第36話 下着姿の狩猟者に記念のキーホルダーを
「リューくーん、もう諦めて身を任せちゃってくださいねー。うふふふふふ」
「へへ……この私から逃げられるわけねぇだろリュー……! 痛い目みる前に抱かれとけって!」
バイキング形式での昼食を終えた俺たち三人は、ホテルの客室でご休憩させてもらっている。
黒髪お嬢様ミナトが用意してくれたチケットは、客室でのご休憩までがセットになったものらしい。
多分、バイキングで食べ過ぎてしまった人向けの、ご休憩時間ってことだろう。なんと素晴らしいホテルなのか。さすが高級ホテルである。
そして俺はなぜかその『ご休憩』中に、幼馴染みのハイスペック美女二人に絡まれている。
……これ、そういう遊びだよな?
まさか本気じゃあないよな?
ミナトとカレンが服を脱いで、下着のみの状況で獲物を狩る側の顔をしているが、これはそういう演技だよな?
一旦彼女たちと距離を取り、俺は冷静に二人を制する。
黒髪お嬢様ミナトは……握力とか腕で締め付ける力は確かに強いが、体力があまりないのと、瞬発力がないので、なんとか逃げ切れると思う。捕まったら終わりだけど。
金髪ヤンキー娘カレンは……無理。どう考えてもあの大興奮状態の狩猟者から逃れられる手段が思いつかない。
腕力、体力、速度、カレンは全てにおいて俺を遥かに上回るスポーツ少女。
まともにやり合ったら、五秒とかからず俺は丸裸にされるだろう。
ではどうやったら幼馴染みのハイスペック美女二人が混乱している状況を抑えられるのか。
──そう、まともにやり合わなければいいのだ。
「……ミナト、おいで」
「え? あ、あの、リュ、リュー君? う、うん……」
俺は優しく微笑み、興奮で自慢の長い黒髪が逆立ち始めたミナトに手招きをする。
黒い下着姿のミナトの逆立っていた髪が元に戻り、上目遣いでチラチラ俺を見ながら近付いてきたので、軽く左手で抱き寄せる。
ミナトは子供の頃から甘えたいタイプ、なので、こちらが甘えていいよポーズをすると、大体抑えられる。
「ふぁ……ああ、ああああ……そう、これ……ふふ、私、リュー君に抱かれちゃった」
「あ、あああ! ズ、ズリィ……! なんでミナトだけなんだよリュー! 私も、私もー!」
満足気な顔で俺の左腕に抱き寄せられたミナトをじーっと見て、カレンが地団駄を踏んで悔しがる。
「……カレン。おいで」
「……っ! やった……! 私もリューに抱いてもらえる……!」
続いて水色の下着姿の金髪ヤンキー娘カレンを手招き。
カレンは子供の頃から、俺がミナトを褒めたりすると、対抗意識なのか自分にも同じようにしてくれ、と言ってくるタイプ。
なのでミナトを軽く抱き寄せる過程を見せれば、同じことを求めてくる。
「おお、リューの薄い胸板……もっと鍛えりゃあいいのに。でも落ち着くぜ……」
左右にミナトとカレンを抱き、頭を撫でて落ち着かせる。
「そうだ二人とも、テストと球技大会を頑張ったご褒美があるんだ。受け取ってもらえるかな」
こうなれば、二人は獣から人間に戻り、俺の言葉を聞いてくれるようになる。よし、ここで一気にこっちのペースに持っていくぞ。
俺はポケットから二つのキーホルダーを取り出し、二人に渡す。
「あら、これ可愛いです! 『喫茶虎原』のロゴ入りキーホルダーじゃないですか! これもらっていいんですか? ふふ、嬉しいです」
「おおー! アクリルキーホルダーってやつか! いいなこれ! そっか、つまり私はリューと一緒の『虎原』を名乗っていいってことなんだよな? あはは」
二人に渡したのは、お試しで作ってみた俺の実家である『喫茶虎原』のロゴ入りキーホルダー。
実はミナトとカレンがアルバイトに来てくれるようになってから、常連さんにグッズはないのかい? とよく聞かれるようになった。
喫茶店のグッズってもなぁ……と悩んだが、そういや以前、二人と映画を見に行った帰りに、その映画のキーホルダーをミナトとカレンにあげたら喜んでいたのを思い出した。
とりあえず試しに作ってみて、試作品を今日の帰りにでも渡そうとしていたのだが、襲撃者からのがれる為にもう使わせてもらうぞ。
多分俺をからかって、ふざけてやっているんだろうけど、その演技が迫真すぎ。
「──じゃあ長居も良くないし、服を着て、そのキーホルダーを三人で持っている写真を撮って帰ろうか」
「服を着てしまっていいのですか? もう、リュー君ってば欲が無さすぎです。まぁそこが可愛いところでもあるのですけど。ふふ」
「あれ、この二つのキーホルダーを私の胸の先端に付けて、ギリギリ見えてません写真じゃないのか? 事前にアイテムまで用意してっから、リューならそういうの撮るのかと思ったのによぉ……」
よし、なんとか服を着てもらうフラグが立った。
二人ともさ、もう少し自分がモデル並みの見た目である、って理解してくれ。
俺の反応を見て遊んでいるんだろうけど、その、幼馴染みとはいえ俺だって男なんだからな。
魅力的な二人に誘われたら、手を出してしまうかも、なんだぞ。
あとカレンさん、あなたは発想が色々とアウトです。
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