オーナー奮闘記 〜寝坊と不運でオーディションに遅刻したら落ちこぼれのグラ娘が売れ残っていたのでその子を指名して育てます〜
生獣(ナマ・ケモノ)
第1話 新人オーナー
「新人オーナー諸君。諸君等は今日まで厳しい試験を乗り越えて今このグラディエーター・アイソレーションに立っている。
今更私から教えられる事は無い。
故に、最後はオーナー三ヶ条を伝授して終いとする!
改めて言う事でも無いが、私から諸君等に送る最後の手向けだと思って欲しい」
教官がすぅ……と息を取り込む。
「グラ娘オーナー三ヶ条!」
教官の声に、全員が姿勢を正して応える。
「一!」
「「「オーナーたる者、全てのグラ娘に愛を持って接するべし!」」」
「二!」
「「「オーナーたる者、勝敗が決するまでグラ娘の勝利を信じ抜くべし!」」」
「三!」
「「「オーナーたる者、グラ娘の為に全力を尽くすべし!」」」
「合格だ! 新たなる若人達よ、今より第一歩を踏み出し、どうか良きオーナーライフを!」
音もなく自動ドアが開いて私たち新人オーナーは外に出る。
人、人、人。
新人オーナーに注目するグラ娘ファン。
競技者を目指すグラ娘。
現役のオーナーや競技者。
私達はチームを作る前から既に注目される立場だ。
「アブドー! アブドー・ナミちゃーん!」
「ぐぇっ⁉︎ シェリー……!」
最後から私に抱き付いて来たのはシェリー・オーウェン。
私と同じく新人オーナーで、金髪碧眼スタイル抜群の美女。
その割に大型犬のように人懐っこくて良い人であるのは確か。だけど……
「シェリー、前にも言ったでしょ? 私の名前はルカ・アブドウナビ!
ナミって名前じゃないし、アブドウナビで一つの苗字なの!」
「えー? ナミちゃんの方が可愛いじゃない」
「ダメ! ちゃんとした名前で呼ばないと返事しないから」
「あーん、ごめんなさいルカちゃーん!」
「宜しい。で、何の用?」
「食事に行かない? 訓練のパートナーになった仲だし?」
「パス。私は寮に行って資料の整理やオーディションの獲得候補の選抜をしないといけないの」
「えー⁉︎ そんなの明日までにやればいいじゃない! ね? ね?」
「私はシェリーと違って個人勢だから準備が大変なの!
シェリーだって明日チームと合流するんでしょう? 最低限の知識は頭に入れておかないと」
「ちぇー……」
「拗ねないの。せっかくの企業勢なんだから有り難く思いなよ」
「企業勢は企業勢で大変なのよ。すぐ忙しくなるから今のうちに友達と遊びたいの!」
「それは分かるけど……」
オーナーには大きく分けて2種類居る。
私のような個人勢とシェリーのような企業勢。
個人勢の魅力はチーム作りから何まで自由に出来る事。
反面グラ娘も設備も自分で用意しなきゃいけないから初動が遅いし厳しい戦いになる。
その代わり上位ランク常連のチームを構築出来れば得られるお金と名声は莫大な物となる。
対して企業勢の魅力は最初からチームも設備も人材も揃っている場合が多いし、補強費も潤沢なところ。
企業勢になる機会の大半は成績不振によってオーナーが替えられるパターン。
フェアリーレイも前オーナーがチームをCランクに落としてクビを切られ、候補生の中でも成績優秀者だったシェリーが新たなオーナーに抜擢された。
対してデメリットはオーナー個人の成果が評価され難い事。
そして企業によっては活動に制限がかかる事。
例えばフェアリーレイは業界最大手のグラビアアイドルの事務所。
故に採用するグラ娘も巨乳限定で、グラ娘ランクがCに到達した際に着用を許される専用衣装も、水着を模した物に限定される。
他の企業だと自メーカーの武器しか使用出来なかったり、自社商品を宣伝する為の配信活動が義務付けられていたりする。
そのせいで有力なグラ娘を放出する事になったり、有望なグラ娘を泣く泣くスルーした……と言った事もザラにある。
「まだお互い慣れない環境だし……食事はもっと落ち着いてからにしない?」
「……デート」
「うん?」
「ただの食事じゃなくてデートならいいわ」
「えー……? まぁ、良いけど……」
「やった! 約束よ!」
「はいはい、分かったから」
そう言って手をブンブンと振ってバイバイをするシェリーと別れる。
まったく、私の何処がそんなに気に入ったのか。
訓練でパートナーになった事はあったけど……まさかそれだけで?
まぁ、どうせ他人の考えなんて分かる筈も無い。早く寮に行って明日に集中しないと。
※※※※※
私達が生きる新たな地、グラディエーター・アイソレーション……通称グライソ。
その中央からやや外れた場所に私の寮がある。
そこは新人個人勢オーナー向けに無料で提供されている家だ。
リビングとオーナー用の個室。グラ娘の部屋もあるけど、基本的に複数人で一つの部屋に寝泊まりする。
訓練設備は無いから、利用したいなら少し歩かなければならない。
まぁこれも個人勢の宿命という奴だ。野宿じゃないだけ有難い。
自室に入ってタブレットを起動させる。
「さて、明日のオーディションの戦略を練らないと……
狙い目は何と言ってもエントリーNo.23のストームブレイド×ライオネスの初子。
ストームブレイドはCランクで戦っていた実績があるし、ライオネスはEランク止まりながらもフィジカルは目を見張る物があった。
初子で未知数なのもあるし、26番目にBランクグラ娘のブラッドライヴの子が出る事もあって皆んな慎重になる筈……あふ」
欠伸をしてしまい時計を見る。
思ったよりも時間がかかってしまった……
会場までは距離があるから早めに起きないとなんだけど……
「明日に回したらバタバタしちゃうしね。今の内にやっとこ……」
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