第34話 ホテルでバイキング形式を先行体験



 球技大会翌日の平日。


 学校は疲れを癒す日、とういことでお休み。


 

「ではリュー君、これを甘い言葉をかけながら私たちに渡して下さい。ふふ」



 午前十時、俺の実家の喫茶店にハイスペック美女の二人、ミナトとカレンが集合。


 黒髪お嬢様ミナトが微笑みながら何かのチケットを手渡してくる。


 

 何やら川瀬グループのお嬢様であるミナトが、街の中心部にあるお高いホテルのお食事券をゲットしたらしい。


 それを一回俺に渡すけど、俺が二人に再配布しろ、と。しかも二人をデートに誘う感じで雰囲気出してこい、と圧をかけられている状況。


「カレン、とても頑張ったんですよ、リュー君?」


「そ、そうだぜ、お前の為に優勝したんだぞ。ご褒美……ないのか?」


 複雑な顔をしている俺に二人が不安そうになる。


 いや、カレンは昨日頑張った。それはその通り。ご褒美は必要だと思う。


 でもこの状況は、かなりお高いチケットを用意してくれたミナトにお礼を言う場面では。



「まぁいいか……。まずはミナト、ありがとう。クラスのみんなでの思い出を作ろうと、カレンをやる気にさせる作戦に出たんだよな。そしてカレン、ありがとう。昨日のカレンの活躍が無ければ、クラスのみんなの笑顔は見れなかった。これはミナトが手に入れてくれたチケットだけど、これを使わせてもらって、俺たちだけの優勝の打ち上げと行こうか!」


 俺は二人に向かってチケットを差し出し、二人を誘う。


「はい、リュー君に誘ってもらえるなんて嬉しいです。疲れたらホテルでご休憩も出来ますので、期待していますね。うふふふ」


「え、ホテルでご休憩あるのか? じ、じゃあ飯とかどうでも良くね? 最初からご休憩しようぜリュー!」


 俺が手渡したチケットを受け取り、ミナトが不気味に微笑み、カレンが元気に拳を突き出してくる。


 ホテルでご休憩って何? 


 お食事券だけじゃあないのか、これ?


 



「こちらですね、では参りましょうか」


「おおぅ……なんか高級そうだぜ……。そっか、ここが私の最初の場所になるのか」


 黒髪お嬢様ミナトのご自慢の黒塗り高級車で送ってもらい、現地に到着。


 運転手をしてくれたイケメンハーフのジェイロンさんが俺に向かってグイっと指を突き出しているが、アレはなんの合図なの。



 ちなみに黒髪お嬢様ミナトの服装は、深緑のドレスみたいなやつ。なんかキラキラした装飾がいっぱい付いていて、みるからにお高そうな服だ。


 金髪ヤンキー娘カレンは、紫のシャツに紫のスカートという出で立ち。


 なんか二人ともホテル仕様なんだけど、俺は普通の黒ズボンに白いシャツ。


 うーん、二人は見た目モデル級なので、ちょっと着飾ると大人顔負けのオーラを出せるのだが、その横に配置されている俺が、ザ・高校生男子、で申し訳ない……。


 あとカレンの言う、私の最初の場所って何。


 確かこれ、ホテルバイキングのチケットだけど、バイキング形式で食べる食事が初めてってこと?




「少し調べてみましたら、フェリーのレストランでのお食事はバイキング形式が一般的だとお聞きいたしまして。偶然こちらのチケットが手に入りましたので、バイキング形式というものを一度体験しておきましょう、と。ふふ」


 ホテルレストランでチケットを渡し、案内された席についたらミナトが今回の目的を言う。


 ああ、そういやフェリーでの食事はバイキング形式が多かったな。


 持ち込みも出来るし、冷凍食品やカップラーメンの自販機もあるが、どうせならフェリー内レストランに行こうと思っている。


「そうか、なんか悪いなミナト。色々気を使わせてしまって」


「いえ、それほど私は楽しみにしている、ということです。ふふ」


 俺が謝ると、ミナトが満面笑顔。


 まぁ俺も楽しみにしているが、こういうのって、そこまでの準備期間も楽しい、ってやつだよな。


「こ、これどうすんだ? 向こうにキラキラしたケーキとかあっけど、勝手に取りに行っていいのか?」


 金髪ヤンキー娘カレンが俺の服の袖を引っ張り、キョロキョロ周りを見ながら聞いてくる。


 昨日の球技大会での自信満々の虎みたいなカレンとは打って変わって、今日は随分と怯えるヒヨコみたいな動きだな……。


 なんか普段堂々としている金髪ヤンキー娘カレンなのだが、不安そうに俺に頼ってくるとかギャップがすごいな。


 ちょっと可愛い……。



 三人でお皿を持って美味しそうなメニューから好きなものを取り、席に戻る。


「目の前でお肉焼いてくれるのですねー。これは満足度が高いです、ふふ」


 黒髪お嬢様ミナトは、慣れてます、といった動き。


 焼き立てのステーキをメインにして、サラダと高級そうなフルーツなどをチョイス。


 まぁミナトはお嬢様だしな。高級なレストランにも、バイキング形式にも経験があるのだろう。


「なんか蕎麦とかラーメンがあってよ、豪華に両方持ってきちまったぜぇ」


 対して金髪ヤンキー娘カレンは、お蕎麦とラーメンの二刀流でご満悦。


 男子高校生夢のセット、みたいなやつじゃん、それ。


 そしてそのセットいいな! ……うん、俺庶民だし。


「しまった、ラーメンとかあったのか。俺夢のカレーセットにしてしまった……」


 俺が選んだのは、ビーフカレー、海鮮カレー、チキンカレーにドライカレーの四種の神器セット。


 ホテルのカレー、どれも美味そうで……つい……。ラーメンもいいなぁ。


「リューよぅ、カレー四つっておかしいだろ。私も次それにしよ。あはははは」


 俺のカレー四種盛りを見たカレンが爆笑。


「ふふ、いいのですよ、バイキング形式なのですから。自由に食べていいのです」



 俺とカレンの庶民の動きを、優しい笑顔で見守るミナト。


 もしかしてバイキングって……育ちの差が出るイベントなのか……?

















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