第10話 前日の夜

 ハナは夢を見る。


 それは山へと出発する前日の夜。

 あてがわれた部屋で彼女は、時計を不思議そうに眺めていた。

 時計の短い針や長い針はすべて大小の歯車だけ。後はネジを巻く力で動いている。さらにこの時計には、秒、日、月も表示されている。


「時間って、誰が決めたのかな」


 今でも、こんな詳しい時間というモノを知っている人は……この街では少数派だ。

 朝、昼、夜。これだけ分かれば生活に困ることは無い。この世界中で、時間が必要な人はごく一部なのだ。


「不思議……それに、きれい」


 時計に特別な装飾が施している訳ではないのに、どこか不思議な気持ちになる――。


「あ、そっか……。先生に似てるんだ」


 それを誰か他人が聞けば、失笑したか、子供の言葉だと言っただろう。人と時計が似てるなんて、おとぎ話にもならない。

 しかしこの言葉が、実はかなり的を得ている事は――彼女自身、知るよしはない。

 

「あ、ネジ巻かないと……」


 背面にネジを回す為の鍵がついてあり、それを使って頭から回す、単純な動力。


「どんな仕組みなんだろ」


 そんな事を考えながら、彼女は眠りについた。

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