第33話 クラス対抗球技大会




「球技大会に向けての対策を考えましょう」



 第一回定期試験が終わったと思ったら、今度はクラス対抗球技大会が始まるらしい。



「ではそれぞれ、出てみたい競技を紙に書いて下さいね」


 クラス委員である黒髪お嬢様のミナトが、教壇に立ちホームルームを進行させていく。こういうのはミナトに任せておけば、大体上手く進む。


「ひひ……どうする? 俺たちは数合わせにもならないけど、うちのクラスには双葉さんがいるし、余裕だよな?」


 前の席の佐吉がニヤニヤと俺を見てくる。


 どうするって、適当に一個出たらおしまいに決まってんだろ。


 俺の運動能力なんて、ごく普通の高校生並み。何が得意も無い。


 カレン? そりゃあカレンの運動能力の高さはズバ抜けているが……多分こういうイベント、面倒がってサボるんじゃないかな。


 中学のときにも似たようなイベントがあったが、学校に来ないでサボってたし。


「ダル……」


 俺の右隣の席の金髪ヤンキー娘カレンを見てみると、かったるそうにポケットに手を突っ込み、大あくび。


 これは無理そうだな……。まぁクラス対抗と言いつつ、別に優勝したところでご褒美は無い。みんなで頑張りました、という思い出はプライスレス、といった感じだろうか。


 とりあえず一つは出ないとならないので、まぁまぁ出来るソフトボールに希望を出してみるか。


 俺は野球を見るのもやるのも好きなのだが、球技大会に野球はなく、男女混合チームによるソフトボールしかない。なんとなく似ているし、それにしてみよう。


「俺はソフトボールにしようかなぁ」


「ひひ、了解。俺もそれにする」


 俺の呟きに佐吉が反応。お前サッカー好きで走るの得意なんだから、サッカーに行けよ。


「あぁ? んだよ、リューはソフトか。これあれか、もっとこう男女が熱く抱き合ってゴールするとかいうの、ないのか?」


 俺が紙にソフトボールと書いていたら、右からダルそうな声が。


 カレンよ、これが球技大会だって分かっているかな。その、男女が抱き合ってゴールってどういうルールか分からないが、どこに球技要素があるんだよ。


「ってソフトって男女混合チームかよ! やる、私ソフトやるぞ。リューと仲良くバッテリー組む」


 急に何か閃いたらしいカレンが、大急ぎで紙に書き込みを始める。


 俺とバッテリー? もしかして俺、捕手やらされんのか? まぁいいけど。





 球技大会当日。


 男女別の競技、バレーボール、バスケットボール、テニス、サッカーが行われ、うちのクラスは現在三位。


 実はこの球技大会、一年生から三年生の全てのクラスの対抗戦。


 毎年上位は三年生のクラスで独占されるものらしい。


 それが今年は異変が起き、なんと一年生チームがただ一つ三位にランクイン。お昼までの競技結果が張り出され、学校中がザワめいている。



「あはははは! やったぜリュー! 見たろ私の活躍を!」


 そう、この異変の全ての原因がこの女性、俺の幼馴染みのハイスペック美女の一人、双葉カレンである。


 よく分からないがカレンが急にやる気を出し、参加出来る競技全てに出場。


 各部活のエース率いる三年生チームを簡単に打ち破り、連戦連勝。


「すごいですねーカレン。やっぱりエサが良いと、伸びる子なんですね。うふふふふ」


 お昼休憩、グラウンドの端っこに座って売店のパンを食べていたら、ミナトとカレンが見つめあってニッコリ。


 エサ? なんの話をしているのか、二人は。




 午後からはついに俺の出番。男女混合ソフトボールの試合が始まる。


「おらぁああああ!」


 一番バッターである金髪ヤンキー娘カレンが、一球目のボールを豪快に捉える。


 ガツーンと重い音が響いたと思ったら、ボールはとんでもない速度でグラウンドを超え場外へ。


 先頭打者ホームラン……マジかよカレン……。一応相手は三年生チームで、向こうの投手は女子ソフトボール部のエースらしいんですけど。


 つかカレン、午前中フルで競技に参加して、疲れとかないんですか。


「ふふふ、えぇーい」


 黒髪お嬢様ミナトも当然参加していて、彼女も俺と同じソフトボールに希望を出したらしい。


 カレンに続き二番バッターとして出るが、ボールが捕手に届いてから優雅にバットを振るというお嬢様ぶり。


 うん、ミナトはそれでいい。怪我さえしなきゃあいいのだ。



 その後、カレンが投手で俺が捕手というバッテリーで、男子野球部が何名も在籍する三年生チームから空振りの山を築く。


「見つめ合う私とリューの間に立ち塞がりやがって……邪魔すんじゃねぇええ!」


 なんとなく事前にサイン、外すか勝負するかは決めたが、俺の指示丸無視でカレンが剛速球を放り込んでくる。


 これ、ソフトボールだよな?


 ミット越しでも手が痛いぐらいの、とんでも投球なんですけど、彼女。


 見つめ合うってのは、単にサインのやり取りをしているだけな。そして打者が投手と捕手の間に立つのは当たり前のことだろ。邪魔しているワケじゃあない、そういう球技だ。



「おらぁあああ! ゲームセットだ!」


 金髪ヤンキー娘カレンが叫び、三年生チームの最後の打者を打ち取る。


 学校ルールで試合は五回までなのだが、終わってみればカレンの二打席連続ホームラン。2-0でうちのクラスの勝利。



 そしてそのままトーナメントを勝ち進み、見事クラス対抗ソフトボールで優勝。


 最初の三年生チームが一番強かったかな。それ以降は相手チームの守備の乱れで、カレン以外の打者でも点が取れていたし。


 ああ、俺は三振王でした、と。



「やりましたね、皆さん。ソフトボールの結果を加算した結果、うちのクラスが総合優勝となりました!」


 全ての競技が終わり、結果発表。


 ミナトが嬉しそうに報告しているが、三学年総当たり戦で一年生チームであるうちのクラスが優勝だそうだ。


 どうにも過去に例がないらしく、担任の先生が大喜びだった。 


 つかうちのカレンさんが規格外過ぎ。


 バレー、バスケット、テニス、サッカー、ソフトボールと、全てその部に在籍する現役エース相手に真正面から勝負挑んで勝つとか、恐ろしすぎる。



 黒髪お嬢様ミナトは学力トップで、金髪ヤンキー娘カレンが運動能力がズバ抜けていて、まさにハイスペックな二人、である。


 そして見た目も美しいとか、まさにチート。



「ふふ、じゃあリュー君、ご褒美で明日はデートですね」


「おう、優勝したらリューが飯に誘ってくれるって聞いたんだが」


 総合優勝でクラスメイトが集まって盛り上がる中、女性二人、ミナトとカレンがさっと俺の左右にくっついてきて微笑む。


 ご褒美? デート? 飯?


 はて、どれも球技大会のルールには無かったものだと思うが、



 明日は平日だが、球技大会の疲れを癒す日、ということで学校はお休みとなっている。


 記憶には無いが、俺って二人と何か約束したっけ?
















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