第5の章「敵と、日常と、非日常」 3
*
一応何か所か候補はあったけど、お兄ちゃんが「山の中は明かりがないし丸見え」と却下したので、そこそこ広い、放置された工場の中に移動している。でもここも、いちごうが暴れたら一瞬で壊れそう……。
うきうきしている私を見て、お兄ちゃんが苦笑していた。だってこういうの、すごく秘密基地みたいで!
「よんごーう、いい加減離れたら?」
お兄ちゃんが呆れたみたいに言うけれど、よんごうさんは、「う、うごけない」と
「やっだー! ユーイチくん、ねえねえ、ユズちゃんの
「やめろ……
二人の
「ナナサン、こいつはどうすればいい? おまえの世界に強制的に返すとかできるのか?」
「いや、戻るのは、この仮の肉体からマナがなくなるまで不可能だろう。こちらの世界の濃度が高いから、こいつはここに来ることができた。なにを媒介にしているかはわからないが、別の媒体へ移動させなければそのまま消える。
それに、私がこちらに来たすぐ後にここに向かってきたはずだ。異世界だから、時間差が生まれるし、座標の特定もしなければ難しい」
「……どっかの外国の
生きている限り安心できないという口調に、やっぱりいちごうは冷静なひとだなって私は感心してしまう。でも、それを聞いたよんごうさんが、さらに手に力を込めたのは見えた。相変わらず顔はいちごうの肩で見えないようにしてるけど。
「くそ、ほんと
「
ナナサンの言葉に、うんざり、という表情をいちごうがする。よくわからないけど、あの男の人をどうするかみんな困ってるみたいだ。確かに、魔法少女ものでも、敵は消えるしかないしなぁ。でも手品みたいに消すことって、できるものかな?
「やはり五号に
「えー。両親がいるんですけどぉ」
「うちだっている。みんないるだろ」
「まあでも、この中だと、ユズちゃんの次に安全なのは、私かぁ」
しょうがないなぁとごごうさんがスケッチブックを消す。あれは武器なのかな、防具なのかなと、いつも疑問になる。そして彼女は、いちごうに近づいて気絶してる男の人の口をぐっと片手で
「やば……力込めると顔が簡単に
喋らせないようにしたっぽい。ごごうさんは、いちごうから男を受け取って軽く
いちごうは自分にしがみついているよんごうさんを呆れたように見たけど、なにも言わない。やっぱり優しいと思う。ああいうのって、ちかんとか、せくはら、って言うんじゃなかったっけ? さすがに自分がされたら、よんごうさんには悪いけど、投げ飛ばしてると思う。
「ねえねえ、お兄ちゃん。いちごうって、やっぱり優しいね」
「おまえどういう目をしてるんだよ? 四号が震えてるの見えてないのか?」
「それはごごうさんにでしょ?」
「……まあ、あんだけしがみつかれても、まったく反応してないしな。四号がセミにしか見えない……」
「……お兄ちゃんもああいうの、興味あるの?」
「ヒッ! おまえは
「?」
時々、よくわからないことをお兄ちゃんにお願いされる。
ごごうさんは、ぷらぷらと男をおもちゃみたいに揺らしていた。いちごうよりも、扱いが
「どっちにしろ監視しないとマズイってことだよね。あとで足も折っておけばいいかなぁ」
「
と、ナナサンが説明すると、ごごうさんがにやにやし始める。「へー」とか、「ほー」とか楽しそうに
「ユズちゃんのところにはナナサンがいるし、私が
あ、ナナサンに話聞きたいから、うちまで来てもらえるかな、一旦」
「わかった」
「よーし! じゃあお姉さんに任せなさい! ってことで、ばいばーい!」
元気よく言うと、ごごうさんは男をずるずると引きずって出ていく。まあここは屋根があるし、突き破ったらいけないよね。ナナサンも一緒に出ていったので、残ったのは四人だけ。いまだに動けないよんごうさんを、
「あー、どうする? 四号、俺が引っ張ったほうがいい?」
「気にしなくていい。二号も三号も、もう遅いから早く帰った方がいい」
「……わかった。じゃあ四号のこと、任せる。二号、帰るぞ」
「うん」
ちら、と肩越しに後ろを向くと、いちごうがよんごうさんになにか声をかけていた。まあ、いちごうなら、力づくでよんごうさん吹っ飛ばせるし、放っておいても大丈夫か。手でも
ぶんぶんと首を左右に振って今の想像を追い払い、工場の外に出る。うわあ、すごい月が大きく見える。
「お兄ちゃん! 今日はゆっくり帰ろう!」
「わかった。確かに綺麗な満月だしな」
「うん!」
「でも早めに帰らないといけないからな。元に戻ったらすぐに寝る準備をすること!」
「わ、わかってるよぉ。倒れてまたベランダで足ぶつけるわけにはいかないもん」
「そうそう。でも、雨が降ってなくて良かった。足元が
「だね」
微笑みあいながら、帰路につく。星もたくさん見える。本当に綺麗だ。
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