第37話 お祭りで喫茶虎原キーホルダー販売と俺の笑顔の行方




「いらっしゃいませー。たこ焼き、焼きそば、クレープなどいかがでしょうかー」


「記念に『喫茶虎原』ロゴ入りキーホルダーもあるぞー」



 週末、本日は町内会のお祭り行事。


 喫茶店の前にテーブルを並べ、店内で作ったお祭りメニューの販売。


 本日だけ、お店の前の道路はお祭り特別仕様の歩行者天国となっている。


 丸テーブルを並べてあって、誰でも自由に座れるようになっているぞ。


 うち以外にも、近所のケーキ屋さん、八百屋さん、お肉屋さんなどが屋台を展開している。


 毎年やっているのだが、このお祭りの時期が来ると夏が始まるって感じ。



「あらーミナトちゃんにカレンちゃん、さすがに浴衣が似合うわぁ」


「たこ焼き三つねー、あとキーホルダーももらおうか」


 記念に作った『喫茶虎原ロゴ入りキーホルダー』だが、ご近所さんが多く買い求めてくれ、お昼から販売開始の一時間足らずで売り切れ間際。


 やはり売り子が良いと、売れ行きが違い過ぎる。



「ありがとうございました。これにてキーホルダーは完売となります。またの入荷をお待ちくださーい」


 黒髪お嬢様ミナトがニッコリ微笑み、キーホルダーの完売を告げる。


 結構な数を用意したのだが、まさかここまで売れるとは思わなかった。


 だって……そこらにある個人の喫茶店のロゴ入りキーホルダーだぜ? 


 まぁ今日もアルバイトで来てくれている俺の幼馴染み、黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘カレンに、サンプルとして首からネックレスのようにぶら下げてもらったのが効果的だったようだ。


 見た目モデル級の美少女二人が、浴衣の胸元にぶら下げている。うん、俺も見かけたら買ってしまうかもしれん。


 黒髪お嬢様ミナトが紫系の浴衣で、金髪ヤンキー娘カレンが黒系の浴衣、二人ともとても似合っているなぁ。


 つか俺からしたら、自分の名字『虎原』が入ったキーホルダーがバカ売れしているわけで、なんとも不思議な気分。



「リューくーん、休憩もらっちゃったー。一緒にたこ焼き食べましょう、ふふ」


「おう、リュー、バナナクレープにジュースもあるぜ」


 売り子をやってくれていた二人が笑顔で食べ物を持ち、空いていた丸テーブルに並べ始める。


「いやぁ悪いな二人とも。おかげでキーホルダーが売り切れたよ」


「ふふ、私も記念に買っちゃいました。このあだい頂いた物は学校の登校用のカバンに付けましたし、今回手に入れた物はお出掛け用のリュックにつけようかなぁ。このネックレスに加工した特別キーホルダーも貰えるみたいなので、今日から名札変わりに毎日付ければ、私もリュー君の『虎原』を名乗っても大丈夫ですよね?」


「私も学校のカバンに付けた。鍵にも付けたし、ネックレスタイプも今日から付ける。もうすぐ私の名字になるしな、早めに付けてもいいだろ、あはは!」


 俺の幼馴染みのハイスペック美女二人が笑顔で『喫茶虎原』キーホルダーを見せてくる。


 ……あの、それ名札じゃあないですよ。


 お店のロゴ入りキーホルダー、ね。


 これを付けたら『虎原』を名乗れるのなら、買ってくれたご近所さん全員虎原になるぞ。それは勘弁してくれ。



「……なんか良いなぁ……」

 

 天気の良い土曜日の午後。


 お祭りのにぎやかな雰囲気の中で、ミナトとカレンと一緒に過ごせるとか、子供の頃以来でなんか嬉しい。


「あれ、リュー君が私の浴衣の胸元を見て微笑んでいます。これはお祭りが終わったら誘われちゃうかしら、ふふ」


「お、私のも見てんな。なんだよリュー、昼間っから食い気より色気かぁ? こないだのホテルでは私たちの誘いに必死に耐えたけど……今日は無理そうか、リュー。いいぜ、来いよ、あははは!」


 二人が俺の視線に気付き、曲解。


 三人でお祭りの雰囲気を楽しめて嬉しいなぁっていう視線が、どうやったら二人の胸元を大興奮で凝視する少年になるんだよ。


 ……見たのはちょっとだけですって。


「見て見てー、リュー兄のエロい顔撮っちゃったー!」


 すると背後から元気な声が聞こえ、嬉しそうに自分の携帯端末の画面を見せてくる女の子が……って妹のリンか。


 なんだよ俺のエロい顔って。


「うわぁ……これとても良い笑顔ですねぇ。さすがリンちゃん、リュー君のことをとても分かっています。なんというか、信頼する愛する妻を見つめる夫の顔、でしょうか……。リンちゃん、これすぐに送って!」


「さすがリン、リューの優しい笑顔を撮らせたら世界一だな。確かに……ちょっと女を狙う顔してんな、これ。そりゃあそうか、目の前には私っていう恋人がいるからな。ついこの後のことを想像してしまったんだろ、あははは! おう、私にも秒で送れ、リン」


「うん、いいよー」


 二人が写真を確認し、すぐにリンに送信するように言う。


 え、俺ってどんな顔してた……? 普通に嬉しいなぁって笑顔だったはずだけど……もしかして二人の浴衣姿の胸元を見た一瞬だけ切り取られた?


「ちょ、俺にも見せて……」


「リュー兄はダメー。女三人の秘密ですー」


 さすがに自信が無くなってリンに写真を見せてもらおうとするも、拒否。


「ねー、リンちゃーん。この顔のリュー君は私たちだけで楽しむんだもんねー」


「大丈夫だってリュー、これ以上は広めねぇからよ。まぁ、個人的には色々楽しませてもうらうがな……あははは!」



 え、マジで俺、どういう顔撮られたの……。


 すんごい不安なんですけど。


 そして今の写真、何のお楽しみに使われるんですか……。















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