第5の章「敵と、日常と、非日常」 4



 あのあと、よんごうさんはいちごうが連れて帰ったらしい。やっぱり優しい、と感じていると、連絡をとっているお兄ちゃんはなんだかにがい顔をしていた。

 登校前の朝食を食べながら、お兄ちゃんは器用にスマートホンを片手で使っている。私も持っているけど、お兄ちゃんのと違って色々制限がついているから、ゲームもできない。

「一号……まさかまたお姫様抱っこで連れて帰ったりしてないよな……」

 そんなことをお兄ちゃんが液晶画面とにらめっこをしながら、ぼやいていた。お姫様だっこ?

「あんまりつつくと、四号のおにいさん、泣くかもだしな……」

「そうなの?」

「まあな。やったことがあれだし、一号に土下座して謝ってるかもしれないぞ」

「くっついてたこと?」

「そうそう。いや、でも……あんだけガチガチになってたら、部屋に投げられて置いてかれたのかもだけど……やりそう、一号なら」

「よんごうさん、ごごうさんのこと苦手だよね」

 お兄ちゃんも苦手みたいだけど、そこは言わないでおく。いいお姉さんなんだけど、やっぱり男の人は苦手な女の人がいるのかもしれない。意地悪をする男の子が苦手な、自分のように。

 よんごうさんも、お兄ちゃんも、意地悪なこともしないし、からかってくることもない。どっちも優しい。

 いちごうはかっこいいし、ごごうさんは頼れるお姉さんという感じだけど、みんなは違うのかな。

 トーストを頬張ほおばりながら、お兄ちゃんを見る。

「ねえねえ」

「どした?」

「仲間になって、良かったね」

「…………」

 驚いたようにお兄ちゃんが目を丸くしている。そして、笑ってくれた。

「そうだな。クセは強い人もいるけど、いい仲間だよな」

「くせ?」

「一号は最初からあんな感じだったしさ、よく俺たちを仲間にしたなって今なら思う」

「うん! だってよんごうさんも、ごごうさんも、年上なんだよ! お兄ちゃんも私も、まだこどもなのにね」

「ほんとな。でも、年齢は関係ないって一号は言ってくれたし、それ、一年経っても変わってなくてさ、安心した」

「ふふ。お兄ちゃんは、念願のヒーローになったしね」

「うーん……戦隊ものにしては、地味だけどな。でも、特撮とくさつより、かっこいいとは思う」

 自慢げに言うので、また笑ってしまう。この一年、大変だったけど、楽しかった。これからも、それが続くと思うと、学校も頑張って行ける。

 ジャムをたっぷり塗ったパンはとても美味しい。この、しん、とした室内ではお兄ちゃんと二人だけみたいで、前はそれでも平気だった。でも今は、ちがう。

 よそよそしい仕草しぐさをするお兄ちゃんはいなくなった。いちごうに出会ってから、戦隊ヒーローを一緒にていた時の、きらきらした目のお兄ちゃんになった。一緒に帰っていた、下校していたあの時、虚獣きょじゅうに驚いて動けなくなって、泣き出しそうだった自分の前にいちごうが現れたあの日のことを、忘れることはない。それは一生。

 早くみんなに会いたいな。虚獣を全部倒しても、気軽にみんなに会いたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る