断章「幕間と、未来と、作戦会議」 2
*
「鍵は魔力だろうな」
廃工場の薄暗い闇の中で、七人は変身した姿で立っている。元の見た目とは、全員違っている。この仕組みすら、解明できていない。することができない。
「オレたちの変身も、異世界の魔力のせいだ。そもそも地球に存在していないものだから、普通の人間では扱えない。オレたちみたいに適性がないと、見ることすらできない。
能力が高い一号でさえ、
「やれと言われればできると思うが、そもそも空気に対してどうこうしろというのは難しいだろうな」
腕組みしたままユズがそう答える。悠一は
「ユズさんはそもそもかなり目がいいほうだけど、それでも空気に混じってるものを見ろっていうのは無理があるよ」
「八号の言うことはもっともだ。だけど、
オレたちが見えるのは、濃度の高い状態……虚獣や虚人みたいなものに成った時だけだ。やろうと思えば、七号を占拠した時点でオレたちを殺せたはずだし。
そもそも切っ掛けは、七号が押し負けたってことだけど、オレたちでさえすぐに負けたのに、あいつは七号を選んだ。オレたちの身体を乗っ取っても、あいつの栄養になるようなものが少なかったか、逆にオレたちに気づかれたか……」
悠一の言葉にユズが少し考え込んだ。
「他のやつだとすぐに見分けがついたんだがな。二号とわたしだけか、全部に気づいたのは」
「うん。雰囲気が違うから、クラスメートでもすぐわかったよ。あとは、はちごうさんもすぐに気づいてたほうだよね?」
「こいつは意外に繊細だからな。細かいところに気づく」
「ユズさんが大雑把で感性に任せるからでしょ? もっと慎重になってよ……」
清史郎の願いは
「だれか一回でも、あいつの手品を見破った?」
悠一の問いかけに、ユズと清史郎が片手を
「僕とユズさんはかろうじて見えた。本当に、かろうじて、だけど。あれ、なんて言うのかな……魔法陣?
なんか空中に大きな模様がたくさんあって、それが光ってたかな。でも見えた途端にこっちの目がやられた。そもそも、視認できるものじゃないんだよあれは」
「見るのは難しいか……。一号は能力値がオレたちの中でダントツだし、おまえもだしな。さっさと一号に身体を治してもらえよ。元の時間に戻ったら、合流するまでまだかかるんだから」
「無茶言わないでよ! あっ、ちょ、ユズさんがやる気になってるじゃん! やめてよ余計なこと言うの! すぐに無茶するんだから!」
「四号の言うことは一理ある。おまえを合流時点の能力値ではなく、最初の能力値の状態にすればわたしが二人分ってことだろ?」
「いやいやいや! できないできない! できないからね、ユズさん。そもそもユズさんと僕、持ってる能力違うからね? 戦闘力特化のユズさんと同じじゃないからね?」
ぶんぶんと清史郎が「むりむり」と片手を激しく振っている。しかしそれをユズは完全に無視していた。
「いや、可能だとオレは思う。おまえは一号に魔力を渡してるけど、一号はおまえを治癒してる。
もともとオレたちは、特化した能力以外に、デフォルトで
「私もユーイチくんも、理屈で考えるところがあるしね~。私は具現能力低いし、ユーイチくんは武器や防具の具現の種類が多い。だれかを癒すとか、そういうの向いてないし~。そもそもセーシローくんほどの重病患者を健康体にしたってだけでもびっくりじゃない?」
早霧が肩をすくめてみせる。うんうんと
「うちのリーダーはなんだかんだで万能型だからな。おまえこそ頑張れ、八号」
「そういう四号だって頑張ってよ! 知識あるんだからなにか手を」
ブツン、と音と映像がそこで途切れた。
*
「なんで五号は一回しか乗っ取られてないんだ……?」
七号の素朴な疑問に、どこかの学校の夕暮れの教室にいる彼らはそれぞれ違う席に座っている。
早霧は注目されてから、はあ、と息を吐いた。
「まあどうせここのやり取りも残らないから言うけど、私が異世界の人間で遊んでたからじゃない?」
「どっかの宗教のやつか」
「そうそう。ユズちゃんから預かったヤツ。縛り上げて、大人のオモチャってやつをそいつで試してたわけ~」
ばっ、と隣の席に座っていた晴夏と清史郎が、深雪、ユズの両耳を手で
「お、男だったよな、そいつ」
「そうだけど~?
意識あったのはあのあたりだからぁ~、まあ乗っ取ったら目の前に脚ひろげて、ガムテープで
男性陣の顔色があっという間に悪くなる。それを早霧がせせら笑う。
「フツーはやんないって。あの
「人間のカタチしてるのに……」
「一号だってナナサンに対してかなり
「そ、それでそいつどうなったんだ……? い、いや、いい。もういい」
「私はお気楽じゃないってだけ。目の前にイケメンや美女が落ちてきても、ラッキーとか思うわけないじゃん?
ユズちゃんの説明がアレだったけど、言ってみれば人間に化けてるだけでしょ。ナナサンみたいに多少は協力的だったら考えたかもしれないけど、頭ごなしにこっちを悪者扱いするやつと、和解できるまで延々と対話とかめんど~。でも、あいつらのいいところは、やっぱり人間じゃないってことだったかな~」
首を
「死体が残らない。これに尽きるかな~。排泄物も出ないし、食べないし。
でも私が預かって正解だったかな、ほんと。ユズちゃんよりも、セーシローくんのほうがキレて殺しそう。セーシローくんは、ユズちゃんが怒らないぶん、本気で怒るからさ~。
そう考えると、虚人もなかなか考えてるんじゃない? ユズちゃんを殺したら、セーシローくんが地獄の果てまで追ってきて殺すってわかってるから、先にセーシローくんを殺すんでしょ。
でもま、ある一定値までいくと相手を容赦なく殺せるのは、ユズちゃんと私とセーシローくんだけかな。みんな、なんだかんだで優しいもんね。抵抗あるでしょ、人間のスガタしてるとさ~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます