第39話 高校一学期終了と自衛は必要なのかもしれない
「夏休みどうするー? 花火みんなで見に行こうよー」
「俺、九州の親戚の家に行くんだ。台風と、かち合わないといいなぁ」
高校の期末試験も終わり、教室内はもうすぐ訪れる夏休みの話題が飛び交う。
とりあえず高校最初の学期を乗り越えたという安心なのか、クラスメイトには笑顔が多い。
「花火はこないだ、ミナトの高級リゾートホテルから見たな。九州か、それもいいな。いつか行ってみたい。まぁ俺は北海道に行くんだけどね……」
ああ、例に漏れず、俺の顔も緩みっぱなしだ。
だって当たり前だろう。ついに子供の頃からの夢が叶うんだぞ。学生が夏休みに入れる条件、期末試験だって突破した。もう俺を縛るものは法律以外何もない。
あとは夢へ向かって羽ばたくのみ。
お、なんか格好いいな、今の言葉。
……こんな感じで浮かれるぐらい、俺のテンションは高い。
「ふふ、リュー君がとても良い顔をしています。なんだか私も嬉しくなってきちゃいました」
俺の左隣の席の黒髪お嬢様、ミナトがニッコリ笑顔で俺を見てくる。
「リューってあんまり笑顔見せねぇからなぁ。だからたまにそうやって笑顔を見せられると、ドキっとしちまうぜ」
右隣の席の金髪ヤンキー娘カレンもニヤニヤと俺を見てくる。
あれ、俺ってあんまり笑わないのか。自分じゃあ分からないしなぁ。
「さすがにもうすぐ船に乗れると思うと、テンションが抑えきれないな。こんなこと初めてだ」
「あれぇ、ってことは今のリュー君は普段の冷静リュー君じゃなくて、判断緩めリュー君なのかな? ふふ、カレン、これはチャンスですよ。本当に船の中では……あるかもしれません……!」
「へへ……旅先で気分高まってヤったってのはよく聞く話だし、これはイけそうかぁ? こりゃあ色々準備しとかないとなぁ、あはは!」
俺の言葉にミナトとカレンが答えてくれたが、確かに今の俺は冷静ではないかもな。
ああ、でも俺、女性に強引に手を出すとか、どんなテンションだろうが絶対にしないんで、そこは大丈夫ですよ。
ましてや、夏休みに一緒にフェリー旅に行ってくれるのは、子供の頃からの幼馴染みの二人。
俺の守るべき大事な女性たちだぞ。
つか、ミナトとカレンもちょっとテンション高いよな?
「ひひ……リューイチ、あんまり二人を待たせるなよ? 時には強引とも思える行為も、後に良い思い出に、なんてこともあるからな?」
俺の前の席の悪友、佐吉が話を聞いていたらしく、ニヤニヤと含み笑顔で言ってきた。
何言ってんだコイツ。
強引が良い思い出になるわけないだろ。
大体、ミナトとカレンは結構『強い』からな。
ミナトはなんだか締め上げる力がとんでもないし、カレンにいたっては、とんでも体力スポーツ少女だ。
貧弱な俺が強引にいったところで、返り討ちどころか全ての関節を逆に曲げられること間違いなし、だろ。
「もー、四ツ原君ってば。でももっとリュー君を煽ってくれると誘導しやすいかもですね。ふふ……もちろんこちらも色々作戦は考えていますし、絶対にリュー君を落とします。縛る拘束する薬で眠らす証拠を残す……ふふ楽しみです…………うふふふふふふふ」
「リューが強引に来る、かぁ……こうかな、いやこう来るとか……おおおお、ヤベェ、想像だけでたぎってきたぁ! ま、船+密室だからよ……逃がさねぇよ……へへへ」
縛……?
あの、なんかミナトとカレンから犯罪予告みたいなセリフが聞こえたんですけど……?
も、もちろん冗談だよね?
「ひひ、良かったなリューイチ。この夏……『卒業』だな。羨ましいぜ」
佐吉が演技っぽく羨ましそうに俺の肩を叩いてくるが、卒業?
意味分からねぇし。
でもなんかこのままだと、人生からの卒業になりそうな気配がするんだよね。
ミナトとカレンのセリフに不安を感じつつ、ついに高校一学期の最終日を迎える。
終業式、そして最後のホームルームも終え、あとは帰るのみ。
「川瀬さん、夏休みに私たちと水族館に行きませんか」
「行こうよー川瀬さーん。新しく出来たアイス屋さんが評判いいんだよー」
「双葉さん、良かったら俺たちとプールに……」
「僕と一緒にジムに行きませんか双葉さん!」
俺の幼馴染みのハイスペック美女二人が、教壇近くでクラスメイトに囲まれ大人気。
まぁ、あの二人と一緒に出かけたい気持ちは分かる。
つかカレン、男からの誘いが多いな。ジムは……カレンが好きそう。
「ふふ、ごめんなさい皆さん。夏休みは家の用事が多くありまして。あと絶対に外せない最重要の先約もありますので……」
「チッ……だる……。お前ら身体目当てでしか誘えねぇのかよ。行かねえよ。悪いが私の身体の使い道はもう決まってんだ」
二人がクラスメイトの輪を抜け、俺のほうにゆっくり歩いてくる。
「お待たせしました。じゃあ行きましょうかリュー君。あ、私、旅先でリュー君が思わず脱がせたくなるような下着が欲しいんです。選んでくれますか? ふふ」
「悪いリュー、待たせたな。下着だぁ? そんなん、部屋ではほとんど裸なんだから、適当で良くねぇか? な、リュー、あはは」
そして二人が、周囲をとんでもなく勘違いさせるような一言を発する。
確かにこの後、三人でフェリー旅に必要な物を買いに行く約束はしているが、下着とは聞いていない。
なんか周囲の俺への視線がすごい……これは早く学校を出たほうが身の安全は守れそう。
「お前らなぁ、教室で俺の敵が増えるような発言はやめてくれよ……」
「ふふ、だって嬉しいんですもの。夏休みにはリュー君とフェリー旅デートなんて、ついうっかり大声で言ってしまいそうなところを、必死に耐え、苦肉の策の言葉なんですよ?」
「いいだろ別に、本当なんだしよ。つかだりぃんだって、欲丸出しの誘いとかよぉ。もうハッキリ私の身体はリューの物だって宣言すりゃあ、ああいうのも無くなると思うんだがなぁ。ダメなのか? 言っちゃ」
一学期にお世話になった高校の校舎に別れを告げ、俺たち三人は近くの大型商業施設へ向かう。
ミナトとカレンに先ほどの発言を注意するが、俺の苦言は壁に当たりそのまま返ってきた。
まぁ……いいか。明日から夏休みだし、二学期に再び会うころにはさっきのことなんてみんな忘れているだろうし。
なんにしても、明日からついに夏休みがスタート。
もうワクワクが止まらないが、ミナトが言っていた不穏発言、縛る拘束する薬でなんたら、ってやつの対策は考えておいたほうがいいのだろうか……。冗談だとは思うけど。
ミナトとカレンは満面笑顔だが、さっきの発言を聞いて俺の心は楽しみ半分不安半分になった。
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