第40話 セレクトランジェリーと三人の夢が叶うとき




「うわああああ……く、黒、黒でいいんじゃないかな!」



 いきなり情けない叫び声を出してしまって申し訳ない。


 買い物に来たら、幼馴染みのハイスペック美女二人に女性物の下着販売エリアに連れ込まれたのだから、平均的男子高校生はこういう声を出すしかない。



「もーリュー君、ちゃんと選んでくれてますー? フェリー旅でリュー君が脱がせるランジェリーなんですから、もっと厳選をしてくれないと」


「黒か。リューって大人な女が好みなのか。じゃあこれだな」



 高校の終業式の帰り道、俺たち三人は夏休みに行くフェリー旅で必要そうな物を買いに商業施設へ来た。


 ここは大体何でも売っているので楽なのだが、最初に女性物の下着を買いに行くとは思わなかった。


 黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘カレンが黒い下着を手に取り、レジへ持っていく。


 しかし二人ともアルバイトをしたから多少お金に余裕はあると思うが、フェリー旅に行くのに下着の充実度を上げるのって、優先度低めじゃあないの?


 でも好みの下着を付けることによって、自分のテンションが上がるって話も聞いたことがあるし、そういうことなのだろうか。


 黒い下着を買ったミナトとカレンが満足気だし、まぁいいか。




「酔い止めも買ったし、あとはなんだろうか」


 薬局で錠剤タイプ、ドリンクタイプの酔い止めを買う。


 ネットを見た限りでは、普通の旅行と違い船旅だから必要って物はあまり無いという体験記を見たので、こんなものだろうか。


 あとは個人で持っていきたいものを考える、ぐらいか。


「睡眠改善薬ですかぁ、そっかぁ……ドラックストアで買えるのはここまでですかぁ」


 黒髪お嬢様ミナトが薬の箱を見ながら唸っている。


 睡眠……ちょ、それ、必要ないって!


 い、いや……もしかしたらミナトは不眠症で悩んでいて、応急処置的に使おうとしている可能性もあるか。


「でもよミナト、眠らせちまったらリューの反応が見れなくないか? やっぱ声が聞きてぇだろ、あの時ってよ」


「ああー、そういえばそうですね。リュー君が私たちを楽しんでいる声、聞きたいです。となると、やはり拘束系でしょうか」


 なんなの……二人は一体何の話をしているの?


 フェリー旅の準備に、拘束系とかいうワードは普通出てこないと思いますが……。




 その後フードコートに移動して、フェリー旅のスケジュールの確認をする。


「大まかに言うと、夕方にフェリー乗り場に行って乗船、翌日お昼過ぎに北海道の港に着く予定かな。その後は北海道のホテルに移動して、そこからは北海道観光、で、翌日夕方に飛行機で帰ってくるルート、と」


 細かなタイムスケジュールはすでに二人に送ってあるが、再度の確認。


「フェリーでたっぷりお楽しみのあとは、北海道観光ですかぁ。向こうでも時間があれば、可能な限り楽しみましょう。そうですね……北海道のホテルから出ないで、ずっと楽しむのもありかと……なんだか夢のような行程です、ふふふふふふふ」


「リューが二人相手にへばって、翌日フラフラじゃないといいけど、まぁ大丈夫だろ。なんなら全部こっちが動くから、リューは寝てるだけでもいいしよ、あはははは!」

 

 あれ、なんだか二人の返答が微妙に別方向のような……まぁとっくにスケジュールは把握済みで、冗談言えるぐらい余裕ってことか。



「ふふ、もうすぐですね、リュー君。フェリー旅に行くためにアルバイトを三人で頑張って、何度も会って話し合って、合間にカラオケを楽しんだり、バイキングや買い物にも一緒に行って……まだ船に乗っていないのに、すでにとても多くの思い出が出来ています。そしてフェリーの旅が始まったら、またさらに三人での思い出がいっぱい出来る……。そう、私はこういう時間が欲しかったのです。中学のときには出来なかった、三人一緒の思い出。ああ、嬉しい……今が、このフードコートで話している時間ですら、とても楽しい。ありがとう、リュー君。こんな素敵な時間を私たちにくれて」


 休憩もそろそろ終わり、というところで、黒髪お嬢様ミナトが優しい微笑みで俺を見てきた。


 あれ、これさっきまでの冗談モードじゃないぞ。


「あ、いや、俺個人の夢に付き合わせて申し訳ないな、と思っていたから、そう言ってもらえると救われるよ」


 裏を返せば、フェリー旅に行く為に、二人の貴重な時間を奪ったとも言える。もしかしたらミナトにはミナトの、カレンにはカレンの夏休みの予定があったかもしれないんだ。


「やめろよリュー、嫌々お前に付き合ってるわけじゃねぇよ。私たちがリューと一緒の時間を過ごしたいと願ったんだ。でも願っただけでは叶わない。どうしたらと迷っていたら、リューが行動を起こし三人を引き寄せ、フェリー旅という目的を作ってくれたおかげで私たちはそれに向かって、自然と一緒に行動が出来た。全部リューがやってくれたことだ。今この瞬間、三人で笑い合えている時間、これこそ私たちが願った夢。リューは私たちの夢を叶えてくれた。やっぱりリューはかっけぇ、一緒にいて楽しい、私の言葉遣いが悪くても、態度が悪くても、その全てをまっすぐ受け止めてくれる。うん、子供の頃から思ってたけどよ、今確信した。私はリューの夢が叶う瞬間、そのとき一緒にいたい。だって私は、双葉カレンは虎原リューイチが大好きだから」


 金髪ヤンキー娘カレンがまっすぐ俺を見て言ってくる。


 俺の夢が叶う前に、俺が二人の夢を叶えていた?  


 三人、子供の頃のように仲良くしたかったのは俺も同じだったけど……


「え、あれ、カレン? 今リュー君に告白しませんでした? まったく油断も隙もない……はーい、私も、私もリュー君が大好きなんでーす」


 カレンの言葉にミナトが驚き、右手を挙手してくる。


「かっる……! ミナトよぉ、焦り過ぎで色々端折り過ぎだぜ。あはははは!」


「大丈夫ですー、リュー君は例え短い言葉でも私の気持ちを理解してくれる恋人のような仲なんですー。ねーリューくーん」


 ええっと、とりあえずこのフードコート、結構混雑しているって理解して。


 すっごい見られているから、周りに。


 もう買い物は大体済んでいるし、今日のところはここまでにしよう。



「はぁ……さ、行くぞ二人とも。用事が済んだから席を譲らないといけないし。……俺だって二人が好きだから誘ったんだ。俺の夢が叶う瞬間にミナトとカレンが側にいてくれたら最高だなって。一緒に来てくれて、二人には感謝しかないよ」


 俺は立ち上がり、興奮する二人の手を握る。


「あ、そうですね、周りの迷惑に……ってリュー君? 今私たちに告白しませんでした?」


「したよな、今。おいリュー、言うならハッキリ言え。あとフェリー旅のときの密室のときにもう一回言え。すぐにヤれる状況で言ってくれないと、もったいねぇだろ!」


 今俺が言った言葉に嘘はないが、密室でもう一回言えとか意味わからないです。



 さぁあと一週間ちょっとで俺の夢が叶う。


 しかもミナトとカレン、この二人と一緒に夢を叶えることが出来る。


 頼むから俺の今の顔は見ないでくれよ、嬉しすぎてとんでもなく緩んだ笑顔だから。















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