第24話 完成チキンカレーと勇者パーティーの結成
「よし、完成だ! 喫茶虎原の人気メニュー『チキンカレー野外学習版』どうぞ召し上がれ」
高校の野外学習で来たキャンプ場。
グループごとに分かれカレーを作るというイベント真っ最中。
俺のグループは、実家の喫茶店の人気メニュー『チキンカレー』を作成。
調理中に色々トラブルはあったが、無事完成だ。
「うん、これ、これだよリュー君! ああ……こんな美味しいカレーを一生食べることが出来るんだもんなぁ……私って幸せ者すぎるかも……」
出来たカレーに一番でスプーンを差し込んだのは、黒髪お嬢様ミナト。
一口含み、身体を震わせて喜びを表現し、満足気な顔で虚空を見つめる。
い、一生? ま、まぁうちに来てくれれば食べられると思うけど。
「おぅ、いただくぜ……そう、この後乗せチキンがいいんだよな……うん、美味いぞリュー! 一緒に作ってて思ったけどよ、やっぱ私とリューって相性良いよな!」
金髪ヤンキー娘カレンも一口。
ほとんどの調理は俺とカレンでやったからな。やはり自分で作った物は美味いよな。
相性? お互い料理経験者だから、少ない指示で作業の分担が出来たけど、それのことを言っているのか? 経験の成せる業、ではなく?
まぁカレンとは付き合いが長いから、阿吽の呼吸で出来たのは確か。
「リューイチ、お前マジで料理上手いよな。こりゃあいつでも結婚出来るな、ひひ」
悪友佐吉もカレーを食べ、ミナトとカレンをチラリと見てからニヤリと笑う。
料理は得意だぞ。つか出来ないと喫茶店の息子はやってられん。
「結婚……! うん、リュー君とならいいよ! 料理は私もこれから覚える……! こ、今回ご飯は作ったの! ね、リュー君」
佐吉の視線に黒髪お嬢様ミナトが反応。
ミナトも言っているが、ご飯は彼女に担当してもらった。
といってもお米を研いでもらっただけだが……いや、充分な働きだ。ありがとうミナト。
「あああ……まさか川瀬さんと双葉さん、二人の手作りカレーが食べられるとは……! よかった、虎原とゲーム仲間で良かった……!」
「美女二人の合作……これ一生の自慢だぜ! うまい、うまいぞぉ! おかわり!」
俺のゲーム仲間である浜野と久我山がチキンカレーを食い、涙を流す。
彼等にはご飯担当であるミナトのサポートについてもらい、重い物は彼らに運んでもらった。
俺も作った一人だけど……まぁいいか。
大まかに言えばミナトとカレン、俺の幼馴染みのハイスペック美女二人の手作りカレーであることに間違いはない。
お米の火の管理をしてくれたのは悪友佐吉ではあるが、お米を研いだのはミナトだしな。
「ひひ、周りの奴等、羨ましそうに見てるぜ」
火の管理者佐吉がカレーを食いながら、周囲のクラスメイトの様子を見る。
そういやあまり周りを見ていなかったが、まだカレーが出来ていないグループもあるな。
初心者の集まりだと、手間取るのは仕方がないか。
周囲の、主に男たちの視線が確かにすごい。みんなミナトとカレンを見ている。
モデルさんとか芸能人クラスの見た目のミナトとカレン、彼女たちが作ったカレーを食べたい気持ちは、とても分かる。
そしてその二人が同時にこのグループにいるって、正直俺の今の状況って、すごいことなんだよな。
「さて、手伝ってくる。カレーが出来ないと、みんなの自由時間がなくなるしな」
俺は手早くカレーを食い、片付けを佐吉、浜野、久我山に頭を下げ任せ、周囲のカレー作りに手間取っているグループに声をかけに行くことにする。
このあとは帰りのバスの時間までは川で遊ぼうが、ちょっと歩いて海に行こうが自由のフリータイムなのだが、カレーが出来ないと自由時間に入れない。
「ああ……さすが私のリュー君! みんなを助けに行くとか勇者すぎる! 私も行く、だって僧侶の私とリュー君ってセット販売だし!」
「かっけぇなぁ、リュー。いいぜ、困っている人を助けたいっていうリューの想いは最高にかっけぇ。私もついていく。私は……戦士か武闘家かなぁ、あはは」
あれ、なぜかミナトとカレンも付いてきたぞ。
俺が勇者でミナトが僧侶? カレンは……そうだな、足が長くて綺麗だから武闘家かな。
セット販売とかも意味が分からないが、俺は二人を引き連れ周囲のグループのカレー作りを手伝いに行く。
「うわぁ……! 川瀬さんと双葉さん……! え、手伝ってくれるの? ありがとう!」
「か、川瀬さんと双葉さんの手作りカレー! しゃ、写真いい? やった!」
何グループかを周り、カレーの完成間近まで補助をしてあげた。
……なぜか彼等、彼女たちの視線は、全て俺の両側にいたハイスペック美女二人、黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘カレンに向いていたが。
カレー作りの補助、やったのほとんど俺なのよ?
記念写真もミナトとカレンが了承したので、みんな撮っていたが、多分俺はフレームに入っていなかったな。
実際映えるのは目立つミナトとカレンだし、まぁいいけど。
「ったくあいつ等……なんでリューにお礼を言わねぇんだよ……! 一番かっけぇことしてんのに!」
「私たちばかり見て、リュー君の華麗な調理を見ないとか意味が分からないです。もうっ!」
手伝いを終え、佐吉たちの元への帰り道、二人が不満を漏らす。
いやいや、ちゃんとお礼は言われたよ。
そのあとのミナトとカレン、二人が来てくれたという反応の声のボリュームのほうが、遥かに大きかったけども。
「ひひ、じゃあ自由時間……邪魔者の俺たちは消えるからよ、かわりに写真の一枚ぐらい、いいよなぁ?」
佐吉と合流し、片付けのお礼を言う。
ニヤニヤ顔の佐吉が自分の携帯端末を指してくるが……写真? ああ、このグループで炊事体験をしたっていう記念写真か。
「うん、みんな頑張ったもんね。撮ろう!」
「いいぜ。重い物運んでくれたし、火の管理もしてくれたしな。なにより私のリューに認められている三人だ、遠慮はいらねぇぜ」
ミナトとカレンを見ると、二人とも前向き。
まぁ記念の写真は大事だ。
六人で記念写真を撮ると、浜野に久我山が大興奮。ミナトとカレンの二人と一緒に写真を撮れたことが、本当に嬉しかったらしい。
「ひひ、ありがとな。じゃあリューイチ、あとは上手くやれよ? 海のほうは誰も行っていないから、そっちに行け。甘い言葉の一つや二つ、お前でも言えるよな? 二人を押し倒す勢いで行け」
佐吉が撮った写真を確認し、ひひ、と嫌な笑みを浮かべる。
そして俺の耳元で不気味に囁き、浜野と久我山を連れて河原へと消えていく。
ちょ、六人で遊ばないのかよ。消えるって……そういう意味かよ。
「あれれ、気を使わせちゃったかな……四ツ原君、勘が鋭いからなぁ。ね、リュー君?」
「じゃあリュー率いる、私たち三人パーティーの冒険はここからだな。勇者に命令されたら、パーティーメンバーは従うしかないからよぉ。なんでも言えよリュー、私は抵抗しないぞ」
ミナトとカレンが消えていく佐吉たちを見送り、くるりと俺のほうを向いてくる。
え、何? 勇者パーティーが海で二人を押し倒す?
無理だろ。
まず開口一番、武闘家カレンの蹴りで勇者リューイチが教会送りになる映像しか浮かばない。
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