断章「幕間と、未来と、作戦会議」 2


「鍵は魔力だろうな」

 廃工場の薄暗い闇の中で、七人は変身した姿で立っている。元の見た目とは、全員違っている。この仕組みすら、解明できていない。することができない。

「オレたちの変身も、異世界の魔力のせいだ。そもそも地球に存在していないものだから、普通の人間では扱えない。オレたちみたいに適性がないと、見ることすらできない。

 能力が高い一号でさえ、ただよってる魔力を視認するのは難しいだろ?」

「やれと言われればできると思うが、そもそも空気に対してどうこうしろというのは難しいだろうな」

 腕組みしたままユズがそう答える。悠一はうなずいた。やれやれと言うように清史郎が目を細める。

「ユズさんはそもそもかなり目がいいほうだけど、それでも空気に混じってるものをっていうのは無理があるよ」

「八号の言うことはもっともだ。だけど、虚人あいつにはそれができてる。あいつらの世界で『見えて』いたかどうかは問題じゃない。こっちの世界では、あいつらに『見えて』いるってことが重要なんだ。

 オレたちが見えるのは、濃度の高い状態……虚獣や虚人みたいなものに成った時だけだ。やろうと思えば、七号を占拠した時点でオレたちを殺せたはずだし。

 そもそも切っ掛けは、七号がってことだけど、オレたちでさえすぐに負けたのに、あいつは七号を選んだ。オレたちの身体を乗っ取っても、あいつの栄養になるようなものが少なかったか、逆にオレたちに気づかれたか……」

 悠一の言葉にユズが少し考え込んだ。

「他のやつだとすぐに見分けがついたんだがな。二号とわたしだけか、全部に気づいたのは」

「うん。雰囲気が違うから、クラスメートでもすぐわかったよ。あとは、はちごうさんもすぐに気づいてたほうだよね?」

「こいつは意外に繊細だからな。細かいところに気づく」

「ユズさんが大雑把で感性に任せるからでしょ? もっと慎重になってよ……」

 清史郎の願いはむなしくも、聞き入れられることはない。一度ものごとを決めてしまうと、ユズはまったく譲ろうとはしないのだから。それがわかっていても、無駄だから言わないという選択肢は清史郎にはない。

「だれか一回でも、あいつのを見破った?」

 悠一の問いかけに、ユズと清史郎が片手をげた。

「僕とユズさんはかろうじて見えた。本当に、かろうじて、だけど。あれ、なんて言うのかな……魔法陣?

 なんか空中に大きな模様がたくさんあって、それが光ってたかな。でも見えた途端にこっちの目がやられた。そもそも、視認できるものじゃないんだよあれは」

「見るのは難しいか……。一号は能力値がオレたちの中でダントツだし、おまえもだしな。さっさと一号に身体を治してもらえよ。元の時間に戻ったら、合流するまでまだかかるんだから」

「無茶言わないでよ! あっ、ちょ、ユズさんがやる気になってるじゃん! やめてよ余計なこと言うの! すぐに無茶するんだから!」

「四号の言うことは一理ある。おまえを合流時点の能力値ではなく、最初の能力値の状態にすればわたしが二人分ってことだろ?」

「いやいやいや! できないできない! できないからね、ユズさん。そもそもユズさんと僕、持ってる能力違うからね? 戦闘力特化のユズさんと同じじゃないからね?」

 ぶんぶんと清史郎が「むりむり」と片手を激しく振っている。しかしそれをユズは完全に無視していた。

「いや、可能だとオレは思う。おまえは一号に魔力を渡してるけど、一号はおまえを治癒してる。

 もともとオレたちは、特化した能力以外に、デフォルトでそなわってるものがあるんじゃないか? 適正のある能力が魔力で底上げされてるだけで、やれないことはない。まぁ……それでもオレや五号には治癒能力は使えないと思うけど」

「私もユーイチくんも、理屈で考えるところがあるしね~。私は具現能力低いし、ユーイチくんは武器や防具の具現の種類が多い。だれかを癒すとか、そういうの向いてないし~。そもそもセーシローくんほどの重病患者を健康体にしたってだけでもびっくりじゃない?」

 早霧が肩をすくめてみせる。うんうんとうなずき、悠一は清史郎を見遣みやった。

「うちのリーダーはなんだかんだで万能型だからな。おまえこそ頑張れ、八号」

「そういう四号だって頑張ってよ! 知識あるんだからなにか手を」

 ブツン、と音と映像がそこで途切れた。



「なんで五号は一回しか乗っ取られてないんだ……?」

 七号の素朴な疑問に、どこかの学校の夕暮れの教室にいる彼らはそれぞれ違う席に座っている。

 早霧は注目されてから、はあ、と息を吐いた。

「まあどうせここのやり取りも残らないから言うけど、私が異世界の人間で遊んでたからじゃない?」

「どっかの宗教のやつか」

「そうそう。ユズちゃんから預かったヤツ。縛り上げて、大人のオモチャってやつをそいつで試してたわけ~」

 ばっ、と隣の席に座っていた晴夏と清史郎が、深雪、ユズの両耳を手でおおう。怪訝けげんそうにする二人に、彼らは笑顔で誤魔化すしかない。

「お、男だったよな、そいつ」

「そうだけど~? 操者そうしゃコロスってうるさかったから殺してやろうって思ったんだけど、ナナサンのこと考えると難しそうだったから。

 意識あったのはあのあたりだからぁ~、まあ乗っ取ったら目の前に脚ひろげて、ガムテープで口塞くちふさがれた男が腰がくがくさせてたら、そりゃ、怖くなるんじゃない?」

 男性陣の顔色があっという間に悪くなる。それを早霧がせせら笑う。

「フツーはやんないって。あの異世界いせかいじん、いわゆる地球侵略してるやつの一人なんでしょ? セオリーとして、多少は仕返ししてもいいじゃない? だって、私たちだってなりたくて操者になったわけじゃないのに、悪者みたいに散々罵倒してくるし、ほんっとうるさくてさ~」

「人間のカタチしてるのに……」

「一号だってナナサンに対してかなり辛辣しんらつだったはずだけど? あいつらは地球人の姿をしてるだけでしょ。こっちに歩み寄りもしないヤツを穏便に排除したんだから、地球の人たちは私に感謝するべきだと思うけど~?」

「そ、それでそいつどうなったんだ……? い、いや、いい。もういい」

「私はお気楽じゃないってだけ。目の前にイケメンや美女が落ちてきても、ラッキーとか思うわけないじゃん?

 ユズちゃんの説明がアレだったけど、言ってみれば人間に化けてるだけでしょ。ナナサンみたいに多少は協力的だったら考えたかもしれないけど、頭ごなしにこっちを悪者扱いするやつと、和解できるまで延々と対話とかめんど~。でも、あいつらのいいところは、やっぱり人間じゃないってことだったかな~」

 首をかしげる悠一に、早霧は笑みを見せる。

「死体が残らない。これに尽きるかな~。排泄物も出ないし、食べないし。

 でも私が預かって正解だったかな、ほんと。ユズちゃんよりも、セーシローくんのほうがキレて殺しそう。セーシローくんは、ユズちゃんが怒らないぶん、本気で怒るからさ~。

 そう考えると、虚人もなかなか考えてるんじゃない? ユズちゃんを殺したら、セーシローくんが地獄の果てまで追ってきて殺すってわかってるから、先にセーシローくんを殺すんでしょ。

 でもま、ある一定値までいくと相手を容赦なく殺せるのは、ユズちゃんと私とセーシローくんだけかな。みんな、なんだかんだで優しいもんね。抵抗あるでしょ、人間のスガタしてるとさ~」

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