第38話 佐吉の暗躍と最後の難関期末試験
「夏休みが近い」
つまり俺の夢が叶う日が近付いた、ということだ。
今年の夏休みには俺の子供の頃からの夢だった、フェリーでの旅に行く。
それが日々近付いていると思うと、興奮が止まらない。
こうやって毎日高校に来ることによって、一歩ずつ、確実にその日が……
「ひひ、なんか盛り上がってるところ悪いけどよ、その前に期末試験があるぜ?」
俺の前の席の悪友佐吉がニヤニヤしながら、掲示板に貼ってある『期末試験のお知らせ』の紙を指す。
「……知ってるよ。あえてそれを忘れて楽しいことだけ考えていたんだよ」
夏休みに入る前、学校では学生に試練が課される。
そう期末試験である。
モロに成績に直結するイベントで、絶対に逃げられない鎖を足に付けられ、悪い数字を取ると廊下に正座させられムチ打ち連打されるという、全国どこの高校にも標準的にあるというアレだ。
ちょっと俺の中でのテストのイメージが悪いほうに出たが、大体合っているだろう。
「つかお前、いつも成績真ん中辺りだから問題ねぇだろ。ああ、双葉さんが気になっているんだろ? 夏休みのお前の計画に参加出来ないと悲しいもんなぁ、ひひ」
佐吉が俺の右隣の席を指してニヤニヤ。
そこにはいつも金髪ヤンキー娘カレンが座っているのだが、前の授業が体育だったので、まだ戻ってきていない。
まぁ男子はスッポーン脱いで着替えて終了だが、女子は着替えに時間がかかるのだろう。
あれ、俺って佐吉に夏休みにはフェリーでの旅に行くんだって言ったっけ?
こいつとは中学からの付き合いだし、そういう夢も言ったことはあるだろうけど、それがこの夏休みに叶うとか、俺の幼馴染みのハイスペック美女二人も付いてくるってなんで知ってんだ?
「祭りのときの浴衣の二人、最高に綺麗だったよな。写真あったら俺にもくれよ、ひひ」
佐吉がさらなる追撃。
ん? 祭りのときの二人の浴衣?
あのときお前、いなかったよな?
「……ないよ。むしろ俺が撮られたんだっての」
「へぇ、やっぱ町内の祭りのとき、二人は浴衣だったのか。お前の微笑写真とかイラネ、ひひ」
俺の言葉に佐吉がニヤリ。しまった……こいつ、カマかけて来やがったのか。
まんまと引っ掛かってしまった……。
いや、待て、ミナトとカレンが浴衣姿だって分からなかったのに、どうして最後に妹のリンに俺の微笑み写真撮られたことを知ってんだ?
……ダメだ、こいつと情報戦しても無駄だな。俺が勝てる相手じゃあない。
「分かった、俺の負けだ。フェリー旅のお土産買ってくるから許してくれ」
「ひひ、それより俺は川瀬さんと双葉さんの写真がいいなぁ。千円ぐらいの土産より、そっちのほうが価値あるしよ」
俺が降参すると、佐吉が携帯端末を指してくる。
まぁ高校生が買えるお土産なんて、千円ぐらいだろうしな。それよりミナトとカレンの写真が欲しい、か。
なんでそんなに二人の写真を欲しがるのかね。
「分かったよ、二人にお願いしてみるよ」
「私たちにお願いって、なんです?」
「なんだぁリュー。まーた私たちのエロい写真撮りたい欲が湧いてきたのかぁ?」
背後から左右の肩を叩かれ驚き振り返ると、幼馴染みのハイスペック美女二人、黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘カレンがいつの間にか教室に戻ってきていた。
エロい写真欲って、何。
「あ、その、佐吉が二人と写真撮りたいって」
「四ツ原君が? あれ、珍しいですね。いいですよ、四ツ原君には中学の時、リュー君情報をいっぱいもらってお世話になりましたから」
「いいぞ。私が中学で一番荒れてるとき、怯えながらも何度もリューと仲を戻してくれって頭下げて来たし。友達の為にあそこまで行動出来る奴は、かっけぇ」
一応二人にお願いしてみたら、まさかの快諾。
え、中学のとき、こいつそんなことやってたの?
佐吉が何度か二人と接触している姿はみかけたが、まさか俺たちとの仲を取り持とうとしてくれたのか……。
「うわっと、はっず、そういうのは無しで頼むぜ。俺はお前らの笑顔が好きなだけだよ、ひひ」
珍しく佐吉が焦ったように手を振り顔を隠す。
「……ありがとう。じゃ撮るぞ、並んでー」
俺が前半聞こえないように小さい声でお礼を言い、すぐに佐吉の携帯端末を構える。
「ふふ、ブレないように撮ってくださいよ、リュー君」
「大丈夫だろ。リューは私たちの恥ずかしい写真撮りまくって慣れてんだろ」
「……撮ってねぇって。ったく、はい、ズン」
おっと、思わずミナトの運転手であるイケメンハーフ、ジェイロンさんの口癖が出てしまった。
ミナト、佐吉、カレンがニッコリ微笑んだところでパシャリ。
「……ひひ、これよこれ。相手がリューイチだから出てくる、周りを幸せにする二人の笑顔。これを中学のときからみたかったんだよ」
撮った写真を見た佐吉がニンマリ笑顔で何か言う。
え、? 声小さくて聞こえないぞ。
つかお前、そんな優しい笑顔出来るんだ……。
そして数日後、俺たちは夏休み前の最後の難関、期末試験を突破。
黒髪お嬢様ミナトは当然のように学年トップ。
金髪ヤンキー娘カレンが平均よりちょっと上。
そして俺はカレンよりちょっと下だった。
……なんかカレン、こないだのミナトの鼻先のニンジン作戦以降、俺より成績良くなってねぇ?
またなんか餌でも吊るされたのか。
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