第23話 カレー作り役割分担と二人の美女の冷えた手の行先




「はいリュー君、あーん。ふふふ」


「こういうのベタだけど、やると餌付けしてるみたいで楽しいな。ほらリュー、食え」



 高校の野外学習、当日。


 学校の前からバスでスタート。


 授業なので、体育用のジャージ着用。


 天気は快晴で、絶好の野外学習日和だな。


 バスはなぜか一番後ろの席になり、左右に陣取った黒髪お嬢様ミナトと金髪ヤンキー娘カレンが俺の口の中にお菓子をバンバン入れてくる。


 餌付けって……。




「ではここからはグループごとに行動なー。なんかあったらすぐ先生の所に来るように」


 バスを降り、先生とキャンプ場の職員さんから注意事項を聞く。


 学校から一時間ちょいで着いたのは、こないだ三人で来た海の近くの高級タワー型リゾートホテルが見える河原。


 正式にはキャンプ場だそうで、設備もしっかり整っている。


 基本のカレーセットは用意されてあって、あとは手順通りに作るだけ。


 アレンジは自由。


 俺のグループは、実家の喫茶店の人気メニューでもあるチキンカレー。


 鶏肉を俺が家から持参したので、それで作ろうかと。

 

 っても鶏肉を別に焼いて、カレーの上に後乗せするだけの簡単な物だけど。



「じゃあまずは鍋炊きご飯な。米を研いで三十分ぐらい水入れて放置。その間に野菜処理。そしてお米も炊いてカレーのルーを煮込む。いい感じに出来上がってきたら、最後に鶏肉焼いて完成」



「わーすっごい、さすがリュー君! 手順がいいなぁ。で、私は? 私は何をすればいいの?」


 俺が簡単に説明をすると、黒髪お嬢様ミナトが褒めてくるが、手順の説明にさすがも何もないだろ。


 それにさっきキャンプ場の職員さんから、カレーの作り方の手順が載ったプリント、もらったろ。


 うーん、正直俺一人で作ったほうが速いが、こういう授業だしな。


「ミナト、悪いがお米を研ぐ担当を頼む。浜野と久我山、ついていって、重いもの運ぶときはやってくれ。カレンは俺と野菜の処理。佐吉は火を起こしてくれ。じゃあスタート」


 このグループでの料理経験者は俺とカレンのみ。


 なので俺とカレンで手早く野菜を切り、ルーを作る。


 ミナトがなぜかやる気いっぱい。でも包丁は持たせられないので、誰でも出来るお米研ぎをやってもらおう。


 佐吉は家族でのキャンプ経験者らしいので、火の担当。もうすでにキャンプ場側で石は組んである。


 お米は深めの鍋で炊く。


「えええええええ……リュー君と一緒じゃないの……? カレンだけずるい! イヤイヤ、私もリュー君と一緒に愛を育てるー!」


 黒髪お嬢様ミナトが身体を震わせ不満を言う。


 ああ、もう……なんだよ愛を育てるって……カレーを作るんだっての。


「ミナト。俺、今日君が作ってくれるご飯を楽しみにしていたんだ。お願い……出来るかな?」


「……!! うん……うん! 頑張る、リュー君のご飯は私が作るの! 待っててリュー君!」


 俺は優しく微笑み、ミナトの目を真っすぐ見つめて言う。


 するとミナトが顔を真っ赤にし、鍋を持って水場にダッシュ。


 ゲーム仲間である浜野と久我山に目で合図を送り、ミナトのカバーをお願いする。


「ず、ずるいぞリュー……ああいう甘い感じ、私にもやってくれよ!」


 今度は、その様子をじーっと見ていた金髪ヤンキー娘カレンが包丁を持って暴れだす。


 ま、待て……! まず包丁を置け!


「カレン。今日は俺の横で補助を頼めるかい? これは君にしか出来ないんだ」


「きた……! お、おう任せとけ! そうだよな、リューの横にいれるのは私だけだよな! あははは!」


 俺は人参を渡しつつ、カレンに微笑む。


 実際、料理経験者はカレンだけだし、頼りにしている。



「ひひ……役者役者。川瀬ミナトと双葉カレン、この二人をコントロール出来るのって、リューイチだけだよな」


 火起こしをしていた佐吉が、嫌な笑顔で俺に言う。


 コントロールって……そうじゃなくて、お願い、だっての。




「出来たよー、リューくーん! これでリュー君にご飯を食べさせてあげられるね、ふふ」


 野菜をカレンと分担して処理していたら、水場からダッシュで戻ってきたミナトが俺にピッタリくっついてくる。


 ちょ、包丁を持っているので、そういうのは危ないっす。


 ってあれ、その、肝心の研いだお米は?


 鍋を持ってダッシュしていったミナトだが、帰りは手ぶら。はて、お米どこいった。


「虎原ー、お米の鍋はここでいいのかー?」


 お米の行方を探していたら、水場のほうから浜野と久我山が水が入った重そうな鍋を運んでいた。


 まぁミナトには持てない重さだしな。


「ああ、ありがとう。そこに置いといてくれ」


「……リュー君? ねぇねぇ」


 俺にピッタリくっついていたミナトが、不満そうに俺の服を引っ張る。


「おっと、ありがとうミナト。水でお米研いで手が冷たいだろ。佐吉が火を起こしてくれたから、そこで温めてくれ」


 そうだ、ミナトにもお礼を言わないとな。


「うん、私頑張ったんです。冷えた手は、リュー君に温めてもらうー」


 俺が微笑むと、ミナトもニッコリ笑い、後ろから俺の上着のポケットに手を突っ込んでくる。


 ちょ、何で俺のポケット……!


「ずっりぃリュー! ミナトにだけ優しくするとか……! 私も手が冷たいんだけど……よし、ここ開いてるか!」


 野菜を処理していたカレンがまたもや激怒。


 そして次の瞬間、カレンが迷い一切なしで、俺のズボンのポケットに両手を突っ込んでくる。


 ほごぉぉお! 


 や、やめてカレンさん、あんまり深く手を突っ込まれると、その先の住人がビックリするんで……!



 浜野と久我山が、俺の上着とズボンのポケット両方に美女二人が手を突っ込んでいる様子を目の当たりにし、驚きと呆け顔。


 佐吉はニヤニヤしながら俺の携帯端末を構える。


 ちょ、お前いつの間に俺の携帯端末を……やめろ、この場面は撮るな!


 絶対に説明が出来ないから……!


 

「はい、笑顔ー」


 佐吉がミナトとカレンに向かって指示。


 すると二人が、俺のポケットに手を突っ込んだままニッコリ笑顔。


 や、やめろ佐吉、これは撮っちゃいけない……


「リューイチのセクハラ写真、ゲットだぜ」


 無情にもパシャと音が響き、写真が撮られる。



 ……なぜこの状況で俺のセクハラになるのか。


 どう転んでも俺は受けたほう、だと思うが……



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る