第8の章「感情と、七号と、終わりの始まり」
第8の章「感情と、七号と、終わりの始まり」 1
「ななごう」
そう呼ばれて、振り向く。二号は、蹲っているこちらに手を伸ばす。その背後に、居心地悪そうに立っている八号の姿がある。
何度見ても、色気を振り
ほぼ同年代の四号と八号と七号はまったくタイプが違っていた。柔和な口調と声の八号ではあったが、一号の紹介で仲間になった時にはすでに一号の恋人だった。あの顔と声で、それこそ女など選びたい放題だろうに、よりによってと四号が「趣味が悪い」と
この八人の中で露骨に恋愛感情を見せていたのは八号だけだった。本人はまったく自覚していなかったうえ、一号に時々邪険にされるような扱いをされていたが、不思議なくらいに許容範囲と言わんばかりの態度だった。むしろ、どこまでが許容できるのかと不思議に思った者は多いだろう。
見た目のこともあり、八号は明らかに女に勘違いをされるような行動が目立った。ただ、優しい言葉も行動も、一号以外にはまるで壁を相手にしているような不思議な距離感があった。普段からモテてはいただろうが、本人はまったく告白されていたことや、そのような誘いをされていたことにも気づいていなかった。普通の男なら八号の境遇は
治癒能力を使う八号は明らかに一号だけを特別扱いしていたし、一号の冷やかな言葉も態度も、八号には当たり前のようだった。マゾなのかもしれないと三号が
八号は
一号が怪我をした日は必ず一緒に帰っていったし、とにかく一号がほぼ
八号に
五号がある時、二人を見比べ、堂々と言い出した。
「ねえねえ、どっちが告白したの?」
わかりきった問いかけではあったが、そこに居た者たちは聞き耳をたてていた。まるで湯沸かし器のように、一瞬で八号の顔が真っ赤に染まって目が泳いだ。一号はいつものように平然としている。
「わたしだ」
意外なことに一号がそう言いだした。唖然としたように、静まり返る。が、「ええーっ!」と五号と三号が
「ち、ちがっ、え、と、正確にはちょっと違うと思うよ?」
「そうだったか?」
「す、すぐ忘れる……!」
八号は逃げ出したいのを
「嘘でしょ! どうやって! なんで! そうなったの!」
五号の怒涛の質問に、ぎょっとしたのは八号だったが顔色ひとつ変えずに一号は平坦な声で言った。
「こいつの服を破ったから?」
「わーっ!」
さすがに八号が慌てて一号の口を
「ち、違う違う! なんで誤解を招くようなことを言うの!」
「え? じゃあどっかの筋肉ムキムキキャラみたいに、胸筋とかでふんぬって服を破ったとか?」
どうやら五号は相当困惑しているらしい。なにを言っているのか本人もわかっていないようだ。動揺しているのがわかる。八号がそんな芸当ができるわけがないというのに。
ぱしぱしと一号が、口を
「ダメ! またおかしなこと言うか、ひゃあ! な、
あからさまに一号が不機嫌そうな表情になるが、八号は
しかし五号だけはまったく違う反応をした。
「ギャー! ちょ、なんという
「美人だからこそできる今の顔はヤバい! アンコール、アンコール!」
「ひえぇ……八号、終わった……」
三号が「ご愁傷様……」と顔を引きつらせている。七号は不思議そうにその様子を見ていた。
「もう一回舐めてみてー! ユズちゃんおねがいー!」
「なにやってんの! 絶対に嬉しいやつじゃん! それから『ひゃん』のほうがいい! 今度はそっちで!」
「なに言ってるんだよ!」
「あんた右側でしょうが!」
「みぎ……?」
八号が首を
「受けでしょう、絶対に!」
「…………」
「違うっ!」
「嘘をついてもわかるんだからね~。攻めの顔じゃないもんね~」
「ひいぃ!」
とうとう一号の腰にしがみついて、身を
「今の発言をまとめると明らかにそうでしょ……。破かれた服、それに告白されたほう……絶対に『受け』だー!」
「誤解があるって! 告白したのは僕だから……!」
「そうだったか……?」
「やっぱり忘れてる……! ていうか僕を助けてよ!」
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